不動産紛争の種類と解決する手段・相談先
不動産オーナーの方は、賃借人・近隣住民・共有者など、さまざまな相手方との間で紛争が発生するリスクを抱えています。
不動産紛争のリスクをゼロにすることはできないので、いざ紛争が発生した場合に備えておくことが大切です。
その一環として、不動産紛争を解決する方法について、基本的な知識を持っておきましょう。
この記事では、不動産紛争を解決する主な方法や、紛争解決を弁護士に相談するメリットなどを解説します。
1.不動産紛争の代表的なパターン
不動産は、所有者・賃借人・管理者といった関係者が多いことや、資産としての規模の大きさ・近隣住民に与える影響などが原因で、さまざまな法律トラブルの原因になり得ます。
特に不動産オーナー(所有者)の方は、紛争が発生した場合にもっとも大きな影響を受けるので、きちんと不動産紛争への備えをしておくことが大切です。
不動産紛争の代表的なパターンとしては、以下の例が挙げられます。
(1) 賃貸借に関する紛争
賃貸人(所有者)と賃借人の間の紛争です。
賃料の未払い、増額・減額、原状回復義務の内容、解約・立ち退きの可否、敷金の返還などが争われるケースが多くなっています。
借地借家法により、賃借人の権利が強く保護されている特徴があり、賃貸人側は苦戦を強いられる可能性があります。
(2) 建物の設計・施行に関する紛争
不動産オーナー(所有者)と設計・施工業者の間の紛争です。
居住用物件や収益物件を新築または譲渡した場合、一定期間は施工業者が「契約不適合責任」を負担し、不具合があった場合には修補を行うなどの義務を負います。
設計・施行紛争では、契約不適合責任に基づく修補義務の存否・代金の減額・損害賠償請求・契約解除などが争われるケースが多いです。
(3) ビル・マンションの建替えに関する紛争
ビル・マンションなどの区分所有建物は、区分所有法に基づく建替え決議を行うことによって、一部の区分所有者が反対していたとしても、建替えを断行することができます。
建替えに反対する区分所有者は、賛成の区分所有者に対して区分所有権を売り渡しますが、売り渡し価格を巡って紛争が発生することも考えられます。
また反対区分所有者は、そもそも建替え決議自体が違法・無効であると主張して、区分所有権の売り渡しを拒否することもあります。
区分所有建物の建替えは、各区分所有者の権利に重大な影響を及ぼすため、紛争が深刻化するケースも多いです。
[参考記事] マンション建替えの流れ・注意点などをわかりやすく解説(4) マンションの管理に関する紛争
マンションの入居者と、管理を行う側(所有者・管理会社・管理組合)の間の紛争です。
共用部分に私物を放置するなど、管理規約等に違反する行為があった場合に、紛争が発生するケースがあります。
[参考記事] マンション管理規約には何が定められている?主な内容・入手方法(5) 相隣関係に関する紛争
不動産の所有者と近隣住民の間の紛争です。
越境・悪臭・騒音・空き家物件の管理などが主な紛争のトピックになります。
(6) 共有物分割に関する紛争
不動産の共有者間での紛争です。
不動産が共有状態の場合、原則として各共有者がいつでも、他の共有者に対して不動産の分割を請求できます(民法256条1項本文)。
その際、分割の方法について共有者間で意見が合わず、最終的に訴訟にまで発展するケースがあります。
(7) 相続不動産に関する紛争
相続財産に不動産が含まれている場合、その不動産をどのように分けるかについて、相続人間で揉め事に発展するケースがあります。
[参考記事] 不動産の遺産分割方法(8) 財産分与に関する紛争
不動産の名義が夫名義か妻名義か、または共有名義かにかかわらず、離婚する夫婦が不動産を持っている場合、不動産をどのように分与するか、夫婦間で争いに発展するケースがあります。
(9) 不動産登記に関する紛争
不動産の真の権利者と登記名義人が異なる場合、登記を権利の実態に合わせる必要があります。
しかしその際、登記名義人が移転登記手続きに協力してくれない場合には、訴訟などに発展する可能性があります。
2.不動産紛争を解決するための主な方法
不動産紛争を解決する主な方法は、以下のとおりです。
(1) 当事者間での話し合い
まずは相手方と話し合いを試み、お互いが納得できる妥協点を模索しましょう。
話し合いがまとまれば、比較的短期間で、手間やコストをかけずに不動産紛争を解決できます。
(2) 民事調停
民事調停は、簡易裁判所にて行われる、話し合いにより紛争の解決を目指す手続きです。
参考:民事調停手続|裁判所HP
「調停委員」と呼ばれる有識者が間に入り、当事者の言い分を公平に聞き取ったうえで調整を行い、各当事者が納得できる解決案(調停案)の作成・提示を目指します。
裁判官が作成する調停案について、全当事者が同意した場合、調停は成立となり紛争が解決します。
(3) 家事調停
家事調停は、民事調停と同様の方式で行われる、話し合いによる紛争解決を目指す手続きです。
参考:調停手続一般|裁判所HP
離婚における財産分与や遺産分割など、親族・相続に関連する不動産紛争は、家事調停の守備範囲となります。
(4) 民事訴訟
紛争解決の話し合いが成立する見込みがない場合や、調停が不成立に終わった場合には、民事訴訟を提起して解決を目指すことになります。
