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囲繞地通行権をわかりやすく解説

囲繞地(いにょうち)通行権という言葉を聞いたことがありますか?

これは、袋地(公道に通じていない場所)に土地を所有する方にとって非常に重要な権利です。この記事では、囲繞地通行権について解説します。

1.囲繞地通行権とは?

囲繞地通行権とは、公道に通じていない土地を所有する者が、この土地を取り囲む土地を通行することができる権利をいいます。

公道に通じていない土地のことを袋地、袋地を取り囲む土地を囲繞地といいます。

例えば、下の図では、A土地がB土地、C土地、D土地、E土地に囲まれて公道に通じておらず、A土地は袋地となります。この場合、A土地の所有者は囲繞地であるB土地を通って公道に出ることができ、B土地所有者は通行を拒否することはできません。

囲繞地通行権は、民法で認められている権利です(民法210条1項)。

民法210条1項
他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。

隣接した土地同士は動かすことが出来ませんから、袋地の所有者が隣地を通行して公道に出る権利を認めないと袋地の利用ができず、土地という有限で貴重な資源が活用できなくなり、社会経済全体の損失となります。

そもそも所有権は公共の福祉のために制限を受けている権利ですから(憲法29条2項)、民法は囲繞地通行権を認めることで囲繞地所有者の所有権を制限し、所有権同士の衝突を調整したわけです。

【準袋地とは?】
公道に至るまでの経路に池沼・河川・水路・海がある場合、公道まで泳いで行けとは言えませんから、この場合にも囲繞地通行権は発生します(同条2項)。
袋地から公道までの間に崖があって高低差が著しい場合も、無理に登れとは言えませんから同様です。これらの土地を「準袋地」と呼びます。
民法210条2項 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖がけがあって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。

なお、事案によっては、自動車による通行も認められる場合もあります。
判例では、自動車による囲繞地通行権の成否と、その具体的内容は、公道に至るために他の土地を自動車で通行することを認める必要性、周辺の土地の状況、自動車での通行が認められることにより他の土地所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきとしています(※最高裁平成18年3月16日判決)。

2.囲繞地通行のための施工と費用

囲繞地通行権を有する者が囲繞地を通行する際には、通行に必要な限度で、かつ、囲繞地に与える損害が最も少ない方法を選択しなければなりません(民法211条1項)。

必要があれば、囲繞地を通行するために道路を開設することも可能です(同条2項)。例えば、通行の障害物を除去したり、砂利でぬかるみを埋めたりすることなどが可能です。
もちろん、その費用は通行する者が負担します。

民法211条1項
前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。

同条2項
前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。

囲繞地通行権を通する者は、囲繞地に与えた損害に対し相当な金銭(償金)を支払わなければなりません(民法212条)。
これはあくまでも「償金」つまり一種の「補償」であって、通行の対価ではありません

しかし、袋地所有者が「償金」の支払を怠った場合でも、囲繞地通行権は消滅することはなく、通行を拒否することもできないと理解されています(※)。
もちろん、償金の支払を請求することは法的に認められますが、通行は止められないのです。

これは囲繞地通行権が、前述した公益的な理由から法律上、当然に認められた権利だからです(憲法29条3項が定める、財産権の制限に対する損失補償のようなものです)。
※我妻栄・有泉亨「新訂物権法(民法講義Ⅱ)」岩波書店288頁、遠藤他編「別冊法学セミナー・基本法コンメンタール・物権(第5版)」日本評論社98頁など

ただ、囲繞地所有者とのご近所付き合いを円滑にするには、囲繞地通行権があったとしても、お隣との間で「通行料」名目で一定額を決めておいた方が良いことは言うまでもありません。

民法212条
第210条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、1年ごとにその償金を支払うことができる。

なお、ある土地を分割したり一部譲渡をしたりした結果、袋地が発生してしまった場合には、袋地所有者は、分割の場合は他の分割者の所有地、一部譲渡の場合はその譲受人又は譲渡人の土地のみを通行することができます(民法213条1項)。しかもこの場合、通行する囲繞地の所有者に償金を支払う必要はありません。

この場合、袋地が発生することはわかっているのですから、それを前提とした条件で分割や譲渡がなされているはずです。

したがって、通行を受け入れる義務を負うことは当然ですし、通行によって何らかの損害が発生しても、その損失は織り込み済みと評価されるからです。

民法213条
1項 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
2項 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

3.通行地役権との違い

囲繞地通行権と類似した権利として、地役権(通行地役権)があります。

地役権とは、他人の土地を、自己の土地の便益に供することができる権利です。
地役権の内容は当事者の契約で自由に決めることができ、中でも他人の土地を通行することができる権利を設定した場合、これを「通行地役権」と呼びます。

民法280条
地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。

通行地役権について、囲繞地通行権との違いを含めた詳細は以下のコラムをご覧ください。

[参考記事] 通行地役権とは?

4.まとめ

お互いに家や土地は用意に引っ越せません。だからこそ、ご近所との関係はひとたびトラブルになると深刻なものになります。

通行権に限らず、隣家との紛争は、たとえ法律にしたがって解決したとしても、どちらかが引っ越さない限りは遺恨をもった人間が隣にいることになります。

したがってこのような問題は、紛争となってしまう前に、円滑な合意ができるよう十分に準備し、誠実に交渉することが非常に重要です。

隣地通行の問題が生じそうな方は、争いが始まる前に、是非専門家である弁護士に相談し、トラブルを予防するようアドバイスを受けることをお勧めします。

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