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地盤沈下に関する損害賠償責任|売主の責任を問える?

せっかく住宅を新築したのに、地盤沈下によって建物が傾いてしまっては台無しです。

地盤沈下について売主の責任を追及できるかどうかは、地盤沈下が発生した原因によって異なります。
そもそも売主の責任を追及できるかどうか、また責任追及の際にどのような手段を講じるべきかについては、弁護士に相談して検討することをお勧めいたします。

この記事では、地盤沈下によって建物の買主が損害を被った場合に、売主に対して補償を請求できるかどうかについて、法律的な観点から解説します。

1.地盤沈下が起こる原因と売主の法的責任

地盤沈下の原因は、基礎工事の段階で不備があった場合と、予期せぬ大規模災害などの突発事象による場合の2つに大きく分かれます。

売主の責任を追及できるかどうかについても、両者で大きく結論が異なるので、まずは地盤沈下の原因を突き止めるところから始めましょう。

(1) 基礎工事に不備があった場合

建物の基礎工事(土地の造成等)に不備があった場合、引渡しの時点で売買の目的物である土地・建物に欠陥があったことになります。

この場合、買主は売主に対して「契約不適合責任」を追及できる可能性があります(新築住宅の場合は「瑕疵担保責任」と呼ばれます。後述)。

なお、注文住宅のように、オーナーが自ら工事を請負業者(施工業者)に発注している場合には、請負業者(施工業者)が契約不適合責任(瑕疵担保責任)を負担することになります。

建物の基礎工事をどの程度の水準で行うべきかについては、国土交通省がガイドラインを定めています。

【参考】基礎ぐい工事の適正な施工を確保するための大臣告示とガイドラインを策定しました。|国土交通省

同ガイドラインに法的拘束力はありませんが、裁判所が基礎工事の不備の有無を判断するに当たっては、実務上の技術・安全水準を示す有力な資料として参照されるものと考えられます。

(2) 予期せぬ大規模災害などによる場合

これに対して、建物の基礎工事に不備があったとは評価できないものの、一般的な安全基準では想定できない規模の地震などによって地盤沈下が発生した場合には、売主に対して責任を追及することはできません。

このような場合には、実務上の技術・安全水準に照らして、引渡し時点で売買(請負)の目的物である土地・建物に欠陥はなかったことになり、売主に責任を負わせる正当性を欠くためです。

2.地盤沈下で問題となる契約不適合責任

(1) 契約不適合責任(瑕疵担保責任)とは?

地盤沈下が建物の基礎工事等の不備を原因とする場合、買主は売主(または請負業者)に対して「契約不適合責任(瑕疵担保責任)」を追及できます。

契約不適合責任とは、売買や請負などの有償契約において、引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合に、売主(請負人)が買主(注文者)に対して負担する責任をいいます(民法562条以下、559条)。

地盤沈下の原因が建物の基礎工事等の不備にある場合、まさに売買や請負などの目的物の「品質」について、契約の内容に対する不適合があったと評価できます。
そのため、買主(注文者)は売主(請負人)に対して、契約不適合責任を追及することが可能です。

なお、新築住宅に限っては、契約不適合責任と同等の内容で、さらに請求期間が延長された「瑕疵担保責任」が認められています(住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)94条、95条)。

「瑕疵担保責任」は、2020年4月1日施行の改正民法以前の旧民法において、契約不適合責任に相当する売主等の責任として定められていました。
その名残として、品確法では現行法上も「瑕疵担保責任」の用語が用いられています。

[参考記事] 民法改正|瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い

(2) 契約不適合責任を追及する4つの方法

建物の基礎工事等の不備を原因とする地盤沈下について、売主(請負人)の契約不適合責任(瑕疵担保責任)を追及するための方法には、以下の4つがあります。

履行の追完(目的物の修補)

契約不適合責任(瑕疵担保責任)を追及する1つ目の方法は、「履行の追完請求」です(民法562条1項)。
履行の追完とは、契約に従った目的物を引き渡すように改めて請求することを意味します。

地盤沈下の場合、買主(注文者)は売主(請負人)に対して、土地の造成工事のやり直しや、地盤沈下によって損傷を受けた建物部分の修補などを無償で行うように請求できます。

代金の減額

2つ目の方法は「代金の減額請求」です。

買主(注文者)が売主(請負人)に対して、相当の期間を定めて履行の追完請求を行ったにもかかわらず、その期間内に履行の追完がないときは、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することが認められます(民法563条1項)。

なお、地盤沈下に関する履行の追完(修補)を行うことが不可能である場合や、売主(請負人)が履行の追完を拒絶した場合などには、直ちに代金の減額を請求することができます(同条2項)。

損害賠償

3つ目の方法は「損害賠償請求」です。
地盤沈下によって買主(注文者)が損害を被った場合には、その金額の賠償を売主(請負人)に対して請求できます(415条1項)。

地盤沈下による損害としては、修補代金や不動産の価値減少分のほか、地盤沈下に起因するケガ・病気・家具の破損なども含まれます。

なお、売主(請負人)に対する損害賠償請求は、前述の履行の追完請求および代金減額請求と併せて行うことが可能です(民法564条)。

契約の解除

4つ目の方法は「契約の解除」です。

買主(注文者)は、売主(請負人)に対して相当の期間を定めて地盤沈下の修補等を催告し、その期間内に適切な修補等が行われない場合には、売買契約(請負契約)を解除して代金の返還を求めることができます(民法541条)。

