民法改正|瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い
令和2年4月1日に大きく改正された民法が施行されました。この大きな改正は約120年ぶりのものです。
この記事では、改正された中でも不動産売買に関して特に重要な改正と言われる「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」と変わったことについて、双方の違いを解説していきます。
1.瑕疵担保責任・契約不適合責任の意義
(1) 瑕疵担保責任
「瑕疵」とは、法律上なんらかの欠陥があることをいい、「担保責任」とは、瑕疵があった場合に相手方が負う法律上の責任のことを言います。
具体的には、次のように規定されていました。
旧民法第570条本文
「売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。」旧民法第566条第1項
「売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。」
すなわち、物件に隠れた瑕疵(欠陥)があった場合、買主は売主に対して契約の解除や損害賠償請求ができるということです。
しかし、この「瑕疵」という表現は一般的に理解され難いため、分かりやすさを重視して民法改正と共に以下の名称に変更がされました。
(2) 契約不適合責任
「契約不適合」とは、契約に適合しないもののことを言います。改正民法では、欠陥が隠れていてもいなくても「契約内容に適合しているかどうか」という点が重要になります。
具体的には、次のように規定されています。
新民法第562条第1項
「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。」
例えば、物件の雨漏りについて買主が知っていたとしても、住宅において雨漏りしないことは通常は当然の前提であり、「雨漏りする」ということを契約として内容に含めていない限り、売主は契約不適合責任を負うことになるでしょう。
なお、契約不適合には、雨漏りやシロアリ被害、耐震基準のような物理的不適合のみならず、近所の騒音や悪臭などの環境的瑕疵、建物内での自殺などの心理的瑕疵も含まれます。
この点は瑕疵担保責任の旧民法と基本的に変わりません。
2.瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い
では、瑕疵担保責任と契約不適合責任には具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
代表的なものを箇条書きにすると以下の通りです。
- 買主が行使可能な権利の種類
- 損害賠償の範囲
- 責任追求できる期間
- 権利行使の期間制限
(1) 買主が行使可能な権利の種類
旧民法第566条第1項にある通り、瑕疵担保責任では、買主は原則として契約の解除もしくは損害賠償の請求のみが可能でした。
契約不適合責任では、上記解除・損害賠償請求に加え、「目的物の修補、代替物の引渡し」又は「不足分の引渡しによる履行の追完」を請求できます。
具体的な事例で考えてみましょう。
<事例>
売主は、中古の建物を買主に引き渡した。しかし、その不動産は契約書の特約に記載がなかったにも関わらず雨漏りがひどく、購入から一ヶ月後の大雨で買主はその事実を初めて知った。
このようなケースで、瑕疵担保責任ならば、買主は瑕疵がある建物を引き渡した売主に対して損害賠償や契約の解除のみができることとなります。
他方、契約不適合責任ならば、雨漏りをする部分の修理を請求することができます(追完請求)。仮に修理が不能である時や、売主が修理に応じない時には、契約の内容に適合しない程度に応じて代金の減額を請求することができます。
これは例え売主に落ち度がなかった場合(例えば、売主も雨漏りについて知らなかった場合)でも認められます。
勿論、従来通り契約解除(催告解除・無催告解除)や損害賠償請求をすることも可能です。
なお、追完請求や代金減額請求と異なり、契約不適合責任の損害賠償請求は売主に帰責事由がない限り請求されません。
帰責事由というのは、単に売主が契約不適合を知っていたかだけではなく、契約の性質・目的、契約に至る経緯、取引通念など、契約に関する一切の事情から契約の趣旨に照らして判断されます。
損害賠償請求できる代表例をシンプルに言えば、売主が欠陥を「知っていたにも関わらず隠していた場合」です。
(2) 損害賠償の範囲
上記の通り、瑕疵担保責任でも契約不適合責任でも売主に損害賠償を請求することは可能です。
しかし、改正後はその賠償の及ぶ範囲が広くなっています。
