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借主から見た建物賃貸借契約書のチェックポイント

建物(戸建て、マンションなど)を借りる際、賃貸借契約書を交わすのが通常です。

契約書がなくても契約は成立しますが、どのような条件で貸し借りしているのかを明らかにしておくことで、後日の無用な紛争を防止することができます。契約書はきちんと作り、その内容を貸主借主双方が十分に理解しておく必要があります。

ここでは、主にこれから建物を借りようとする賃借人の方のために、建物賃貸借契約書の主な内容とチェックすべきポイントを解説します。

1.国土交通省のひな型について

賃貸借契約書の形式は特に決まっているわけではありませんが、国土交通省が、紛争防止のために標準的な契約条項を盛り込んだひな型を公開しています。

実際に賃貸人と契約書を交わす際、必ずしもこのひな型の内容が網羅されているとは限りませんが、もし賃貸人から示された契約書を見て足りないところ、不安に思うことがあれば、このひな型を参考に、特約などを追加してもらうのがよいでしょう。

以下、この国土交通省の「ひな型」を参考にして、説明していきます。

【参考】「国土交通省『賃貸住宅標準契約書』について
【参考】「同『賃貸住宅標準契約書 平成30年3月版・連帯保証人型』」

2.頭書の部分

ひな型では、まず「頭書」として、その賃貸借契約の内容の最も中心的なことがまとめて記載されています。

なお、このひな型のように頭書と本文に分ける形式でなく、個別の契約条項にすべての必要事項を盛り込む形式の賃貸借契約書もあります。

(1) 賃貸借の目的物

まず、「(1)賃貸借の目的物」のところで、借りる物件の情報が詳しく示されています。

その物件を探した際の物件情報、内見して確認したり不動産業者や貸主から説明を受けたりした設備の状況などと、契約書の記載に違いがないかを確認しておく必要があります。

また、駐車場や駐輪場、宅配ボックスなどの共用設備を利用できるかなどもチェックしておくとよいでしょう。

(2) 契約期間の定め

ひな型「(2)契約期間」のように、賃貸借契約では必ず契約期間が定められます。

居住用の物件の場合、契約期間は2年ないし3年とするのが一般的です。この期間は原則として、賃借人に契約違反などがなければ、賃貸人の都合で一方的に契約を途中で打ち切られて退去を求められるようなことは原則ありません。

契約の更新と更新料

契約期間は更新が可能で(ひな型第2条第2項)、賃貸人と賃借人が合意すれば、多くの場合、当初の契約期間と同じ期間で契約が延長されます。

契約更新は契約内容を見直す機会にもなりますが、賃貸人の都合で更新を拒絶するためには借地借家法28条によって正当事由(建物老朽化による立替の必要や立退料の支払など)が必要とされています。

正当事由が認められない場合には双方の合意がなくても法定更新として自動的に契約が更新され、賃貸人はこれまでと同じ契約条件で住み続けることができます。ただし、契約期間の定めはなくなるため、賃貸人が正当事由を備えて再度解約を申し入れた場合は、契約は終了します(借地借家法26条1項)。

[参考記事] アパートの賃貸借契約における中途解約条項|解約の条件は?

【定期建物賃貸借契約】
なお、最近は契約の更新のない定期建物賃貸借契約も増えています。定期建物賃貸借契約(定期借家契約とも言います。借地借家法38条)とは、貸主と借主が合意により再契約をしない限り、上記のような法定更新が認められず契約期間が過ぎれば契約が終了してしまうものです。
定期建物賃貸借契約とするためには、書面による契約であることと、賃貸借契約書とは別に定期建物賃貸借契約であって更新がないことの説明が記載された書面を賃貸人が交付して説明しなければならないという条件が必要です。
更新できるかは借りる側にとって大変重要なことですので、定期建物賃貸借契約かどうかは必ずチェックして下さい。定期建物賃貸借契約でない場合は、契約書に「普通建物賃貸借契約」と表示されていることが多いです。
【参考】普通建物賃貸借と定期建物賃貸借の違いを解説

(3) 賃料等

「(3)賃料等」については、家賃本体と共益費が具体的にいくらなのかを必ずチェックしましょう。

共益費以外にも、町内会費や○○使用料といった費用(エレベーター、駐輪場、ロッカールーム、インターネットなど)が必要な場合もありますので、その物件に住むにあたって実際にいくら必要なのか確認が必要です。

またこれら賃料等の支払いについて、毎月何日までに、いつの分(翌月分を当月末払いなどの定め方が多いです)を、どんな方法(振込、自動引落、大家さんへの手渡しなど)で支払うのか、も確認しておく必要があります。

さらに契約締結の際にまとめて支払う必要がある敷金や一時金(礼金や賃料の前払いなど)の金額の確認も重要です。

なお、賃貸借契約書に収入印紙を貼る必要はありませんので、「印紙代」の支払いを求められた場合は注意しましょう(一定の例外あり)。

(4) 賃貸借契約の当事者の表示

ひな型「(4)貸主及び管理業者」「(5)借主及び同居人」のところには、契約の当事者、関係者の連絡先が記載されますので、確認が必要です。

特に管理業者が入っている場合には、日常の不具合などの連絡はこちらにすることを求められることが多いので確認しておきましょう。

借主及び同居人欄には、実際に住む人の情報を正直に書く必要があります。子どもが生まれたなどの事情を除き、後から同居人が増えたというのは賃貸人から契約違反だとして契約解除される可能性があります。

