一戸建ての売買の詳細

1.契約の成立

不動産の売買は、法律的には、売買契約という典型契約の一つに該当します(民法555条)。そして、契約とは、当事者の合意によって成立する法律行為ですので、方法が書面であれ、口頭であれ、当事者間に合意があれば成立します。

もっとも、不動産売買のほとんど全てが契約書を作成し、書面での合意によって契約が締結されています。その理由は、不動産売買が高額取引であることから、後日「言った・言わない」の争いになると、大きな損害を被ってしまうからです。後のトラブルを避けるために、合意があったことを目に見える形で残しておくために契約書が作成されるのです。

そのため、契約書がないことから、直ちに契約そのものがなかったということにはなりません。しかし、訴訟で争いになった場合に、契約書が極めて有力な証拠になりますので、不動産売買においては、たとえどんなに親しい間柄であっても契約書は必須といえます。

2.住宅ローン特約

一戸建ての家を売買する場合に、契約書に住宅ローンについての条項が設けられることがあります。このように、住宅ローンについて特別な条項を設けて合意することを一般に「住宅ローン特約」といいます。

住宅ローン特約の一般的な内容は、居住用の一戸建てを購入する場合において、金融機関等からの融資によって売買代金を支払う場合に、融資が不成立であれば売買契約を白紙に戻すというものです。

現在、一戸建てを購入する際に、売買代金を現金で一括で支払うということは稀で、ほとんどの場合、頭金のみを払い、残額は金融機関のローンを組む方法によって支払われます。
そのため、ローンが組めない場合には、買主は売買代金を調達できなくなり、支払いに窮してしまいます。そこで、住宅ローン特約によって、ローンが組めなかった場合には、売買契約が解除できるようにしたのです。

しかし、他方で、売主としては、その買主に一戸建てを売るために精一杯努力して、何とか契約にこぎつけた場合もあり、いきなり契約が白紙になってしまうと大きな不利益を受けます。そこで、裁判実務においては、買主が融資の成立のために努力する義務を果たした場合に限り、住宅ローン特約が適用されることになっています。

具体的には、買主が金融機関に対して、返済意思・返済能力に関して真実の申告をし、その申告が真実であるかどうかを判断するに足りる必要書類(給与明細、源泉徴収票など)を提出していることが必要です。

3.重要事項説明

現在、不動産売買の多くは、宅地建物取引業者が売主になるか、売買契約の仲介をすることによってなされます。この場合、宅地建物取引業者の宅地建物取引士は、取引の相手方や当事者に対して重要事項を説明する義務を負います(宅地建物取引業法35条)。
ここでいう重要事項とは、契約の当事者、物件についての権利関係、インフラ設備、物件に課された法令上の制限、契約解除についての条項等の事項です。

宅地建物取引士が重要事項説明義務に違反した場合であっても、直ちに売買契約が無効になるわけではりません。しかし、これらの重要事項について、故意に事実と異なる説明をした場合には、詐欺にあたって契約を取り消すことができる場合があります(民法96条1項)。

また、説明を怠ったことにより、買主又は当事者が錯誤に陥った場合にも、取り消しの対象になり得ます(民法95条)。

4.契約交渉段階での法律問題

(1)契約締結上の過失

契約の締結が途中で挫折し、契約成立に至らなかった場合であっても、当事者の一方が他方に対して、不法行為に基づく損害賠償責任を負う場合があります。これを「契約締結上の過失」といいます。これは、契約交渉段階においても、契約交渉をしている当事者は、相互に相手方に対して、不測の損害を与えないよう誠実に対応すべき信義則上の注意義務を負うことを根拠に認められる責任です。

(2)損害賠償の範囲

契約締結上の過失に基づく損害賠償が認められる範囲は、契約の成立を信じたために生じた損害(信頼利益)のみです。たとえば、契約が成立するものと信じて、銀行から資金を借り入れたときにかかった費用であれば認められます。しかし、契約が成立したものと仮定した場合に得られる利益、たとえば、不動産を転売して得られるはずだった利益等は、損害とは認められません。

なお、契約の成立を信じたことにつき、当事者に過失があった場合には、契約締結上の過失により損害賠償請求権が認められたとしても、過失相殺がなされる可能性があります。

5.申込証拠金

正式に契約が成立する前に、買受希望者から売主に対して、少額の金銭が支払われることがあります。この金銭を「申込証拠金」といいます。

この申込証拠金の法的性格については、①予約契約についての手付契約、または②真摯な買受け意思の保障と売止めの代償という趣旨で金銭を交付する特殊な契約、という二種類の解釈ができます。

①と解釈されれば、買主は、手付を放棄することによって予約契約を解約し、売買契約を締結しないことができます。この場合には、申込証拠金は返還されません。
②と解釈されれば、まず、当事者間で申込証拠金の返還について合意があれば、これに従います。合意がない場合には、解釈によって、真摯な買受け意思の保障という趣旨にとどまるのか、売止めの代償を担保する趣旨をも含むのかを判断します。この場合、前者であれば、返還を請求できますが、後者であれば返還を請求できないことになります。