ただし、地盤沈下の程度が、契約および取引上の社会通念に照らして軽微である場合には、例外的に買主(注文者)による解除が認められません。

なお、地盤沈下等の修補が不能の場合、または売主(請負人)側が修補を拒絶した場合などには、上記の催告を要せずして契約の解除が認められます(民法542条1項)。

(3) 契約不適合責任を追及できる期間

民法上、買主(注文者)が売主(請負人)の契約不適合責任(瑕疵担保責任)を追及できる期間には、一定の制限が設けられています。
契約内容によっては請求期間がかなり短い場合もありますので、弁護士に相談して速やかに対応することをお勧めいたします。

原則として「不適合を知った時から1年」

買主(注文者)が売主(請負人)の契約不適合責任を追及するには、「不適合を知った時から1年以内」に、売主(請負人)に対して不適合の存在を通知しなければなりません(民法566条本文)。

そのため、買主(注文者)が地盤沈下の発生を認識したら、すぐに弁護士を通じて全体像の調査・把握に着手し、売主(請負人)に不適合の存在を通知しましょう。

なお、売主(請負人)が目的物の引渡し時に不適合を知り、または重大な過失によって知らなかった場合には、上記の「1年以内」の期間制限は適用されません(同条但し書き)。

新築住宅の場合は「引渡しの時から10年」

売買契約・請負契約の目的物が新築住宅である場合に限り、品確法94条1項および95条1項に基づき、瑕疵担保責任の請求期間は「引渡しの時から10年」となります。

仮に売買契約(請負契約)で売主(請負人)が瑕疵担保責任を負わない旨の規定が置かれていたとしても、当該規定は品確法に違反して無効です(同法94条2項、95条2項)。
そのため、契約書の記載に惑わされずに、弁護士に相談して売主(請負人)の責任を追及する準備に着手しましょう。

3.売主の契約不適合責任を追及する手続き

地盤沈下に関して、売主(請負人)に対して契約不適合責任(瑕疵担保責任)を追及するための主な手続きは、以下のとおりです。

(1) 内容証明郵便の送付・相対交渉

前述のとおり、売主(請負人)の契約不適合責任(瑕疵担保責任)を追及するには、売主(請負人)に対して不適合(瑕疵)の存在を一定期間内に通知する必要があります。

通知の事実を証拠化するためには、郵便局によって内容の証明を受けることができる「内容証明郵便」を送付する方法が有効です。

また、内容証明郵便を送付した後は、買主(注文者)と売主(請負人)の間で、紛争解決を目指した交渉が行われるのが一般的です。

もし双方に代理人弁護士が選任されている場合には、代理人同士で論点の整理を行ったうえで、当事者の希望を踏まえて妥協点を探ることになります。

相対交渉で解決金の支払いなどについて合意できれば、地盤沈下に関する買主(注文者)と売主(請負人)の間の紛争を早期に解決できるメリットがあります。

(2) 住宅紛争審査会のあっせん・調停・仲裁

目的物が居住用家屋(住宅)のケースで、買主(注文者)と売主(請負人)が地盤沈下に関して和解に至らない場合には、「住宅紛争審査会」の紛争解決制度を利用することも考えられます。

【参考】住宅紛争の処理(住宅紛争審査会による調停など)|公益財産法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター

住宅紛争審査会は、住宅に関する紛争を円滑に解決するための機関として、品確法に基づき全国の弁護士会に設置され、あっせん・調停・仲裁のサービスを提供しています。

住宅紛争審査会によるあっせん・調停・仲裁は、訴訟よりも柔軟な手続きのため、当事者のニーズに応じた解決が得られる可能性が高いです。

(3) 訴訟

地盤沈下の補償などに関する買主(注文者)と売主(請負人)の間の対立が決定的になった場合には、買主(注文者)は訴訟手続きを通じて、売主(請負人)の責任を追及するほかありません。

地盤沈下に関する契約不適合責任(瑕疵担保責任)が問題になる訴訟では、買主(注文者)が不適合(瑕疵)の存在を証拠等により立証する必要があります。

裁判所に買主(注文者)側の請求を認めてもらうためには、法律上の要件を踏まえて、主張・立証方針について事前の検討・準備を入念に行うことが大切です。

そのため、法律の専門家である弁護士に相談しながら準備を進めることをお勧めいたします。

4.まとめ

購入した住宅などの不動産が地盤沈下による被害を受けた場合、地盤沈下の原因によっては、売主(請負人)の契約不適合責任(瑕疵担保責任)を追及できる場合があります。

責任追及の方法にはさまざまなパターンが考えられるので、ご自身の希望や経済状況等に応じた適切な方法選択をすることが大切です。
また、売主(請負人)に対する請求を成功させるためには、準備段階で慎重な法的検討を行うことが必要となります。

弁護士にご相談すれば、売主(請負人)に対する責任追及の方法について有益なアドバイスが得られるでしょう。
また、実際の請求に関する検討・準備についてもサポートしてもらえます。

地盤沈下について売主(請負人)の責任追及をご検討中の方は、一度弁護士にご相談されてはいかがでしょうか。

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