境界確定訴訟とは|概要・流れ・費用・手続きにかかる期間などを解説
隣人との間で土地の境界についてトラブルが発生した場合、解決策となり得る法的手段として「境界確定訴訟」があります。
境界確定訴訟は、通常の訴訟とは異なる側面があり、長期・複雑な手続きになりがちです。
そのため、弁護士に相談しながら対応することをお勧めいたします。
この記事では、境界確定訴訟の概要・流れ・費用・手続きにかかる期間などについて解説します。
1.境界確定訴訟とは?
境界確定訴訟は、境界に関する隣人同士の争いを解決する訴訟手続きです。
境界確定訴訟では、裁判所が当事者双方の言い分を聞いたうえで、客観的な視点から隣地同士の境界線を決定します。
境界に関するトラブルが生じる主な原因としては、以下のものが挙げられます。
- 境界標を移動、破損、撤去などした場合
- 実際の占有状態と、公法上の境界が異なる場合
- 境界線付近にどちらかの占有物が存在し、不法占有の有無が問題になっている場合
これらのケースでは、境界が曖昧であることが、それぞれの土地の使用収益や処分に関して悪影響を与えることが多いです。
そのため、隣地所有者のいずれかが、境界を確定する判決を求めて境界確定訴訟を提起することがあります。
境界確定訴訟については、その具体的なルール等を定める特別の法律上の規定は設けられていません。
したがって、基本的には民事訴訟の原則的な手続きに従って審理されますが、判例・実務慣行上、以下のような特殊なルールが認められています。
- 土地が共有の場合は、共有者全員を当事者とする必要がある
- 裁判所は原告・被告の主張に拘束されることなく、独自に境界を決定する
- 和解・調停は不可
- 勝訴・敗訴の概念がないため、訴訟費用は当事者双方が負担する
【代替手段としての「筆界特定制度」】
境界確定訴訟は、後に解説するように、訴訟期間が長期化しやすいというデメリットがあります。そこで、法務局所属の筆界確定登記官が、行政上の手続きにより土地の境界(筆界)を特定する「筆界特定制度」が用意されています(不動産登記法123条以下)。
筆界特定制度は、境界確定訴訟よりも手続き期間が短く済む(6か月~1年程度)メリットがあります。その反面、筆界特定制度による判断に既判力はないため、後に境界確定訴訟により紛争が蒸し返される危険がある点はデメリットといえます。
境界確定訴訟と筆界特定制度(あるいはさらに別の方法)、いずれの方法をとることが紛争解決に繋がりやすいかについては、弁護士とともに詳しく検討することをお勧めいたします。
2.境界確定訴訟の手続きの流れ
境界確定訴訟の大まかな手続きの流れは、以下のとおりです。
(1) 裁判所に対して境界確定訴訟を提起|訴状の提出
まずは、通常の民事訴訟と同様に、裁判所に対して訴状を提出して訴えの提起を行います(民事訴訟法133条1項)。
訴状の提出先は、被告の普通裁判籍の所在地(住所地・居所地・最後の住所地)を管轄する地方裁判所です(同法4条1項、2項)。
また、境界確定訴訟は「不動産に関する訴え」に当たるので、不動産の所在地を管轄する地方裁判所にも訴えを提起することができます(同法5条12号)。
訴状の中には、原告の請求を基礎づける原因事実などを記載することになります。
訴状の作成方法についての詳細は、弁護士にご確認ください。
(2) 第1回口頭弁論期日の指定、被告による答弁書の提出
裁判所が訴状を受理した後、第1回口頭弁論期日が指定され、両当事者に通知されます。
また、訴状は被告に対して送達され、被告はそれに対して「答弁書」と呼ばれる反論書を裁判所に提出するのが一般的です。
(3) 口頭弁論期日|必要に応じて弁論準備手続
第1回口頭弁論期日では、訴状・答弁書記載の内容を原告・被告双方が陳述します。
その後、おおむね1か月に1回程度の口頭弁論期日が指定され、当事者双方による主張・立証が展開されます。
境界確定訴訟では、境界をどの線に定めるべきかが争点となりますので、土地使用の経緯や現況などに関する証拠(物証・人証)を提出して、主張・立証を行うことになります。
なお、口頭弁論期日での主張・立証に先立ち、争点の整理が必要と考えられる場合には、「弁論準備手続」(民事訴訟法168条)と呼ばれる非公開の争点整理手続きが行われるケースもあります。
