不動産仲介会社を通さずに不動産の個人売買をする場合の注意点
仲介手数料を節約したいなどの理由から、不動産業者の仲介を受けることなく、個人間で不動産の売買を行う例が見られます。
不動産の個人売買にはメリットもありますが、トラブルに見舞われる可能性も高まるので、弁護士のアドバイスを受けながら対応することをお勧めいたします。
この記事では、不動産の個人売買に関するメリット・デメリット・注意点・トラブル防止の対策などを解説します。
1.不動産は個人売買も可能
不動産を売買する際には、必ずしも仲介の不動産業者を通す必要はなく、個人間で直接売買を行うことも可能です。
確かに、多くの不動産取引は不動産仲介会社を通して行われています。
しかしこれは、一般の方が不動産取引のノウハウを持っていなかったり、売買の相手方を探すルートがわからなかったりするため、不動産仲介会社を利用した方がスムーズに売買を実現できるという理由によります。
つまり、不動産仲介会社を通さないことによって生じる不便やリスクを受け入れられる場合には、個人間で不動産を売買することもできるのです。
個人売買の相手方を探す際の主なルートは、友人・知人を相手方として個人売買する、友人・知人から相手方を紹介してもらうというケースの他、インターネット上(SNS・アプリなど)で相手方を探すことも考えられます。
2.不動産を個人売買するメリット・デメリット
不動産を個人売買するケースでは、不動産仲介会社を利用する場合に比べて、費用や取引の自由度の観点からメリットがあります。
しかし、手続きの手間やトラブルのリスクの観点からはデメリットが大きいです。
不動産の売買に当たって不動産仲介会社を利用するか、それとも個人売買を行うかを決定する際には、事前にメリット・デメリットを慎重に比較して判断してください。
(1) 不動産を個人売買するメリット
不動産を個人売買する主なメリットは、以下のとおりです。
仲介手数料を節約できる
仲介手数料がかからないことは、不動産を個人売買する際の最大のメリットといえるでしょう。
不動産仲介会社に支払う仲介手数料は、一般的に売買価格の3%前後です。
(例:3%の場合)
売買価格3000万円の場合→ 仲介手数料は90万円
売買価格4000万円の場合→ 仲介手数料は120万円
売買価格5000万円の場合→ 仲介手数料は150万円
このように、仲介手数料はかなり高額になることが多いため、個人売買によって仲介手数料を節約できることは大きなメリットといえます。
売買条件を当事者が自由に決められる
不動産仲介会社は、不動産相場などに基づいて売買の条件を提案してきます。
相場を知ることは当事者にとってメリットもありますが、不動産仲介会社のアドバイスが億劫に感じてしまう場合もあるでしょう。
個人売買の場合は、不動産仲介会社の介入を受けることなく、当事者同士で自由に売買の条件を決められるので、取引の自由度が高い点がメリットです。
(2) 不動産を個人売買するデメリット
不動産を個人売買する主なデメリットは、以下のとおりです。
手続きをすべて自分で行う必要がある
不動産仲介会社を利用するメリットは、手続きの大半を不動産仲介会社が代行してくれる点にあります。
これに対して個人売買の場合、すべての手続きを当事者が自分で行わなければなりません。
たとえば契約書の締結・物件の引渡し・所有権移転登記など、神経を使う作業を軒並み自分で対応しなければならないので、時間的・精神的な負担に繋がってしまうでしょう。
また、手続きに漏れや不備が発生した場合、後にトラブルへと繋がるリスクも高まるので十分に注意が必要です。
不動産業者のネットワークを活用できない
個人売買の場合、売買の相手方を探す際に、不動産業者のネットワークを活用できない点は大きなデメリットといえます。
個人売買のケースで、好条件での売買を実現したければ、よい条件を提示してくれる相手方をご自身で吟味する必要があり、不動産仲介会社に依頼する場合よりも手間がかかるでしょう。
契約トラブルのリスクが高い
不動産仲介会社を通さずに不動産を売買する場合、不動産に関する調査や契約書作成の不備などによって、売買実行後に契約トラブルが発生するリスクが高くなります。
契約トラブルを防止するためには、発生しがちなトラブルのパターンを踏まえたうえで、後述する対策を実施することが大切です。
3.不動産を個人売買する際のトラブル例
