不動産に強い弁護士に無料相談【東京・神奈川・埼玉・千葉】
安心と信頼のリーガルネットワーク弁護士法人泉総合法律事務所不動産問題
不動産の重要知識

不動産の所有者が不明な場合の「不在者財産管理人制度」

「相続人の中に行方不明者がいて遺産分割が進められない」、「土地を売却したいが、共有者の所在がわからない」など、相続人や共有者などの一部に行方不明者がいると、遺産分割や土地の売却手続きを進めることができません。

このような場合に利用される制度が「不在者財産管理制度」です。この制度を利用することによって、行方不明者がいたとしても手続きを進めることが可能になります。

今回は、不在者財産管理制度についてわかりやすく解説します。

1.不在者財産管理人の役割

不在者財産管理人とはどのような役割を担う人なのでしょうか。以下では、不在者財産管理人の概要と具体的な役割などについて説明します。

(1) 不在者財産管理制度とは

不在者財産管理制度とは、土地も含めてある財産の所有者が行方不明である場合に、家庭裁判所によって選任された「不在者財産管理人」が行方不明者の財産の管理を行う制度です(民法25条)。

不在者財産管理制度は、本来は、不在者の財産が放置され、散逸することによって生じる不在者の損失を防止し、不在者の財産を保護することを目的とする制度です。

しかし、不在者がいないと利害関係人がさまざまな手続きを行うことができないため、実際には不在者財産管理人に不在者の代わりの役目を果たしてもらうために利用されています。

(2) 不在者財産管理人の役割

不在者財産管理人は、主に、以下のようなケースで選任されます。

相続人の中に行方不明者がいる場合、代理として遺産分割協議を行う

被相続人が死亡すると、被相続人の遺産はその相続人が相続することになります。

遺産を相続人で分けるためには遺産分割協を行いますが、遺産分割協議は相続人全員が参加して行わなければなりません

相続人の中に行方不明者がいるようなケースでは、遺産分割協議を進めることができませんので、不在者財産管理人を選任して、行方不明者に代わって遺産分割協議を行うことになります。

不在者の土地を購入したい場合に不在者財産管理人と売買契約を締結

気に入った土地があって調べてみたところ、登記簿上に所有者と記載されている人が行方不明になっていることがあります。

売買契約は、土地の所有者との間で締結しなければなりませんので、土地の所有者が行方不明の状態では、当該土地を購入することができません。

このような場合には、行方不明者について不在者財産管理人を選任し、不在者財産管理人との間で売買契約を締結することによって、当該土地を取得することが可能になります。

境界確定の手続きを進める

自分の所有する土地を売却しようとする場合には、買主に対して境界を明示することが求められます。

そのため、土地の境界を明らかにするために、境界確定測量を行うことになりますが、その際には、隣地所有者が立ち会って、境界を確認し、境界の合意を得ることが必要になります。

しかし、隣地所有者が行方不明になっており、連絡が取れないという場合には、当然、立ち会いを求めることも合意を得ることもできませんので、境界を確定することができません。

このような場合には、行方不明者について不在者財産管理人を選任し、不在者財産管理人に立ち会いをしてもらうことによって、境界を確定することが可能になります。

2.不在者財産管理人の選任方法

不在者財産管理人を選任する場合には、以下のような方法で行います。

(1) 不在者財産管理人になれる人

まず、不在者財産管理人には特別な資格は必要ありませんので、原則として誰でもなることができます。
しかし、不在者財産管理人は、不在者の財産を管理することを目的として選ばれる人ですので、その職務を適切に行うことができるということが必要になります。

また、不在者財産管理人の選任申立の際には、申立人が不在者財産管理人の候補者をたてることができますが、裁判所が不在者との関係や利害関係などを考慮して、その適格性を判断することになります。そのため、場合によっては、候補者とした人が選任されないこともあります。