なお、売主が申込証拠金の趣旨を十分に説明しないまま、契約が成立しない場合には返還するかのような物言いで申込証拠金を支払わせる場合もあり、そのような場合には、申込証拠金の返還について暗黙の合意があったもの認められる場合があります。

また、相手方が宅地建物取引業者であれば、申込証拠金を預けていた場合、その返還を請求できます(宅地建物取引業法47条の2第3項、同施行規則16条の12第2号)。

6.契約不適合責任

(1)契約不適合責任

契約不適合責任とは、目的物の種類、品質または数量が契約内容に適合しない場合に、売主が買主に対して負う責任のことをいいます(民法562条以下)。2020年4月1日の民法改正前は「瑕疵担保責任」と呼ばれていました。
改正前後で買主が請求できる内容等にいくつか違いはありますが、ここでは改正後の「契約不適合責任」を中心に解説します。

契約不適合があった際、買主は売主に対して、追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除ができます。
もっとも、責任追及するには、買主が種類または品質に関する契約不適合を知ってから1年以内に通知する必要があります(民法566条)。なお、不適合を知らなかった場合でも目的物の引き渡しを受けてから10年が経過した場合には、時効にかかり、責任を追及することはできなくなります(民法166条1項2号)。

また、契約不適合責任は任意規定ですので、当事者双方の合意によって適用を排除することができます。もっとも、以下の場合には適用を排除する合意は無効です。

  • 売主が契約不適合を知っていたのに買主に告げなかった場合(民法572条)。
  • 売主が第三者のために権利を設定したり、第三者に譲渡したりしたことで契約不適合になった場合(同条)。
  • 宅建業者が自ら売主となる場合で、民法の規定より買主に不利になる特約(宅地建物取引業法40条)がある場合。ただし、契約不適合について通知する期間を目的物の引渡しの日から2年以上にする特約は有効。
  • 事業者と消費者との契約で、事業者の契約不適合責任を免責する場合(消費者契約法8条2項)。
  • 住宅構造上の主要部分について、新築住宅の売主の引き渡し時から10年間の契約不適合責任に反し、買主を不利にする場合(住宅の品質確保の促進等に関する法律95条)。

(2)現状有姿売買と契約不適合責任

中古の建物を売買する場合に、売買契約書に、「現状有姿で引き渡すものとする」という旨の文言の記載がしばしばなされています。この現状有姿とは、契約時のあるがままの状態で目的物を引き渡すという意味です。この条項現状有姿文言があることを理由に、契約不適合責任が免除されているとの主張がなされる場合が多々あります。

前記のとおり、契約不適合責任は一定の場合を除き当事者間の合意で免除することができます。そして、契約書に記載されている文言から合意内容を解釈する場合には、記載文言を合理的に解釈したとき、売主買主双方が記載されている文言の意味をどう理解するかという観点から解釈がなされます。つまり、契約書に記載されている文言を合理的に解釈した場合に、契約不適合責任を免除する趣旨であると読み取れてはじめて、契約不適合責任免除の合意があったと認められます。

現状有姿文言があれば、文字通り目的物を契約時の状態で引き渡すという意味は合理的に解釈できます。しかし、契約不適合責任とは、買主が売主に対し不適合を是正等させるために有する重要な権利です。

現状有姿という文言の記載のみから、買主がこのような重要な権利を排除する趣旨を読み取ったとは通常考えられず、よって、買主がその旨を合意したものと考えるのは合理的ではありません。したがって、現状有姿という文言があるからといって、契約不適合責任を免除するとの合意があったとは通常認められません。

7.一戸建ての競売

一戸建てを含め、不動産には「競売」という売却手続きがあります。
競売についてはこちらで詳しく解説しています。

不動産の競売・共有

  • 不動産の競売
    • 不動産の競売とは
    • 不動産競売の流れ
    • 不動産競売で落札するメリット・デメリット
      • 不動産競売による落札のメリット
      • 不動産競売による落札のデメリット
    • 不動産競売に参加する場合の大きな注意点2つ
      • 物件の状況を把握する
      • 占有者への対処に苦労することがある

8.クーリングオフ

不動産売買においても、訪問販売等と同様にクーリングオフが認められる場合があります。
まず、①不動産の売主が、宅地建物取引業者(不動産会社等)であることが必要です。個人の売主から不動産を購入した場合には認められません。

次に、②宅地建物取引業者の事務所等以外の場所で売買契約を締結していることが必要です。買主が不動産業者の事務所やモデルルームに出向いて契約した場合や、テント張りの案内所ではクーリングオフの適用外になります。また、契約した場所が、買主の自宅や勤務先であったとしても、買主の方から申し出て、自宅や勤務先での契約締結になった場合には、クーリングオフが適用されません。

さらに、③代金の支払いの完了及び土地建物の引渡しが完了していた場合にも、クーリングオフはできません。いずれかが未了であれば、クーリングオフは可能です。

また、④宅地建物取引業者から、クーリングオフについて書面で告知されてから8日間以内であれば、クーリンオフをすることができます。
なお、後のトラブルを避けるため、クーリングオフの意思表示は、内容証明郵便によって行うのがよいでしょう。

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