瑕疵担保責任で損賠賠償請求をする場合、その賠償の範囲は信頼利益に限られていました。
信頼利益とは、契約が無効になった場合に契約が有効であると信頼したために被った損害のことを言います。具体的には、不動産取引の場合であれば、登記費用などが信頼利益にあたります。
しかし、契約不適合責任では、これに履行利益も含まれます。
履行利益とは、契約が履行されていれば得られた利益のことを言います。例えば、買主は購入した中古不動産を転売する予定だったとして、その転売で得られるはずの利益が得られなかったので、その転売利益も損害の範囲に含まれることとなるのです。
そのため、改正により、売主が買主に負う損害賠償請求の範囲が広がったこととなります。
(3) 責任追及できる期間
瑕疵担保責任では、売買契約の時点(契約締結時までに生じた瑕疵)のみが対象となっていました。
すなわち、契約から引き渡しまでの間に発生した瑕疵は含まれず、例えば契約後に生じた原因による雨漏りについては売主に責任追及できませんでした。
しかし、契約不適合責任は、明文で「引き渡された目的物」と規定されていますので、この責任は契約〜引き渡しの間に発生した瑕疵にも適用されます。
この点も、買主にとっては有利になったと言えるでしょう。
(4) 権利行使の期間制限
瑕疵担保責任では、旧民法566条第4項によって、瑕疵があることを知った時から1年以内に損害賠償や解除をしなければならないと規定されていました。
しかし改正により、契約不適合責任では、買主は不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知すれば責任を追及できるとの規定に変更されました(新民法第566条)。
そのため、不適合を知った時から1年以内に不適合であることを通知をしていれば、例えば不適合を知った時から2年が経過していても損害賠償請求等をすることができるようになりました。
ただし、通知後無制限に権利行使できるわけではなく、不適合を知った時から5年または引渡しの時から10年で請求権は消滅します(新民法第166条)。
3.売主が契約不適合責任を負わない特約とその無効
改正後の契約不適合責任を負わない旨の特約については、次のように規定されています。
新民法第572条
「売主は、第五百六十二条第一項本文又は第五百六十五条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。」
上記は、責任を負わない旨の特約があっても、例外的に売主が責任追及されるケースがあることを記載しています。
すなわち、原則としては契約不適合責任を免除する特約は有効です。
しかし、上記民法572条を含め、免責特約が無効になる場合が多数定められており、一般の個人の方が関わる不動産取引では完全免責が無効とされるケースも多いです。具体的に、免責特約が無効になるのは主に以下の場合です。
なお、これらの点は瑕疵担保責任でも契約不適合責任でも基本的には変わりません。
- 売主が契約不適合を知っていたのに買主に告げなかった場合(新民法572条)。
- 売主が第三者のために権利を設定したり、第三者に譲渡したりしたことで契約不適合になった場合(同条)。
- 宅建業者が自ら売主となる場合で、民法の規定より買主に不利になる特約(宅地建物取引業法40条)。ただし、契約不適合について通知する期間を2年以上にする特約は有効。
- 事業者と消費者との契約の場合、事業者の契約不適合責任を免責する場合(消費者契約法8条1項、2項)。なお、事業者は、法人だけでなく事業のために契約する個人を含み、消費者は事業のために契約する場合を除く。
- 住宅構造上の主要部分について、新築住宅の売主の引き渡し時から10年間の契約不適合責任に反し、買主を不利にする場合(住宅の品質確保の促進等に関する法律95条)。
4.まとめ
瑕疵担保責任と契約不適合責任についてまとめると、以下の通りです。
瑕疵担保責任 | 契約不適合責任 | |
---|---|---|
責任の対象 | 隠れた瑕疵 | 契約との不適合 |
買主が行使可能な権利 | 1. 契約解除 2. 損害賠償請求 |
1. 契約解除(催告解除・無催告解除) 2. 損害賠償請求 3. 追完請求 4. 代金減額請求 |
責任追求できる期間 | 契約締結時までに生じた瑕疵のみ | 契約〜引き渡しの間に発生した瑕疵も含む |
権利行使の期間制限 | 瑕疵があることを知った時から1年以内 | 不適合を知った時から1年以内に通知 (不適合を知った時から5年または引渡しの時から10年で請求権は消滅) |
損害賠償責任 | 無過失責任 | 過失責任(売主に責任がある場合のみ) |
損害の範囲 | 信頼利益 | 信頼利益・履行利益 |