不動産の家族信託

不動産の家族信託


不動産問題を扱う当サイトで、「家族信託」という言葉が出てくるのは意外に思われるかもしれません。

しかし、家族信託は、親などが所有する土地や建物といった不動産を活用する観点からもメリットがある制度です。

そこで、ここでは家族信託とはどんな制度なのか、家族信託で不動産活用することにどんなメリットがあるのかなどについてご説明しましょう。

1.家族信託とは

家族信託とは、文字通り、委託者が所有する財産を家族などに託して管理や運用、処分をしてもらうことを指します。

家族信託には、少なくとも次の3つの役割を担う人が必要となります。

(1) 委託者

委託者とは、財産を所有し、その財産を託す人のことを指します。委託者は、信託契約の作成時点で、財産の管理・運用・処分方法について自分の意思を反映させることができます。

(2) 受託者

受託者とは、信託契約で定められた信託の目的に従って信託財産の管理や処分を行います。

受託者には、主に次のような義務・責任が課せられます。

  • 善管注意義務
  • 忠実義務
  • 分別管理義務
  • 公平義務
  • 損失填補責任

など

受託者には、未成年除き就任することができますが、(信託法第7条)、弁護士などが業務として行う場合は、内閣総理大臣の認可を受けなければいけません(信託業法第3条)。

(3) 受益者

受益者は、信託財産から生じた利益を得る権利を有するほか、受託者の信託事務の監督という役割も担います。

例えば、親の認知症対策として家族信託を利用する場合は、委託者である親を、受益者を兼ねる「委託者兼受益者」として契約を結ぶことで、信託財産から生じた利益を認知症になった親の介護費用として支出することが可能になります。

家族信託とは、委託者が財産を受託者に託し、受託者がその財産を管理・運用・処分し生じた利益を受益者が享受する制度と言えるでしょう。

では、不動産を信託財産とすることにどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

2.不動産活用に家族信託を利用するメリット

最初に、家族信託で不動産を信託財産とするメリットについてご紹介しましょう。

(1) 受託者が信託目的に従って独自に不動産の管理・運用・処分の判断ができる

まず挙げられるのが、家族信託で不動産を信託財産としておけば、信託目的に従って受託者独自の判断で不動産の管理・運用・処分が可能になることです。

家族信託を設定せずに、親が不動産所有者のまま認知症などで判断能力を失ってしまうと、契約をすること自体が難しくなり、不動産の売買にも支障を来します。判断能力を失った後は、成年後見制度を利用することもできますが、成年被後見人の自宅を売却するには、家庭裁判所の許可が必要となります(民法859条の3)。

対して、家族信託では、親に判断能力があるうちに受託者に不動産の処分権限を与える信託契約を締結しておけば、信託目的に沿って、受託者の判断で委託者の自宅を売却することも、更地にした後に、賃貸物件を建てて収益を上げることも可能となります。

(2) 柔軟な契約内容が設定可能

信託契約で定めることで、受託者は、信託目的に沿って信託不動産について次のことが独自の判断でできるようになります。

  • 不動産売却
  • 不動産の購入
  • アパートやマンションの建築
  • 入居者との賃貸借契約
  • 賃貸物件の管理
  • 家屋のリノベーション
  • 借地人との交渉

など

成年後見制度に比べても、受託者は、柔軟にそして能動的に不動産の管理・運用・処分をすることが可能です。

また、家族信託には、「受益者連続型信託」によって遺言書では実現できない先の世代の財産承継についても指定できるという特徴があります。

例えば、父親を委託者兼第1受益者として家族信託を開始し、父親の死亡によって長男を第2受益者、長男の死亡によってこれから生まれる次男の孫を第3受益者とする信託契約を結ぶことで、委託者から直接相続するより先の財産承継までをも指定しておくことが可能になるのです(※)。

※ただし、家族信託は、信託開始時から30年経過後受益権を取得した受益者の死亡か、その受益権の消滅によって終了します(信託法第91条)。

(3) 不動産の共有問題を避けられる

不動産は、分割が難しい財産で、遺産分割協議がうまくまとまらない場合には、相続人全員で共有する状態を維持してしまうことがあります。共有状態の不動産の問題点は、管理や処分について共有者の同意が必要になることです。

