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賃貸物件の修繕費を賃借人負担とすることはできる?

賃貸物件の修繕費は、賃貸人にとっては無視できないランニングコストとなります。
そのため、賃貸物件の収益性を高める目的で、修繕費をどうにか賃借人負担にできないかと考えるオーナーの方もいらっしゃるでしょう。

修繕費の負担を賃借人に転嫁するには、法律・契約に関するルールを踏まえたうえで、きちんと契約上の手当を行っておくことが大切です。

この記事では、賃貸物件の修繕費を賃借人負担としたい場合の注意点につき、建物オーナーの視点に立って解説します。

1.賃貸物件の修繕費は誰が負担する?

賃貸物件の修繕費を誰が負担すべきかについては、民法によって以下のとおり整理されています。

(1) 経年変化と通常損耗の修繕費は賃貸人が負担

民法606条1項本文により、賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負うとされています。

同規定に基づき、賃貸人が修繕義務を負うのは、「経年変化」と「通常損耗」です。

経年変化:年数の経過によって当然に生じる建物の変化
通常損耗:建物を使用するに当たって自然に生じる損耗

つまり、賃借人が普通に賃貸物件を使用する中で生じる損耗については、修繕費を賃貸人が負担するのが民法の原則となります。

なお、経年変化・通常損耗には、以下の損耗等が該当します。

  • フローリングのワックス跡
  • 家具の設置に伴う床やカーペットのへこみ
  • 日照などによる畳の変色、フローリングの色落ち、クロスの変色
  • テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の電気ヤケ
  • 壁に貼ったポスターや絵画の跡
  • 壁の画鋲、ビンなどの穴
  • エアコン設置による壁のビス穴
  • 網戸の汚れ
  • 水回りに固着した汚れ など

(2) 賃借人に帰責性がある損耗等の修繕費は賃借人が負担

これに対して、賃借人の責めに帰すべき事由によって賃貸物件の修繕が必要となった場合修繕費用は賃借人の負担となります(民法606条1項但し書き)。

賃借人の責めに帰すべき事由による損耗等の例は、以下のとおりです。

  • 引っ越し作業中に生じた床や壁面の傷
  • 落書き
  • 賃借人の不注意による畳の変色、フローリングの色落ち、クロスの変色
  • タバコのヤニや臭い
  • ペットによる柱の傷や臭い
  • 壁のくぎ穴、ねじ穴
  • 天井に直接取り付けた照明器具などの跡
  • クーラーからの水漏れなどを原因とする壁の腐食 など

2.修繕費を賃借人負担とする特約は有効?

前述のとおり、民法のルールに従うと、賃貸物件の修繕費は賃借人の責めに帰すべき事由により修繕が必要となった場合を除いて賃貸人負担となります。

この点、賃貸人が修繕費の負担を回避したい場合には、賃貸借契約において、修繕費を賃借人負担とする特約を規定しておくことが考えられます。

このように、修繕費を全面的に賃借人負担とする特約は、法的に有効なのでしょうか。

(1) 費用の負担のみであれば原則有効

修繕費を原則賃貸人負担とする民法606条1項の規定は、特約によって排除可能な「任意規定」と解されています。

修繕費を賃貸人・賃借人のどちらが負担するかは、基本的に当事者同士の交渉・契約マターであって、契約自由の原則が妥当するからです。

契約自由の原則の下、その内容が合理的であれば、修繕費について民法の規定とは異なる特約を設けることも認められます。

「修繕費を賃借人負担とする」という内容の特約は、あくまでも賃貸人の修繕義務を免除するに過ぎず、賃借人に対して修繕義務を課すものではありません。

そのため、賃借人に対して過酷な内容とまでは言えず、特約の有効性が認められる可能性が高いでしょう。

(2) 賃借人に修繕義務(原状回復義務)まで負わせる場合

ただし、単に賃貸人の修繕義務を免除するだけでなく、賃借人に修繕義務を負わせることまで含む特約の場合は、賃借人の負担が重いので、一定の要件を満たさなければ無効と判断される可能性があります。

この点、賃貸物件の損耗等の原状回復に関する国土交通省のガイドラインでは、賃借人に修繕義務を負わせる特約は、以下の3つの要件を満たさなければならないことが指摘されています。