(4) 現地見分(検証)
境界確定訴訟において、裁判所が客観的な境界がどこにあるかの判断をするには、現地の状況を把握することが大切です。
そのため、裁判所の釈明処分(裁判所が職権で行える措置のことです)により、現地の見分(検証)が行われることが多くなっています(民事訴訟法151条1項5号)。
検証の結果は、境界確定訴訟における証拠資料として用いられます。
(5) 判決
口頭弁論期日における主張・立証が出尽くし、裁判所が境界に関する判断を行うために十分な心証を形成したら、判決が言い渡されます(民事訴訟法243条1項)。
境界確定訴訟では、一般的な民事訴訟とは異なり、裁判所が当事者の主張に拘束されず独自に境界線を定めるのが特徴的です。
地方裁判所の判決に対しては控訴、高等裁判所の判決に対しては上告を行うことができます。
これらの不服申立てがなかった場合には、判決は確定し、原告・被告双方を拘束することになります。
3.境界確定訴訟に必要な期間
境界確定訴訟にかかる期間は、争点の複雑さや数などによって幅がありますが、おおむね2年程度かかることが多いようです。
このように手続きが長期化するのは、裁判所が独自に境界を決定しなければならないことや、検証による実地見分が必要なことが多いという境界確定訴訟の特殊性が主な理由です。
もしできるだけ早く境界に関する紛争を解決したいと考える場合には、前述の「筆界特定制度」など、別の紛争解決方法を利用することも検討しましょう。
どのような紛争解決方法が適しているかについては、具体的な事案の性質に応じて、弁護士と協議して判断することをお勧めいたします。
4.境界確定訴訟にかかる費用
境界確定訴訟にかかる費用は、主に「測量費用」「弁護士費用」「裁判所に納付する費用」に分類されます。
(1) 測量費用
境界確定訴訟では、公平に境界を定めるため、土地の現況に関する客観的な資料が必要になります。
そのため、土地家屋調査士による測量を行うのが一般的です。
測量費用は、土地の広さや測量が必要な範囲などによって異なりますが、おおむね20万円~40万円程度が必要となります。
(2) 弁護士費用
境界確定訴訟は、通常の訴訟とは異なる特殊な手続きであり、かつ必要となる主張・立証の内容も専門的なので、弁護士に依頼して対応するのが得策です。
弁護士費用の体系は、各弁護士が独自に定めていますので、境界確定訴訟の弁護士費用も弁護士によって異なります。
多くの場合、「着手金」と「成功報酬」の二段階制が採用されており、着手金が30万円~50万円程度、成功報酬が60万円~100万円程度の範囲に収まるのが一般的です。
ただし、複雑な主張・立証が必要となる場合や、争点が多い場合などには、通常よりも高額の弁護士費用が必要となる可能性があります。
詳しい弁護士費用の金額は、弁護士にその都度ご確認ください。
(3) 裁判所に納付する印紙代・郵便費用
境界確定訴訟を提起する際には、裁判所に印紙代と郵便費用を納付する必要があります。印紙代は、訴額に応じて決定されます。
境界確定訴訟の場合、訴額は係争地域の所有権価格によるため、土地の価値が高ければ高いほど、訴額は高額となります。
以下は印紙代の一例です。
訴額 | 印紙代 |
---|---|
1000万円 | 5万円 |
3000万円 | 11万円 |
5000万円 | 17万円 |
8000万円 | 26万円 |
1億円 | 32万円 |
郵便費用は、当事者の人数にもよりますが、おおむね数千円程度です。
5.境界確定訴訟は弁護士に依頼するのがお勧め
境界確定訴訟は、通常の訴訟とは異なる特殊な手続きのため、弁護士のサポートを受けて対応することをお勧めいたします。
境界の位置をめぐって紛争に発展するようなケースでは、ご自身の言い分どおりに境界を認めてもらうための主張・立証活動は困難を極めます。
弁護士にご相談いただければ、現地調査を経たうえで、さまざまな手掛かりを集めて適切に主張・立証を行い、裁判所に対して効果的に主張内容をアピールすることが可能です。
また、弁護士に境界確定訴訟の準備を任せることで、ご自身で訴訟準備を行う時間的・精神的負担が軽減される点も大きなメリットとなります。
土地の境界に関して隣人とトラブルになってしまった場合は、できるだけお早めに弁護士へご相談ください。