例えば、共有者の1人が売却を希望しても、他の共有者全員の同意を得られない限り、売却することはできません。

しかし、家族信託で、共有不動産を信託財産、共有者の1人を受託者として設定すれば、この受託者一人の判断で、信託目的の範囲内で、共有不動産を自由に管理・運用・処分が可能になります。

(4) 設定時には不動産取得税や贈与税が非課税になる

家族信託を開始する際には、委託者から受託者への不動産の名義変更が必要となります。

通常、不動産の名義を父から子へ移転すると、親から子への贈与とみなされ、子に対して贈与税と不動産取得税が課税されることになります。
しかし、家族信託の設定時に、委託者と受益者が同一人である自益信託を選択した場合、実質的な財産の移動がないものとして贈与税は発生しません。また、不動産取得税についても、形式的な所有権移転という理由により、自益信託か否かにかかわらず、家族信託の設定時に発生することはありません。

(5) 登録免許税の節税効果がある

ただし、家族信託の登記をする際には、次の登録免許税がかかります。

所有権移転登記:非課税
信託の登記:固定資産税評価額 × 4/1000(円)

3.不動産活用に家族信託を利用するデメリット

家族信託で不動産を信託財産とする場合にも、いくつかデメリットは存在します。

(1) 損益通算ができない

通常、各所得の利益と損失は、相殺することが認められており、その分課税される税金を減額することができます。

例えば、株式投資で100万円の利益が出たとしても、その後の取引で同額の損失が出てしまったら、損失と利益を相殺し、利益を0円とすることができ、純損失の繰り越し控除も可能です。

しかし、家族信託では、この損益通算ができません。具体的には、信託不動産から生じた損失を、信託財産以外の所得と損益通算することはできず、その損失を繰り越すこともできません。

また、複数の信託不動産について別々の信託契約を締結している場合、異なる信託不動産の損失通算をすることはできません。ただし、同一の信託契約で信託財産となっている信託不動産については、損益通算が可能になります。

(2) 税務上の手間がかかる

自益信託(委託者=受益者)でない家族信託を開始した際には、信託財産の相続税評価が50万円以上の場合は、税務署へ提出しなければならない書類があります。

また、年間の信託財産の収益額が、3万円以上の場合は、毎年1月31日までに、税務署へ提出すべき書類があります。

これに加えて、信託不動産の運用で利益が発生すると、受益者が不動産所得の確定申告を行わなければなりません。

この他にも、家族信託の変更や受益者の交代時、家族信託の終了時には、税務署への提出書類があり、家族信託には、税務上の手間がつきものです。

4.家族信託は弁護士に相談すべき理由

現在、家族信託の信託契約書については、多くの雛形がネット上にもあふれています。これらを組み合わせて、形式上契約書を作成することは可能かもしれません。

しかし、仮に契約書が出来上がったとしても、相続人の遺留分が侵害される契約になっている、抵当権者の承諾を受けないまま抵当不動産を信託財産にしてしまったなど、後々、問題が生じないとは限りません。

また、それぞれのご家族の細かなニーズに応じて設定できるのが、家族信託のメリットです。雛形通りの通り一遍の契約内容になってしまい、最悪の場合、契約内容について、「自分が受託者になりたかった」、「なぜ自分が後順位の受益者なのか」などと家族間で争いに発展してしまう可能性もあります。

一方で、家族信託に詳しい弁護士が介入すれば、法律上問題がないだけでなく、後々問題が起こり難く、ご家族のニーズを細かくすくい上げた契約書としてまとめ上げることができます。

家族信託の組成には、ご家族でよく話し合うほかに、家族信託に詳しい弁護士も必要なのです。
弁護士法人泉総合法律事務所では、家族信託についてのご相談も承っております。お気軽にご相談ください。

また、家族信託については、当事務所の遺産相続専門サイトでも取り扱っております。下記のページもご参考ください。

弁護士法人泉総合法律事務所遺産相続専門サイト家族信託ページ

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