①特約の必要性と客観的・合理的理由があること

消費者契約法の規定に鑑み、賃借人に修繕義務を負わせる特約は、賃借人にとって一方的に不利な内容であってはなりません。

たとえば、家賃を周辺相場に比較して明らかに安価に設定する代わりに、賃借人に修繕義務を課す場合など、賃借人から見た負担と利益がある程度釣り合っている必要があります。

②賃借人が特約の存在・内容を認識していること

賃借人が予期しないうちに特別の負担を課されてしまうことを防ぐため、契約書への記載や口頭での説明などにより、賃借人が特約の存在・内容を明確に認識していることが必要です。

③賃借人が特約による義務を負担する意思表示をしていること

②と同様に、賃借人の不意打ちを防止するため、賃借人が特約によって特別な義務を負担するという明示的な意思表示が必要になります。

[参考記事] 退去時の原状回復義務とは?

【参考】原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版、平成23年8月)|国土交通省住宅局

3.修繕費を賃借人に負担させたい場合の注意点

特約によって修繕費の負担を賃借人に転嫁したい場合、契約締結の際に、以下の各ポイントに留意して対応しましょう。

(1) 契約書に明確に規定する

民法の原則では、経年変化・通常損耗の修繕費は賃貸人が負担するのが原則です。
この修繕費・修繕義務に関するルールを変更するには、賃貸借契約において、明示的に変更後のルールを特約として書き込まなければなりません

<条文例>
本物件に生じた損耗等(経年変化および通常損耗を含む)の修繕費は、すべて賃借人の負担とする。なお疑義を避けるために付言すると、賃借人は、賃借人の責めに帰すべき事由によって生じた損耗等を除き、本物件に生じた損耗等を修繕する義務を負うものではない。

上記の条文例では、まず第一文において、経年変化・通常損耗を含む損耗等の修繕費を賃借人負担とすることを明記しています。

「経年変化および通常損耗を含む」としっかり明記しておくことがポイントです。

さらに第二文において、賃借人が民法の原則を超える修繕義務まで負うものではないことを注記しています。
これは、賃借人に過大な義務を課す条項として、特約が無効とされるリスクを防ぐためです。

このように、民法の原則と比べてどの部分が異なるのかを、過不足なく条文に落とし込むことが重要になります。

(2) 特約の内容を賃借人に十分に説明する

契約書に特約を明確に規定したとしても、それだけでは賃借人がきちんと特約の内容を理解していることの証左としては不十分です。

賃借人の特約に対する理解度が十分であることを確認するため、特約の内容を口頭で説明するとともに、その状況を録音などで証拠化しておくとよいでしょう。

(3) 賃料水準とのバランスも要考慮

前述のとおり、修繕費の負担だけでなく、賃借人に賃貸物件の修繕義務まで負わせる場合には、特約の有効性を確保するために厳格な要件を満たさなければならないことに注意が必要です。

特に賃貸人としては、特約が賃借人にとって一方的に不利な内容であると判断されないようにする必要があります。

たとえば賃料水準が低廉であるなど、修繕義務以外の部分で賃借人に具体的な経済的メリットがあると説明できれば、賃借人に修繕義務を負わせる特約の有効性が認められやすいでしょう。

賃貸物件の修繕に関する特約の有効性は、契約内容や契約締結の経緯などを踏まえて総合的に判断されます。

特約の有効性に関する判断が微妙で難しい場合には、弁護士にご相談ください。

4.まとめ

賃貸物件の修繕義務は、経年変化・通常損耗については賃貸人が負い、賃借人の責めに帰すべき事由による損耗等については賃借人が負うのが民法の原則です。

修繕費を賃借人に転嫁する旨の特約は、原則として有効です。
特約を賃貸借契約に規定する際には、民法との違いを明確に書き込むようにしましょう。

ただし、賃貸人に民法の範囲を超えた修繕義務まで負わせる旨の特約は、賃借人にとって一方的に不利なものとして、有効性に疑義が生じる場合も多いです。

特約が無効とされた場合、賃貸人としては予期せぬ負担を強いられてしまうので、契約書作成の段階から弁護士のリーガルチェックを受けることをお勧めいたします。

弁護士にご相談いただければ、特約の法的な有効性に関する判例・考え方を踏まえたうえで、できる限り賃貸人の想定・希望に沿った契約内容に調整いたします。

修繕費の負担について、契約上の調整を行いたい建物オーナーの方は、一度弁護士までご相談ください。

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