普通建物賃貸借と定期建物賃貸借の違いを解説
建物の賃貸借契約には、普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約が存在します。この記事では、両者を比較してその違いを解説します。
1.普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約とは?
賃貸借契約とは、他人の物を貸してもらう代わりに、賃料を支払うことを約する契約をいいます。
建物賃貸借とは、建物について賃貸借契約を結ぶ場合をいいます。例えば、マンションの一部屋を借りてそこに住んでいる場合、マンションないしその部屋の所有者との間で賃貸借契約を結んでいるケースがほとんどでしょう。
賃貸借契約について定めているのは民法ですが、建物の賃貸借については、賃借人を保護するため、借地借家法が適用されています。同法により民法の規定の適用が修正されており、賃借人の保護が手厚くなっています。
2.普通建物賃貸借契約と定期賃貸借契約の違い
(1) 契約成立の要件
契約を結ぶ場合、契約書が必要と考えている方が多いと思いますが、実際は書面又は口頭による契約が可能です(民法522条1項、2項)。普通建物賃貸借契約も例外ではなく、口頭による契約も可能です。
他方で定期建物賃貸借契約の場合、公正証書による等書面により契約をしなければなりません(借地借家法38条1項)。また、契約に際してあらかじめ、契約の更新がないこと、期間満了により賃貸借契約は終了することについて、書面を交付してこれを説明しなければなりません(借地借家法38条2項)。
この説明をしなかった場合、契約の更新がないこととする旨の定めは無効となります(借地借家法38条3項。普通建物賃貸借契約となる)。
(2) 賃貸借の期間
普通建物賃貸借契約の場合、賃貸借の期間を1年未満とする場合には期間の定めのない賃貸借とみなされます(借地借家法29条1項)。
他方で定期建物賃貸借契約の場合、借地借家法29条1項の規定の適用が排除されているため(借地借家法38条1項)、賃貸借契約の期間が1年未満の契約をすることも可能です。
(3) 賃貸借の契約更新
①普通建物賃貸借契約の場合
普通建物賃貸借契約は、賃貸借期間の定めがある場合とない場合があります。
期間の定めがある場合、その期間が満了しても直ちに契約が終了するわけではありません。
すなわち、契約の当事者が期間満了の1年前から6か月前までの間に、相手方に契約の更新をしない旨の通知や、条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしない場合は、従前の契約と同一条件で契約をしたものとみなされます(借地借家法26条1項本文)。
もっとも、この規定により更新された場合には、以降継続する賃貸借契約は期間の定めのないものとされます(借地借家法26条1項但書)。したがってこの場合、以下で説明する期間の定めのない賃貸借契約と同じ法理が適用されます。
期間の定めがない場合(当初から賃貸借の期間を定めなかった場合、上記説明した規定により更新された場合)、当事者はいつでも解約の申し入れをすることができるのが原則です(民法617条1項柱書)。
しかし、期間の定めがある場合であろうと、ない場合であろうと、建物賃貸人による契約の更新拒絶や解約の申入れは制限されています。すなわち、建物賃貸人による契約を更新しない旨の通知や賃貸借の解約の申入れは、正当事由がない場合には認められていません(借地借家法28条)。
正当な事由があるか否かは以下の事情を考慮して決せられます。
- 賃貸人・賃借人が建物の使用を必要とする事情
- 建物賃貸借の従前の経過
- 建物の利用状況や建物の現況
- 賃貸人が建物明渡しと引き換えに賃借人に対してする財産上の給付の有無・金額(いわゆる立退料等)
②定期建物賃貸借契約の場合
定期賃建物貸借契約の場合、契約の更新がないことを契約内容として定めることができます(借地借家法38条1項)。この場合、正当事由の有無にかかわらず、賃貸借契約の期間満了により賃貸借契約は終了します。
もっとも、定期賃貸借の期間が1年以上の場合、賃貸人は、期間の満了から1年前から6か月前までの間に、賃借人に対して、期間満了により賃貸借契約が終了する旨の通知をしなければなりません(借地借家法38条4項本文)。
この通知を欠いた場合、賃貸借契約の終了を賃借人に主張できません。仮に通知を失念していた場合には、その後通知をした時から6か月を経過した後に賃貸借契約の終了を主張できます(同項但書)。
[参考記事] 定期建物賃貸借契約の契約期間につき、上限や下限はある?(4) 中途解約
①普通建物賃貸借の場合
普通建物賃貸借契約に期間の定めがない場合、賃貸人、賃借人共にいつでも中途解約が可能です。期間の定めがあっても、中途解約の特約がある場合も同様です。もっとも先述のように、賃貸人からの中途解約には正当な事由が必要です。
他方で、期間の定めのある賃貸借で中途解約の特約がない場合、中途解約をすることはできません。
②定期建物賃貸借の場合
中途解約の特約がある場合には、中途解約が可能です。中途解約の特約がない場合でも、賃借人は以下の2つの要件に該当する場合には賃貸借契約の解約が可能です(借地借家法38条5項)。
- 居住用建物の賃貸借(床面積が200平方メートル未満の建物に係るものに限る。)
- 転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったとき
(5) 賃料増減額請求
賃貸借契約においては賃料(家賃)が定められます。
普通建物賃貸借契約の場合、賃料が、①土地や建物に対する租税その他の負担の増減、②土地や建物の価格の上昇や低下その他の経済事情の変動、③近場の同種の建物の賃料に比較して不相当となったときには、当事者は賃料の増減を請求することができます(借地借家法32条1項)。
一定期間、賃料を増額しない旨の特約がある場合には、賃料増額を請求することができません(同項但書)。
他方で、賃料を減額しない旨の特約は無効です(同項但書の反対解釈)。
定期建物賃貸借契約の場合、賃料の改定についての条項を定めたときは、借地借家法32条の規定は適用されず、その条項に従います(借地借家法38条7項)。そのため、賃料減額請求を排除する旨の特約も有効とされる余地があります。
3.まとめ
普通建物賃貸借契約、定期建物賃貸借契約は、双方ともにメリット・デメリットがあります。しかし、賃貸借の終了までを考え、どのような契約を結ぶのがベストか判断するのは一般の方には困難です。
テナント・オーナーとして賃貸借を結ぶ際に疑問点がありましたら、すぐに法律家に相談してみてください。