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入居者トラブル

アパートの住人が失踪・行方不明!大家は賃貸借契約を解除できる?

アパートなどの賃貸経営をしていると、様々なトラブルに見舞われる可能性があります。酷い時にはアパートの入居者が家賃を滞納したまま音信不通になり、そのまま失踪してしまうこともあるようです。

こうなると家賃の回収が困難になりますし、入居者が残した荷物の処分も問題です。そのままでは新しい入居者の募集ができません。

いっそのこと賃貸借契約を解除して荷物を処分してしまいたいと思うでしょうが、入居者と連絡が取れないからといって勝手に荷物を処分したりすると、後々問題になってしまいます。

では、失踪・行方不明になった賃借人と連絡が取れない場合は、どのように解決すればいいのでしょうか?

1.大家が最初にするべきこと

まず、借主が夜逃げしたのか、それとも単に連絡がつかないだけなのかを確かめる必要があります。
事故などで急な入院をしており、スマホが壊れて連絡が取れないことも有り得るからです。あるいは実は物件内に住んでいて、単に電話に出ないだけということもあります。

確認のために、借主の連帯保証人や勤務先、家族などに電話して、借主の所在を確かめてみると良いでしょう。
また、物件に足を運んで、明かりがついていないか、電気のメーターが動いていないかを確かめ、本当に物件内に借主がいないのかも調べることも有効です。

室内で倒れているかもしれないというケースでは、警察官立ち会いの下、合鍵を使って扉を開け安否確認をする必要も出てきます。

並行して、夜逃げなどを保証の範囲外としている家賃保証会社もあるため、家賃保証会社にも連絡をしておきましょう。

2.賃貸借契約の解除はできる?

借主の行方がわからないまま数ヶ月経つと、滞納分の家賃が膨らんできます。入居者がいないとはいえ賃貸借契約はそのままなので、他の人に同じ物件を貸すわけにもいきません。結果的に損失は膨れ上がっていきます。

滞納分の支払いは連帯保証人や保証会社から受けることができるとはいえ、物件内に放置された品物があり、それに食料などが含まれている場合は、腐敗して汚損や悪臭などの原因になってしまいます。一刻も早く賃貸借契約を解約したいと思う大家さんが大半でしょう。

しかし、賃貸借契約を解約するには以下のステップを経る必要があります。

(1) 信頼関係が破壊されているか確認

貸主側から賃貸借契約を解約するには、借主に多少の債務不履行があるだけでは足りません。お互いの信頼関係が破壊されたと認められたときに、はじめて契約の解除ができます。

何をもって信頼関係が破壊されているとするかはケースバイケースで判断されますが、特に複雑な事情がない限り、家賃が3ヶ月以上滞納されていれば充分と言えます。

詳しくは弁護士に相談すれば、個別の事例に応じて判断してくれます。

(2) 建物明渡請求訴訟の提起

賃貸物件を取り戻すために入居者を訴えます。こういった裁判を「建物明渡請求訴訟」と言います。

しかし、入居者は失踪しているため、裁判に関する通知を送ることができません。
こういった場合は「公示送達」という手続きで通知が行われます。

公示送達では、裁判所の掲示板に一定期間文書を掲示することによって、被告に通知したとみなす制度です。

裁判所の掲示物を日常的にチェックする人はほぼいません。そのため公示送達が行われると、被告は裁判が実施されたことさえ知らないまま判決を受けることになります。

ただし、公示送達をするには、被告となる人の所在が不明であることが要件となります。それを証明するための調査が必要となるため、弁護士と協力しながら訴訟提起の準備を進めてください。

なお、建物明渡請求訴訟の際は、滞納家賃の支払い請求についても同時に訴訟を提起しましょう。後に行う強制執行で賃借人の財産を差し押さえするためです。

[参考記事] 家賃滞納で建物明渡請求訴訟を提起したい

(3) 強制執行による明渡し

訴訟手続が終了して訴えの内容が認容された後は、強制執行を申し立てて建物の明渡しに着手します。

ここで問題となるのが入居者の残した荷物です。保管や移送をしようとするとかなりの費用がかかってしまいます。

そこで、以下の条件を全て満たした場合は「即日売却」という制度によって、強制執行の当日に荷物を売り払うことができるようになっています。

  • 当該残置物を賃借人や同居の親族などに引き渡すことができない
  • 相当期間内に、残置物を賃借人や同居の親族などに引き渡せる見込みがない
  • 当該残置物が高価でない

