私道通行・私道掘削の承諾をもらえない場合の対処法
新しく土地を購入して家を建てる場合などには、隣接地に含まれる「私道」を通行したり、掘削したりする必要が生じることがあります。
その場合、原則として私道所有者の承諾を得る必要がありますが、所有者の拒否に遭って承諾を得られないケースも考えられます。
私道所有者の承諾が得られなかった場合、どのようにして私道の通行・掘削を認めてもらえばよいのでしょうか。
この記事では、私道の通行・掘削に関する法律上の取り扱いや、所有者からの承諾を得られない場合の対処法などを解説します。
1.私道とは?
まずは「私道」とは何なのかについて、基本的な事項を解説します。
(1) 道路として利用に供されている私有地の一部
私道とは一般的に、私有地の一部であって、道路として通行の用に供されている箇所を意味します。
私道は、土地所有者の判断で開設されており、その目的はさまざまです。
私道を開設する目的としては、以下のパターンが挙げられます。
- 有料道路とし、通行料収入で利益を得る
- 通行可能な場所を明示するために整備する
- 建築確認を得る目的で、接道義務を満たすために整備する など
私道はあくまでも私有地であるため、原則として、開設・廃止は土地所有者の自由な判断によって行うことができます。
(2) 建築基準法上の「道路」に当たる私道とは?
ただし、私道が建築基準法上の「道路」に当たる場合には、私道内の建築制限や、変更・廃止についての制限が加えられます。
私道が建築基準法上の「道路」とみなされるのは、いわゆる「セットバック」により、私道部分が「2項道路」として指定を受けている場合です(建築基準法42条2項)。
建築基準法上、建築許可を得るためには、建築物が幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければなりません(同法43条1項)。
これを「接道義務」といい、避難経路の確保や緊急車両の通行経路の確保などを目的としています。
しかし実際には、隣地や既存道路との位置関係などから、上記の接道義務を満たすことができない土地も存在します。
その場合は、土地の一部を道路として提供することによって、接道義務を満たすようにすることが認められています。
このとき道路として提供する部分を「2項道路」といいます。
2項道路として指定された私道は、原則として建築物や擁壁の建築・築造が禁止されるほか(同法44条1項)、特定行政庁の処分によって、変更・廃止が禁止または制限されます(同法45条1項)。
2.私道を通行する際、所有者の承諾は必要?
ご自身の所有する土地の位置関係によっては、隣接地に含まれる私道を通行する必要が生じる場合があるかもしれません。
この場合、私道所有者の承諾は必要なのでしょうか。
(1) 原則|通行には承諾が必要
私道はあくまでも私有地の一部なので、誰に対して通行を許すかは、所有者の判断に委ねられています。
したがって、私道を通行しようとする際には、原則として私道所有者の承諾が必要です。
(2) 例外|「日常生活上不可欠の利益」を有する場合
ただし、その私道を通らなければ公道へ出られない場合などには、私道所有者の承諾の有無にかかわらず、私道を通行する必要性が高い状況といえます。
もし私道所有者が、隣地所有者が私道を通行せざるを得ないという弱みに付け込んで、高額の通行承諾料を請求するような事態が生じれば、あまりにも不公平というほかないでしょう。
この点、最高裁平成9年12月18日判決では、私道通行の妨害排除および将来の妨害禁止が問題となった事案で、以下のように判示しています。
「建築基準法四二条一項五号の規定による位置の指定(以下「道路位置指定」という。)を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきである。」
最高裁は、外部との交通についての代替手段を欠くなどの理由により、日常生活上不可欠なものとなった通行に関する利益は、私法上も保護に値することを指摘しました。
そして、私道の通行について日常生活上不可欠な利益を有する者がいる場合には、その利益を著しく上回る損害を被るなどの特段の事情がない限り、私道の通行を妨害してはならないという結論を示しました。
なお、上記の論理は、いわゆる「2項道路」について同様の点が問題となった事案でも、同様に当てはまることが最高裁によって示されています(最高裁平成12年1月27日判決)。
このように、「どうしてもその私道を通行しなければ、日常生活において重大な不利益が発生する」ということが説明できれば、私道所有者の承諾がなくても、私道の通行を認められる可能性が高いでしょう。
3.私道を掘削する場合、所有者の承諾は必要?
