空き家は強制的に壊される!?行政代執行の手続き・注意点
空き家を適切に管理せず放置していると、「行政代執行」によって強制的に取り壊される可能性があります。
空き家の行政代執行が行われた場合、取り壊しの費用は、所有者等の負担となってしまいます。
所有する空き家が行政代執行によって取り壊され、思わぬ出費を強いられることがないように、行政代執行を回避するための対策を講じておきましょう。
この記事では、空き家の行政代執行について、空家等対策特措法と行政代執行法の規定を中心に解説します。
1.行政代執行とは?
法令等によって何らかの行為が義務付けられたとしても、その義務が適切に履行されるとは限りません。
「行政代執行」とは、このような場合に行政庁が、義務者に代わって義務に当たる行為をし、その費用を義務者から徴収する手続きです。
(1) 行政代執行が行われる要件
行政代執行は、「行政代執行法」という法律に基づいて行われます。
行政代執行を実施できるのは、以下の要件をすべて満たす場合です(行政代執行法2条)。
- 法令上の義務または行政庁の命令により、一定の行為が義務付けられていること
- 当該義務が履行されないこと
- 当該義務に係る行為が、他人が代わりになすことのできるものであること
- 他の手段によって履行を確保することが困難であること
- 不履行を放置することが、著しく公益に反すると認められること
少々の違法状態であれば、行政代執行という大々的な処分が行われる可能性は低いです。
しかし、近隣に具体的な被害が発生しており、かつ再三にわたって所有者等への警告が行われたにもかかわらず義務が履行されない場合には、行政代執行が実施される可能性が高まってきます。
(2) 行政代執行が行われる場合の具体例
行政代執行は、以下のような場合に行われます。
- 道路に越境している木の枝を切断する
- 路上に放置されているゴミを撤去する
- 倒壊しそうな家屋を解体する など
特に、空き家の管理が適切に行われないまま築年数が積み重なってくると、倒壊の危険性が高まります。
この場合、行政代執行によって空き家が強制的に取り壊されてしまう事態が現実的になってしまうのです。
2.「空家等対策の推進に関する特別措置法」について
相続などをきっかけとして、日本各地で空き家が増加したことが問題視されたことを踏まえて、2015年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行されました。
(1) 空家等対策特措法の目的
空き家は、所在する地域に対して、以下の悪影響を発生させることがあります。
①防災
空き家には耐震性の低い建物が多いため、地震によって倒壊し、近隣の住民や建物に被害を及ぼすおそれがあります。
また、空き家は耐火性も低い傾向にあるため、周辺で火災が発生した際には、延焼による被害を拡大させるおそれがあります。
②衛生
空き家の敷地に植えられている樹木が腐食したり、敷地内にゴミが捨てられたりして、周辺地域の衛生環境を悪化させるおそれがあります。
③景観
適切に管理されていない空き家はどんどん劣化し、周辺の景観にそぐわない姿となり、街の美観の観点からも悪影響を生じさせるおそれがあります。
こうした悪影響を発生させる空き家について、適正な手続きに従い、除却を含めた必要な措置を講じることが、空家等対策特措法の目的です。
(2) 「特定空家等」が取り壊しの対象
空家等対策特措法の規定に基づき、行政代執行による取り壊しの対象となる空き家は、「特定空家等」です(空家等対策特措法2条2項)。
「特定空家等」とは、周辺の生活環境の保全を図るために、放置することが不適切な状態にあると認められる空き家(建築物)や、その附属工作物・敷地を意味します(国または地方公共団体が所有・管理しているものを除きます)。
特定空家等に当たる空き家の例としては、以下のものが挙げられます。
<特定空家等の例>
・そのまま放置すれば、倒壊など、著しく保安上危険となるおそれのある空き家
・そのまま放置すれば、著しく衛生上有害となるおそれのある空き家
・適切な管理が行われていないことにより、著しく景観を損なっている空き家 など
3.空き家取り壊しの流れ
空き家が行政代執行によって取り壊されるまでには、空家等対策特措法・行政代執行法に基づき、以下の手続きが必要となります。
(1) 所有者等に対する助言・指導
特定空家等が所在する市町村の長は、特定空家等の所有者または管理者に対して、除却・修繕・立木竹の伐採など、周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとるよう、助言または指導を行うことができます(空家等対策特措法14条1項)。
ただし、特定空家等を除却すべき旨の助言または指導を行うことができるのは、以下のいずれかの場合に限られます。
- そのまま放置すれば、倒壊など、著しく保安上危険となるおそれのある場合
- そのまま放置すれば、著しく衛生上有害となるおそれのある場合
(2) 所有者等に対する勧告
市町村長による助言または指導が行われても、なお特定空家等の状態が改善されない場合には、市町村長は相当の猶予期限を付したうえで、除却・修繕・立木竹の伐採など、周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとるよう、所有者または管理者に勧告することができます(空家等対策特措法14条2項)。
勧告は、依然として法的拘束力はないものの、助言・指導よりも強めの行政指導という位置づけです。