民事訴訟では、両当事者が裁判所に証拠を提出したうえで、それぞれの主張・立証を展開します。
対立構造の下で厳密に手続きが進められるので、法律上の要件等を踏まえて周到に準備を整えることが大切です。
(5) 借地非訟事件手続
旧借地法および現行・借地借家法に基づく借地権(※建物の所有を目的とする土地賃借権または地上権)に関する紛争は、「借地非訟事件」として裁判所に解決を求めることができます。
参考:第1 借地非訟とは|裁判所HP
借地非訟事件の種類は、以下の5つです。
①借地条件変更申立事件(借地借家法17条1項)
借地権者が建築を予定している建物が、現状の借地契約に定められた制限内容に抵触する場合、当事者間で協議が調わないときは借地権者は裁判所に対して、借地条件の変更を申し立てることができます。
裁判所は、申立てが相当であると認めた場合、強制的に借地条件を変更する裁判を行います。
②増改築許可申立事件(同条2項)
借地上の建物の建替え(改築)・増築・大規模修繕等につき、借地契約上必要とされている土地所有者の承諾が得られない場合に、借地権者は裁判所に対して、増改築の許可を申し立てることができます。
裁判所は、申立てが相当であると認めた場合、土地所有者の承諾に代わって増改築等の許可を与える裁判を行います。
③土地の賃借権譲渡または転貸の許可申立事件(同法19条1項)
借地権が土地賃借権の場合、賃借権譲渡または転貸を行う際には、土地所有者の承諾を得ることが必要です(民法612条。借地権が地上権の場合は承諾不要)。
もし土地所有者の賃借権譲渡・転貸に関する承諾が得られない場合、借地権者は裁判所に対して、許可を求める申立てを行うことができます。
裁判所は、申立てが相当であると認めた場合、土地所有者の承諾に代わって賃借権譲渡・転貸を許可する裁判を行います。
④競売または公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件(借地借家法20条1項)
借地権が土地賃借権の場合、競売または公売で土地上の建物を買い受けた際にも、賃借権の譲り受けに関して土地所有者の承諾を得る必要があります(民法612条)。
もし土地所有者が承諾を拒否した場合には、落札者は裁判所に対して、土地賃借権の譲受を許可するように申し立てることができます。
なお、申立ては代金の支払い後2か月以内に行うことが必要です(借地借家法20条3項)。
裁判所は、申立てが相当であると認めた場合、土地所有者の承諾に代わって賃借権譲受の許可を与える裁判を行います。
⑤借地権設定者の建物および土地賃借権譲受申立事件(同法19条3項、20条2項)
③または④の申立てが行われた場合、土地所有者はそれに対抗して、自ら建物の譲渡を受け、および賃借権の譲渡または転貸を受ける旨を裁判所に申し立てることが認められます。
裁判所は、申立てが相当であると認めた場合、相当の対価および転貸の条件を定めて、建物の譲渡や賃借権の譲渡・転貸を命ずる裁判を行います。
3.不動産紛争の解決を弁護士に依頼するメリット
不動産紛争は、当事者の権利義務に与えるインパクトが大きいため、きちんと準備を整えたうえで適切に対応しなければなりません。
そのためには、弁護士に協議や法的手続きへの対応を依頼することをお勧めいたします。
弁護士に不動産紛争の解決を依頼することの主なメリットは、以下のとおりです。
(1) 法律の根拠に基づいた権利主張が可能
話し合いで相手方の説得を試みる場合、法的手続きで裁判所に主張を認めてもらう場合のいずれにおいても、確固たる法的根拠をもって、ご自身の権利を裏付ける主張を展開することが大切です。
弁護士は、問題となっている権利義務が発生する法的要件を踏まえたうえで、各要件に対応する事実・証拠を適切に用いて主張を整理・構成します。
そのため、法的根拠に基づいた主張を展開することができ、結果的にご自身の主張が認められる可能性が高まるでしょう。
(2) 論点を適切に整理することで迅速に紛争を解決
当事者同士で話し合いを行うと、何が根本的な問題になっているのかが曖昧な状態で、感情のままに主張をぶつけ合ってしまうケースも少なくありません。
弁護士にご依頼いただければ、法的な観点から論点を適切に整理し、重要なポイントに絞って議論を行うことで、迅速な解決が期待できます。
(3) 手続き準備・遂行の手間が軽減される
調停・訴訟などの法的手続きに発展する場合、手続きの準備・遂行に多大な手間がかかってしまいます。
特に当事者が自力で法的手続きの準備を行う場合、法律の内容・手続きの両面で調べなければならないことが多く、膨大な時間を割くことになってしまうでしょう。
弁護士に不動産紛争の解決をご依頼いただければ、法的な検討や書面の作成・期日への出席などを含めて、ほとんどの手続きを代行いたしますので、依頼者のご負担は大きく軽減されます。
4.まとめ
さまざまなパターンの不動産紛争をご自身にとって有利な形で解決するためには、状況に応じて適切に論点を洗い出し、法的な根拠のある主張を展開することが大切です。
弁護士にご依頼いただくことで、迅速・円滑に、有利な形で不動産紛争を解決できる可能性が高まります。
賃借人・近隣住民などとの間で、紛争に巻き込まれてしまった不動産オーナーの方は、お早めに弁護士までご相談ください。