土地上に新たに建物を建築する場合、水道管工事などとの関係で、隣接地の私道部分を掘削しなければならないケースがあります。
この場合にも、私道通行のケースと同様に、私道所有者による掘削の承諾を必要とするかどうかが問題になります。
法律上の考え方としては、おおむね私道通行の場合と同じで、以下のとおりです。
(1) 原則|掘削には承諾が必要
私道は私有地の一部ですので、水道管工事等を目的とした掘削についても、原則としては、やはり私道所有者の承諾が必要となります。
(2) 例外|代替手段がない場合など
私道掘削に関する裁判例の考え方としては、「代替手段の有無」を重視して掘削の可否を判断する傾向にあります。
たとえば、東京地裁平成31年3月19日判決では、建物の建て替えに伴う水道管・ガス管の引き込み工事に関して、掘削工事の承諾および妨害禁止が問題となりました。
東京地裁は、以下の理由を挙げて、原告による掘削工事の承諾および妨害禁止の請求を認容しました。
- 既存導管の老朽化が顕著であるため、新たな導管工事を行う必要性があること
- 限定された範囲内でのみ掘削し、その都度埋め戻す方法であれば、それが私道所有者にとってもっとも損害が少ない方法であること
- 民法220条、221条1項、下水道法11条の類推適用により、土地所有者は、隣地の給排水・ガス管の設置のために必要な範囲で土地の掘削工事を行うことについて、承諾する義務があること
ここで注目されるのは、東京地裁が掘削工事の方法を限定的に特定したうえで、それが私道所有者にとってもっとも損害が少ない方法であることを理由として、掘削を認めているという点です。
つまり、仮に導管工事などのために私道の掘削をするとしても、必要最小限に範囲を絞る必要があります。
また、他に代替手段が存在し、私道を掘削するよりも軽微な損害で済む場合には、私道の掘削自体は認められない可能性が高いです。
たとえば、最高裁平成14年10月15日判決の事案では、他の土地を経由しなければ給排水ができないケースにおいて、他人の設置した給排水設備の使用が認められています。
本事案では直接問題になってはいませんが、もし私道掘削の可否が同時に問題になったとすれば、他人の設置した給排水設備を使用することと比較して、どちらの損害が小さいかが判断されることになるでしょう。
4.所有者の承諾が得られない場合の対処法
私道通行や私道掘削について、私道所有者の承諾が得られない場合には、「交渉」「民事調停」「訴訟」のいずれかの方法により、事態の打開を図る必要があります。
(1) 私道所有者と交渉
もっとも穏便な解決方法は、私道所有者との交渉を継続し、最終的に私道の通行や掘削を認めてもらうことです。
基本的には、私道通行や私道掘削の必要性を訴えたうえで、訴訟等に発展すれば通行・掘削が認められる可能性が高い旨を説得するのがよいでしょう。
ただし、私道所有者が強硬に承諾を拒否し、争う姿勢を見せるケースも考えられます。
その場合は、一定の承諾料の支払いを提示して妥協するか、法的手続きへの移行を検討しましょう。
(2) 民事調停を申し立てる
私道所有者との直接交渉がうまくまとまらない場合には、「民事調停」を利用することも考えられます。
民事調停とは、裁判所で行われる話し合いのための手続きで、調停委員が当事者間の交渉を仲介してくれます。
当事者同士で直接主張を戦わせるよりも、客観的・中立な立場にある調停委員が関与することで、冷静な話し合いが行われることを期待できます。
ただし、民事調停による解決は、あくまでも当事者双方が調停案に合意しなければ成立しません。
合意に至らない場合には、調停を不成立として、訴訟手続きへと移行する必要があるでしょう。
(3) 通行・掘削の妨害禁止請求訴訟を提起
交渉や民事調停がまとまらない場合には、最後の手段として、私道通行・私道掘削の承諾および妨害禁止を求めて裁判所に訴訟を提起しましょう。
訴訟では、私道通行・私道掘削の必要性につき、特に代替手段がないことなどを中心に、証拠を用いて立証する必要があります。
訴訟を提起する際、証拠の収集や、訴状・準備書面の作成などの準備作業にはたいへん大きな労力を要します。
弁護士にご相談すれば、訴訟準備を全面的にサポートしてもらえるうえ、実際の手続きも代行もしてもらえるので、依頼者のご負担は大きく軽減されるでしょう。
私道通行や私道掘削について、私道所有者とのトラブルをお抱えの方は、ぜひ弁護士までご相談ください。
5.まとめ
私道を通行したり掘削したりする際には、原則として私道所有者の承諾を得る必要があります。
ただし、代替手段がなく、私道通行・私道掘削を必要とするやむを得ない事情がある場合には、私道所有者の承諾が不要となるケースも存在します。
私道通行・私道掘削を私道所有者に拒否されたため、土地の開発・建物の建築などがうまく進まないといったお悩みをお抱えの場合は、お早めに弁護士にご相談されることをおすすめいたします。