賃貸物件を借りている方のことを「賃借人」といいます。
建物の賃借人には法的に様々な権利と義務がありますので、代表的なものとそれぞれに関するトラブルを簡単にご紹介いたします。
なお、土地の賃借人(借地人)の方はこちらをご参照ください。
賃借人の義務
賃借人の義務は、大きく分けて主に以下の5つがあります。
- ① 賃料支払い義務
- ② 用法遵守義務
- ③ 原状回復義務
- ④ 無断転貸等の禁止
- ⑤ 善管注意義務
それぞれ簡単に解説いたします。
①賃料支払い義務
賃貸物件は、賃貸借契約という契約によって借りることになります。
そして賃貸借契約は、物件を使用する代わりに賃料を支払う契約ですので、賃借人には賃料支払い義務があります。
この義務を巡っては、しばしば賃料未払いと建物明渡しがセットで問題になります。
また、一定の場合には賃料減額請求が可能です(借地借家法32条)。
②用法遵守義務
賃借人は、賃借物の使用について、契約またはその物の性質で定まる用法に従う必要があります(民法616条、594条1項)。
用法遵守義務は、例えばペット飼育禁止特約の違反や、住居として借りた物件を事務所として使用した場合などで問題になります。
③原状回復義務
賃貸借契約が終了した際に、賃借物について生じた損傷等を入居時の状態に戻す義務です。
原則として賃借人が原状回復義務を負います(民法621条本文)。
原状回復義務は、賃貸物件の退去時に、タバコのヤニ等の汚れや結露のカビ等によるクロスの張り替え費用や、各種設備の破損等の修理費用を請求され、よく問題になります。
④無断転貸等の禁止
賃借権の譲渡や、賃借物を他人に転貸(又貸し)する場合には賃貸人の承諾が必要で、無断転貸等は禁止されています(民法612条1項)。
これに違反すると契約を解除される可能性があります(同条2項)。
⑤善管注意義務
上記の義務に関する包括的な義務として、善管注意義務を負います(民法400条)。
「善良な管理者の注意」のことで、その取引について社会通念上一般的に要求される程度の注意をする義務をいいます。
賃借人の権利
賃借人には権利も多数あり、大きく分けると主に以下の5つです。
- ① 使用収益権
- ② 修繕請求権
- ③ 必要費・有益費償還請求権
- ④ 造作買取請求権
- ⑤ 賃料減額請求権
①使用収益権
賃貸借契約は、目的物を賃借人に使用収益させる契約ですから、賃借人は賃貸人に対して使用収益できるよう求める権利があります。
例えば、同じマンション等の他の居住者の騒音問題が典型的で、その騒音により睡眠も妨げられるようなケースでは、賃貸人が使用収益義務違反となる可能性があります。
②修繕請求権
賃借物に修繕の必要がある場合、賃貸人の修繕義務の裏返しとして、賃借人は修繕を請求できます(民法606条1項本文)。
ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要になった場合には、請求できません(同項ただし書)。
なお、特約により、修繕を賃借人が行うとする旨が定められていることもあります。
③必要費・有益費償還請求権
必要費償還請求権は、賃借物について本来は賃貸人が負担すべき費用を賃借人が支出した場合に、その費用を賃貸人に請求できるものです(民法608条1項)。
有益費償還請求権は、賃借人が賃借物について支出したことで賃借物の価値が増加し、その増加が現に存在している場合に、支出額か価値増加分を、賃貸人の選択に従い請求できるものです(民法608条2項、196条2項)。
④造作買取請求権
建物に賃貸人の同意を得て付加した造作(畳・建具、その他建物の使用に客観的に便益を与えるもの)があるとき、建物賃貸借の終了時に、賃貸人に対して造作の買取を請求できる権利です(借地借家法33条)。
なお、特約で賃借人が造作買取請求権を放棄する旨を定める賃貸借契約も少なくありませんので注意が必要です(この特約は平成4年7月31日までに締結した契約〔旧借家法下での契約〕では無効になります。)。
⑤賃料減額請求権
建物の賃借人は、以下のいずれかの場合には賃料の減額を請求することができます(なお、賃貸人からの増額請求も同様です)。
建物の借賃が
- 土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により
- 土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により
- 近傍同種の建物の借賃に比較して
不相当となったとき(借地借家法32条1項)。