なお、市町村長による勧告が行われた場合、当該特定空家等については、固定資産税の住宅用地の特例の適用を受けられなくなってしまいます。
参考:固定資産税の住宅用地の特例とはどのようなものですか。|金沢市
(3) 所有者等に対する命令
特定空家等の所有者または管理者が正当な理由なく勧告に従わない場合において、特に必要と認めるときは、市町村長は、相当の猶予期限を付したうえで、勧告に係る措置をとるよう命令することができます(空家等対策特措法14条3項)。
命令を発するためには、対象者に対して事前に意見陳述等の機会を与えなければなりません(同条4項~8項)。
「命令」の段階になると法的拘束力が生じ、特定空家等の所有者または管理者は、市町村長の命令に従わなければなりません。
命令に従わなかった場合、「50万円以下の過料」に処される可能性があります(同法16条1項)。
(4) 行政代執行の戒告
市町村長の命令に係る措置を、特定空家等の所有者または管理者が、
- 履行しないとき
- 履行しても十分でないとき
- 履行しても期限までに完了する見込みがないとき
には、行政代執行が認められるようになります(空家等対策特措法14条9項)。
行政代執行を実施する際には、相当の履行期限を定め、その期限までに履行がなされないときは代執行をなすべき旨を、特定空家等の所有者または管理者に対して、事前に文書で戒告しなければなりません(行政代執行法3条1項)。
(5) 行政代執行の通知
戒告によって指定された期限までに、特定空家等の所有者または管理者が義務を履行しない場合には、市町村長が「代執行令書」を発送して通知を行います(行政代執行法3条2項)。
代執行令書には、以下の事項が記載されています。
- 代執行をなすべき時期
- 代執行のために派遣する執行責任者の氏名
- 代執行に要する費用の概算による見積額
なお、戒告と代執行令書による通知については、非常の場合または危険切迫の場合で、急速な実施について緊急の必要がある場合には省略することが可能です(同条3項)。
(6) 行政代執行の実施・費用の徴収
代執行令書による通知の後、指定された時期が到来したら、行政代執行が実施されます。
代執行の際には、執行責任者が現場に派遣され、適宜解体業者を手配したうえで、空き家の除却が行われます。
代執行に要した費用は、国税滞納処分の例により、特定空家等の所有者または管理者から徴収されます(行政代執行法5条)。
4.所有者・管理者不明の空き家は「略式代執行」
行政代執行は、あくまでも所有者または管理者が判明している空き家についてのみ行うことができます。
しかし実際には、度重なる相続などによって所有者・管理者が不明となっている空き家も存在します。
所有者・管理者不明の空き家についても、防災・衛生・景観の観点から、周辺地域に悪影響を及ぼし得る点は同様です。
そこで、市町村長が過失なく、空き家の所有者・管理者を確知できない場合には、「略式代執行」と呼ばれる手続きにより、空き家の除却等を行うことが認められています(空家等対策特措法14条10項)。
略式代執行を行う場合、市町村長は相当の期限を定めたうえで、期限が過ぎれば略式代執行を行う旨を公告しなければなりません。
実際に略式代執行が行われる場合、その費用は市町村の財源によって賄われます。
5.空き家の行政代執行を回避する方法
自らが所有または管理する空き家について、行政代執行が行われた場合、空き家そのものを失ってしまうばかりでなく、代執行費用として巨額の出費が発生してしまいます。
このような事態を避けるためには、早い段階で以下の対策を講じておきましょう。
(1) 自ら空き家を解体して、更地にする
空き家を活用する具体的な予定がない場合には、ご自身で空き家を解体して更地にしてしまうことも考えられます。
自ら解体を行う場合、解体業者を自分で選定できるので、解体費用を安く抑えられる可能性があります。
更地にした後は、新たに建物を建築したり、駐車場などの用地に転用したりするなど、ご自身の状況や地域のニーズに合った活用方法をご検討ください。
(2) 敷地と空き家を一体で売却する
空き家の管理にも費用がかかるうえ、長年空き家とその敷地を所有していると、固定資産税の負担も積み重なります。
このような経済的負担が重い場合には、敷地と空き家を一体で売却してしまうのも一つの選択肢です。
建物にはほとんど価値がないとしても、立地がよければ、敷地部分だけでも高値が付く可能性があります。
ただし、空き家を除却したうえでの売却を求められるケースも多く、その場合は解体費用の負担が発生する点に注意しましょう。
(3) 空き家を適切に管理する
空き家を維持していく場合には、行政代執行による除却を避けるため、適切に管理を行う必要があります。
ご自身で管理することが物理的に難しい場合には、管理業者に依頼する方法も考えられます。
少なくとも、周辺の防災・衛生・景観に悪影響を及ぼすことのないよう、定期的に空き家のメンテナンスを行いましょう。
6.まとめ
空き家の管理が適切に行われていないと、行政代執行によって取り壊されてしまうおそれがあります。
使い道のない空き家については、取り壊したり売却したりして、資産の有効活用を図りましょう。
空き家を維持していくならば、管理業者にメンテナンスを委託することも、行政代執行を避けるための有力な対策となります。
空き家問題は、相続をきっかけとして発生するケースが多いです。
ご家族に発生した相続に伴い、空き家の対処にお悩みの方は、お早めに弁護士までご相談ください。