不動産を時効取得した者から購入する場合に注意すべきこと
気に入った土地があったので調べてみたところ、登記簿上の所有者と実際の売主が違うということがあります。
実際の売主からは、「この土地は時効取得したものだから大丈夫」と言われることがありますが、安易に取引に応じると思わぬトラブルを招く場合もありますので注意が必要です。
今回は、時効取得した土地を購入する場合の注意点などについてわかりやすく解説します。
1.土地の時効取得とは?
他人の土地を所有の意思をもって一定期間占有していた場合には、その土地の所有権を取得することができます。これを「時効取得」といいます。
時効取得が成立した場合には、土地の占有者は、占有開始時点から所有者であったことになり、土地の所有権を取得することになります。当該土地に抵当権などの担保権が設定されていたとしても、時効取得は原始取得ですので、そのような負担のない完全な所有権を取得することができます。
したがって、本当に土地を時効取得した人であれば、その人から当該土地を購入するということは可能になります。
なお、不動産の時効取得の要件や手続きについての詳細は、下記記事をご参照ください。
[参考記事] 土地の時効取得の要件・手続きなどを解説2.時効取得した土地の注意点
土地を時効取得する場合には、以下の点に注意が必要です。
(1) 所有権移転登記手続きが必要
時効取得の要件を満たした場合には、土地の占有者は、当該土地の所有権の時効取得を援用することによって当該土地の所有権を取得することができます。
しかし、援用によって土地の所有権を取得することができるといっても、当該土地の登記名義は前所有者の名義になったままです。
このままだと、土地を売却したり、土地を担保にお金を借りたりする場合に、自分が土地の所有者であることを客観的に明らかにすることができません。
また、後述するような土地の二重譲渡のリスクもありますので、時効取得によって所有権を取得した場合には、必ず所有権移転登記手続きを行うようにしましょう。
なお、時効取得を理由に所有権移転登記をする方法には、以下の2つの方法があります。
- 前所有者の協力を得て登記をする方法
- 裁判手続きを経て登記をする方法
(2) 土地の時効取得と税金
時効取得によって土地をタダで手に入れることができると考えている方が多いと思います。
確かに、時効取得の場合には、土地の取得費用はかかりませんが、土地の時効取得にあたって以下のような税金が課税されることになります。
①所得税(一時所得)
土地を時効の援用によって取得した場合には、時効取得した土地の財産の価額(時価)が経済的利益となり、一時所得として所得税の課税対象になります。
具体的には、以下のような計算によって一時所得が課税されます。
課税対象となる一時所得の金額={時効取得した土地の財産価額(時価)-土地を時効取得するために直接要した金額-特別控除額(最高50万円)}×1/2
②不動産取得税
時効取得によって土地を取得した場合には、不動産を購入した場合と同様に不動産取得税が課税されます。
不動産取得税の金額は、固定資産評価証明書記載の課税標準額を基準に以下のように計算します。
不動産取得税額=固定資産税評価額×4%
ただし、特例によって、令和6年3月31日までは、税率は3%に引き下げられています。
③固定資産税
固定資産税は、毎年1月1日時点の登記簿または固定資産税課税台帳に所有者として登記または登録されている人に課税されます。
土地を時効取得して所有権移転登記をした場合には、上記基準日を境にして、時効取得者に固定資産税が課税されます。
もっとも、時効取得の要件を判断する要素として、当該土地の固定資産税を納付しているということもありますので、そもそも時効取得者は、時効取得以前から固定資産税を支払っていることが多いといえます。
④登録免許税
時効取得をした土地の所有権移転登記を行う際には、土地の評価額の1000分の20が登録免許税として課税されます。
3.時効取得された土地を購入する場合の注意
時効取得された土地を購入することになった場合には、以下の点に注意が必要です。
(1) 購入する土地の登記名義を確認
時効取得された土地を購入する場合には、まずは、購入予定の土地の登記名義を確認するようにしましょう。
不動産の登記名義は、最寄りの法務局において登記事項証明書を取得することによって確認することができます。
購入する土地の登記名義を確認する理由は、当該土地の売主が本当に土地の所有者であるかを判断することにあります。
土地の売主と登記簿上の所有者が同一人物であれば安心して取引を進めることができますが、土地の売主と登記簿上の所有者が異なる場合には、きちんと事情を確認するようにしましょう。
(2) 売主への移転登記後に購入
土地の売主と登記簿上の所有者が異なる理由が「土地を時効取得したから」という説明があった場合には、その説明を信じて取引を進めてもよいのでしょうか。
土地の時効取得は、時効取得の要件を満たして、時効取得の援用をすることによって、土地の所有権を取得します。そのため、実際の所有者と登記簿上の所有者が異なるという事態が生じます。
そうすると、本当に時効取得によって所有権を取得したのであれば、登記簿上の所有者と異なっていたとしても、取引に応じてもよさそうにも思えます。
しかし、不動産の取引においては、取引の安全を保護する観点から、取引の先後ではなく、登記の先後によって優劣を決める扱いがなされています(民法177条)。このような登記のことを「対抗要件」と呼びます。
たとえば、Aが所有する土地をBが時効取得によって所有権を取得後、AがCに対して当該土地を売却したとします。この場合、Cが先に所有権移転登記手続きを行い、所有権の登記を具備した場合には、Bは、Cに対して時効取得によって所有権を取得したことを主張することができなくなります。
そのため、本当に時効取得によって売主が所有権を取得したとしても、売主が所有権移転登記によって所有権の登記を具備するまでは、買主は、二重譲渡によって権利を失う可能性がありますので、取引に応じるのは控えた方がよいでしょう。
4.時効取得した土地はトラブルが多いため専門家に相談を
時効取得した土地を購入しようとする際には、専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします。
時効取得した土地は、本当に時効取得の要件を満たす土地なのかどうかや土地の所有権移転登記手続きを経ているかどうかによって、購入者が確定的に権利を取得することができるかどうかが変わってきます。安易に取引に応じてしまうと、後日、正当な権利者から連絡があり、購入した土地を手放さなければならないという事態になることもあります。
時効取得の成立には、法律上の複雑な要件がありますので、自分一人で判断するのではなく、専門家である弁護士のアドバイスを得ながら進めていくようにしましょう。