不動産を個人売買する際に発生することが多い主なトラブルは以下のとおりです。
(1) 売買実行後に不動産の欠陥が見つかった
売買実行後に不動産の欠陥が見つかった場合、売主が買主から「契約不適合責任」を追及される可能性があります。
問題となる欠陥の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 建物の一部が壊れていた
- 地積や建物の床面積が、契約記載の数値に不足していた
- 建物の床が傾いていた
- 水漏れや雨漏りが生じていた
- 実は過去に入居者が自殺していた など
このような欠陥が見つかった場合、買主は売主の契約不適合責任に基づき、以下の主張をすることが認められます。
- 目的物の追完(修補)(民法562条1項)
- 代金の減額(民法563条1項)
- 損害賠償請求(民法564条、415条1項)
- 契約の解除(民法564条、541条、542条)
売主の契約不適合責任は、売買契約書の定めにより排除することが認められます。
しかし、売主が欠陥の存在を知りながら買主に告げなかった場合には、契約不適合責任を免れることができない点に注意しましょう(民法572条)。
[参考記事] 民法改正|瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い(2) 物件についての十分な説明が行われなかった
宅地建物取引業者による不動産売買では、宅地建物取引業者が相手方に対して、売買に関する重要事項を相手方に告知する義務を負っています(宅地建物取引業法47条)。
個人間売買の場合、上記の告知義務は適用されませんが、売主が買主に対して物件の重要事項を十分に説明することは同じく重要です。
もし十分な説明が行われず、買主が重要事項について誤解したままに不動産を売買してしまうと、売主の説明義務違反による損害賠償請求(民法564条、415条1項)や契約を解除(民法564条、541条,542条)されたり、契約自体の錯誤取消し(民法95条1項)や詐欺取消し(民法96条1項)を主張されたりするおそれがあります。
4.個人売買から生ずるトラブルを防止する対策
不動産の個人売買に関する上記のトラブルを防止するための対策としては、物件の調査・当事者間での認識共有・契約書の作り込みが主な柱となります。
これらの対策を実施する際には、弁護士のサポートを受ければ万全を期すことができます。
(1) 契約締結前に当事者間で認識を共有する
不動産の個人売買を行う際には、事前に物件の状態や特性をよく調べて、想定し得るトラブルの内容を把握しておくことが大切です。
そのためには、売主は買主に対して十分な資料を提供し、買主は資料の内容を慎重に精査しなければなりません。
このようなプロセスを経て、売主・買主間で物件情報についての認識を共有しておけば、その後のトラブルのリスクを抑えることができるでしょう。
(2) トラブル発生時の処理を契約書に書き込んでおく
売買実行後に、万が一物件に関するトラブルが発生した場合、契約書の規定に従ってトラブルを処理することになります。
その際、契約書にトラブルの処理方法がきちんと規定されていないと、売主・買主間で見解の相違が生じ、紛争が泥沼化してしまう事態になりかねません。
そのため、売買契約書の中には、トラブルの発生条件に応じて、売主・買主のどちらがどの範囲で責任を負うかを明確に記載することが大切です。
(3) 物件調査・リスク分析・契約書作成などを弁護士に依頼
上記のトラブル防止の対策を実施する際には、弁護士のサポートを受けることが非常に有効です。
弁護士は、物件資料を精査する法務デュー・デリジェンス・法的リスクの分析・リスクを織り込んだうえでの契約書作成など、不動産取引に関するリスク管理に必要なさまざまなプロセスについて、専門的知識の裏付けをもってサポートいたします。
不動産の個人売買をトラブルなく円滑に実行したい方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
5.まとめ
不動産の個人売買は、仲介手数料を節約できる点や、取引条件に関する自由度が高い点などのメリットがあります。
その一方で、手続きを自分で行う手間が発生することに加えて、契約トラブルのリスクも高まるので、弁護士に相談して適切に対策を実施しておくことをお勧めいたします。