もし契約当初は同居しなくても、その後同居人が増える予定がある程度はっきり分かっている場合(結婚予定、単身赴任が終わるなど)は、当初の契約段階で事情を説明しておくとトラブルを避けられる可能性があります。

(5) 連帯保証人

ひな型「頭書」の最後には「(6)連帯保証人及び極度額」という欄があります。

以前から賃貸借契約を結ぶ際には賃貸人から連帯保証人を立てることを求められるのが一般的でしたが、ひな型には、民法の改正により新たに「極度額」を記載する欄が設けられました(令和2年4月1日以降に結ばれる契約が対象)。

賃貸借契約の連帯保証人は、借主が賃料を支払わなかった場合や、賃貸目的物を毀損した場合などの支払義務を保証する立場にありますが、極度額は、この支払義務の上限を決めるものです。

極度額を定めない場合には、連帯保証人の定め自体が無効となります。
一般に、半年から契約期間分の家賃相当額が極度額とされていることが多いようです。

[参考記事] 民法改正による連帯保証人制度の変更点は?限度額など解説

3.契約書本文

ひな型の第○○条という部分が、契約書の本文です。以下、これまでに説明したもの以外でチェックしておくべき点を説明します。

(1) 使用目的

一般的なマンションなどでは、居住目的と限定していることが多いです。

もし住居兼事務所(SOHOなど)として利用する予定の場合には、それが可能か事前に貸主に確認しておく必要があります。

定められた使用方法に従わない場合、用法違反として賃貸人から契約を解除される可能性があります(賃貸人からの解除については後述します)。

(2) 敷金

敷金は、賃貸借契約から発生する賃借人の債務のすべてを担保するためのお金です。
賃貸借契約が終了して、賃借人が借りていた物件を明け渡した場合、賃貸人は支払われていない債務を敷金から清算して残額を賃借人に返還する必要があります。

なお、敷金のうち一定額を必ず差し引いて返還する特約(敷引き特約と言います)も、極端に高い場合でなければ有効とされていますので、契約時にそのような特約がついているかどうか確認しましょう。

(3) 反社会的勢力の排除

取引相手が反社会的勢力である場合に、直ちに契約解除を可能とするいわゆる暴排条項の定めを置くことが多いです。

[参考記事] アパートに反社会的勢力(暴力団員等)が入居している場合の対処法

(4) 禁止行為

契約書では、賃貸借にあたって禁止される行為が定められていることが多いです。第三者への無断転貸、増改築、迷惑行為、防災上問題のある行為などです。

なお、ペットの飼育や楽器の演奏などについては、全面禁止の場合もあれば、一定の限度までは認めるが、事前に別途誓約書を書くことを求める契約条項となっていることもあります。

禁止行為に違反した場合、賃貸人から解除される可能性がありますので注意が必要です。

(5) 修繕義務の分担

賃貸物件を問題なく賃借人に使用させるのが賃貸人の義務ですから、台風による雨漏りや、水回りの不具合など建物自体に問題が発生した場合には、賃貸人に修繕する義務があります。

しかし、日常的な消耗品(電球など)の取替えなどについては、賃借人に負担させるのが合理的です。

そこで、多くの場合、賃貸借契約書に、修繕についてどこまで賃貸人の義務で、賃借人はどのような義務を負っているのをあらかじめ定めておくことが多いです。

[参考記事] 賃貸物件の修繕費を賃借人負担とすることはできる?

(6) 賃貸人からの契約解除

賃借人が賃料を払わない場合や、使用目的違反や禁止行為などの用法違反の場合に、賃貸人から契約を解除できることが、通常定められます。

必ずしも1回の違反でいきなり契約解除を認めて賃借人を退去させられるわけではありませんが(裁判所は、賃貸人との間の信頼関係が破壊されたと認められる場合に限って、賃貸人からの契約解除を認めます)、どのようなことが契約違反になるのか、必ず契約書の内容を確認しておきましょう。

[参考記事] 賃料滞納による建物明渡請求の流れ

(7) 明渡し時の原状回復

賃貸借契約が終了した場合の明渡しなどの際、賃借人は、借りた建物の原状回復をする義務があります。

ただし、「原状」というのは入居時の状態に戻すという意味ではなく、普通に使っていて当然に損傷摩耗したり、時間とともに劣化したものを元に戻したりすることまでは必要とされていません。

国土交通省のガイドラインでは、原状回復とは「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と説明されています。

また、賃借人に原状回復義務がある損耗でも、自然損耗分を考慮して、賃借人の負担を修繕費用のうちの一定割合とすることを取り決めることがなされます。

賃貸人にとっても、このような負担の配分を事前に契約書で取り決めておくことで、立退き時に発生しがちなトラブルの回避が期待できます。

[参考記事] 退去時の原状回復義務とは?

4.まとめ

このように、賃貸借契約書でチェックしておくべき事項はたくさんあります。
賃貸借契約書を受け取ったら、署名捺印する前によく内容を確認して、疑問点があれば賃貸人や不動産業者に確認することをお勧めします。

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