適当な候補者がいない場合には、弁護士や司法書士などの第三者が不在者財産管理人に選任されることもあります。

なお、不在者財産管理人の選任申立を依頼した弁護士を不在者財産管理人の候補者とすることも可能です。

(2) 裁判所で必要な手続き

不在者財産管理人の選任申立にあたっては、以下のような手続きや書類が必要になります。

管轄裁判所

不在者財産管理人の選任申立は、不在者の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所に行います。

どちらも不明な場合には、不在者の財産の所在地を管轄する家庭裁判所または東京家庭裁判所に申立てを行います。

申立人

不在者財産管理人の選任申立は、利害関係人または検察官が行うことができます。

利害関係人とは、不在者の財産管理に関して法律上の利害関係を有する者のことをいい、以下のような人が利害関係人にあたります。

  • 遺産分割協議の場合:共同相続人
  • 共有不動産を処分する場合:共有者
  • 土地の時効取得を主張する場合:時効取得者
  • 境界確定の場合:隣地所有者
  • 債権回収の場合:債権者
  • 担保権を実行する場合:担保権者

必要書類

不在者財産管理人の選任申立をするためには、申立書の他に以下の書類が必要になります。

  • 不在者の戸籍謄本(発行後3か月以内のもの)
  • 不在者の戸籍附票(発行後3か月以内のもの)
  • 財産管理人候補者の住民票または戸籍附票(発行後3か月以内のもの)
  • 不在の事実を証する資料
  • 不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、通帳写し、残高証明書など)
  • 申立人の利害関係を証する資料(戸籍謄本、賃貸借契約書写し、金銭消費貸借契約書写しなど)

なお、「不在の事実を証する資料」としては、警察署長の発行する行方不明者届出受理証明書や「宛て所に尋ね当たらず」などの理由で返送された郵便物などを提出します。

ただし、戸籍の附票のなかで不在者の記載が職権抹消されている場合は、不在が明らかなので不在の事実を証する書面を提出する必要はありません。

これは各自治体では郵便不到達が今日期間続いていたり、同居する家族、家屋管理人、区長などからの申出により各自治体において実態調査を行い、居住の実態がないと判断したときに戸籍の附票の職権消除を行っているためです。

費用

  • 収入印紙800円分
  • 連絡用の郵便切手
  • 予納金

連絡用の郵便切手の金額と組み合わせは、申立てをする裁判所によって異なってきますので、事前に確認をするようにしましょう。

また、不在者財産管理人の報酬は、不在者の財産から支払われることになりますが(民法27条1項)、十分な財産がない場合には、申立人に対して予納金を求められることがあります。

【どのくらいの期間失踪している必要がある?】
不在者財産管理制度の対象となる行方不明者は、従来の住所または居所を去って、容易に戻る見込みのない者とされています。具体的には、長期の家出人や音信不通になった人であり、親戚や友人などに照会をして行方を捜索したものの、所在が判明しない人などのことをいいます。
行方不明者といえるための具体的な期間については特に決まりはありませんが、数日では足りず、ある程度長期間行方不明であることが必要です。

3.所有者不明の不動産の処理や購入は不在者財産管理人に

行方不明者の所有する不動産の処理や購入でお困りの方は、不在者財産管理人を選任することによって、問題の解決を図ることができます。

上記のとおり、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申立を行うと、裁判官が不在者財産管理人選任の審判を行い、不在者財産管理人の選任を行います。そして、不在者の所有する土地を活用する場合には、家庭裁判所によって選任された不在者財産管理人と当該土地の売買契約などを締結することになります。

しかし、不在者財産管理人の権限は、原則として、保存行為および利用・改良を目的とする行為に限られますので、不在者の所有する財産の売却処分を行うためには、不在者財産管理人が家庭裁判所に権限外行為許可の申立てを行い、家庭裁判所の許可を得る必要があります(民法28条、103条)。

このような手続きを踏むことによって、所有者不明の不動産の処理や購入を行うことができるようになります。

不在者財産管理人の選任申立や不在者財産管理人の候補者については、弁護士などの専門家に依頼することによって、スムーズに手続きを進めることが可能になります。
行方不明者の財産の扱いでお困りの方は、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。

関連するコラム
現在、不動産分野の新規受付を停止しております。
皆様には大変ご迷惑をおかけしますが、何卒ご了承のほどお願い申し上げます。