通行地役権とは?
通行地役権とは、平たく言えば「他人の土地を通行する権利」です。
例えば、他人の土地を通らないと公道に出られないなどの事情がある場合、当事者間の合意の上でその土地を通行することができます。
今回は、この通行地役権について解説していきます。
1.地役権・通行地役権とは
地役権とは、他人の土地を、自己の土地の便益に供することができる権利です。
便益に供するとは、平たく言えば、「何らかの役に立てること」であり、その内容は契約によって決めることができます(280条)。
この場合の他人の土地を「承役地」と呼びます。他の土地の「役に立つこと」を、「承った」土地ということです。
他方、この場合、自己の土地を「要役地」と呼びます。他の土地に「役に立ってもらうこと」が「必要な」土地ということです。
地役権の内容、すなわち、承役地をどのように役立てるかは、当事者の契約で自由に決めることができ、要役地の所有者が承役地を通行することができる権利を設定した場合、これを「通行地役権」と呼びます。
承役地が通路として利用できることで、要役地の「役に立つ」ことになるわけです。
民法280条
地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。
2.囲繞地通行権との違い
通行地役権によく似たものに、囲繞地(いにょうち)通行権というものがあります。
囲繞地通行権とは、公道に通じていない土地を所有する者が、この土地を取り囲む土地を通行することができる権利です(民法210条1項)。
[参考記事] 囲繞地通行権をわかりやすく解説これらは、どちらも同じく他人の土地を通行する権利です。
では、両者にはどのような違いがあるのでしょうか?
①合意の有無
囲繞地通行権は、袋地(公道に通じていない土地)が発生した場合、当事者間の合意に関わらず法律上当然に発生します。
他方、通行地役権は、当事者間の合意で発生します。袋地であるか否かは無関係です。合意さえできれば、隣地を承役地とした通行地役権を設定することも自由です。
②通行できる範囲
囲繞地通行権では、通行にあたっては囲繞地所有者にとって損害の少ない方法を選ぶ必要があります。
他方で通行地役権の場合、通行できる幅をどのようにするのかは当事者の契約において決定します。
③通行料の有無
囲繞地通行権を有する者は、囲繞地所有者に損害を与えた場合に償金を支払わなければなりません。しかし、前述の通りこれは対価ではないので、不払いがあっても囲繞地通行権は消滅しませんし、通行を拒絶することもできません。
他方で通行地役権の場合、民法280条は無償を原則としていますが、対価としての通行料の有無や金額については当事者双方が自由に定めることができますので、有償で承役地を利用する合意も可能です。
また契約関係ですから、有償での通行地役権を合意したにもかかわらず、その不払いがあった場合には、地役権の設定契約を解除したり、通行を拒否したりすることが可能です。
④権利の存続期間
囲繞地通行権には存続期間は存在せず、袋地と囲繞地の関係が続く限りは、いつまでも囲繞地を通行することができます。
他方で、通行地役権は契約により発生しますので、当事者が合意した期間が経過すると消滅します。
なお、地役権に期間を定めず、永久の地役権を設定することも認められると理解されています(通説)。
ただし、地役権は権利を行使できるときから、20年間行使しないときには時効により権利が消滅します(291条、166条2項)。
⑤対抗要件の要否
囲繞地通行権では、袋地の所有者であれば法律上当然に権利が認められ、囲繞地の所有者であれば法律上当然に義務を負担するので、取引の安全を考慮する場面ではなく、袋地所有者に所有権登記がなくとも、囲繞地所有者に対して権利を主張することが認められます(※最高裁昭和47年4月14日判決)。
他方、通行地役権の場合、当事者の合意で設定される以上、たとえ要役地の所有者に所有権登記がなくとも、当事者である合意した承役地所有者(通行地役権設定者)に対し地役権を主張することは当然に可能です。
ただし、通行地役権設定者以外の第三者に通行地役権を主張するためには取り引きの安全に考慮して対抗要件として登記が必要となります。
通行地役権設定者以外の第三者とは、例えば要役地を購入しようとする買主です。買主からすれば、購入しようとする要役地にどのような通行地役権が設定されているか分からないため、買主にとって不測の事態が生じる恐れがあります。
そこで対抗要件としての登記が必要とされているのです。
3.通行地役権は契約の自由度が高い
このように、通行地役権はその内容を契約で自由度高く決めることができます。
そしてその分、当事者同士で契約内容に争いが生じることが少なくありません。
隣地通行の問題が生じそうな方、通行地役権の契約で難航している方は、弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。