上記の条件を満たさない高価なものについては、「動産執行」によって競売にかけて、得られたお金を滞納された家賃に充てることができます。
建物明渡請求訴訟と同時に滞納家賃の支払い訴訟をするのは、この動産執行を行えるようにするためです。

【夜逃げに関する時効】
まれに「しばらく待てば賃貸借契約が時効になって消滅するのでは?」と考える人がいます。
しかし普通賃貸借契約は、借主が終了の意思表示をしない場合は原則的に自動更新されます。建物明渡請求訴訟を提起した方が圧倒的に早く解決できます。
貸主が借主の債務不履行(家賃滞納)を理由に賃貸借契約を解除できる権利(解除権)は、借主の債務不履行から10年で時効によって消滅します。滞納された家賃を請求できる権利も5年で消滅時効を迎えます。時効で不利になるのはむしろ貸主側かもしれません。早いうちに対処しなければ、せっかくの権利が無駄になってしまいます。

3.大家がやってはいけないこと

アパートの住人が行方不明になって賃貸借契約を解除したい場合は、上記のように裁判を経る必要があります。
そのため、解決までにかなりの時間がかかり、その間家賃収入を得られないことになります。

大家側としては理不尽極まりない事態ですが、かといって焦って以下のようなことをした場合は違法となる可能性が高いので注意が必要です。

(1) 物件内への立ち入り

安否確認の意味で合鍵を使って貸し物件に入ると、場合によっては不法侵入になってしまうこともありえます。

警察官に事情を説明し、立ち会ってもらって安否確認をした方が無難です。

(2) 鍵の交換

「賃借人が帰ってきたときに、未払い家賃の支払いと引き換えに新しい鍵を渡そう」と考えて、勝手に鍵を交換してしまう大家さんがいるようです。

しかし、法的な手続きを経ずにこういったことをすると「自力救済の禁止」という法律上の原則に違反してしまいます。

「自力救済」とは、簡単に言えば実力行使で物事を解決することです。
極端な例ですが、物を盗まれたからと言って相手の家に乗り込んで取り返してはいけないことになっています。

不法侵入による建造物侵入や、鍵を壊すことによる器物損壊などに問われかねないため、法的手続きを経て解決しなければなりません。

(3) 強制執行を経ない荷物の運び出し

合鍵があるからといって勝手に賃貸物件に立ち入り、滞納家賃のカタだと物件内の荷物を取り上げたり、運び出したり、売ったりしてはいけません。これも自力救済の禁止に抵触してしまうからです。

たとえ建物明渡請求訴訟に勝ったとしても、強制執行を利用して適法に対応しましょう。

(4) 連帯保証人や親族に賃貸借契約の解除を求める

入居者と連絡が取れないからといって、入居者の連帯保証人や親または配偶者などに「賃貸借契約を解除してください」と請求しても無駄です。

連帯保証人はいざというときに入居者の債務を肩代わりする義務を負っているだけで、契約の解除権は持っていません。もちろん親族等も同様です。

後で入居者が現れたときに「あなたの連帯保証人と相談して賃貸借契約を解除してもらった」と言い張っても、その契約解除は有効ではないため、依然として賃貸借契約は有効なままです。

【特約に基づいた行為が違法になることも】
夜逃げされた場合などに備えて、賃貸借契約書に特約を盛り込む大家さんもいます。例えば「家賃を◯ヶ月以上滞納したら契約解除」「滞納が続いたら物件内の品物を処分する」「◯ヶ月以上不在にしたら鍵を交換する」などです。
こういった特約があっても、いざ入居者と音信不通になったときに上記の行為をすると不法行為になってしまうおそれがあります。
裁判所も上記のような特約は、特別の事情がない場合に適用される限りにおいて、公序良俗違反として、無効と判断しています。(札幌地裁平成11年12月24日判決等)

4.入居者が音信不通になったら適法に対応を

入居者が家賃を滞納したまま引っ越しをするなどして行方不明になったとしても、自己判断で賃貸借契約の解除をして荷物を運び出したり、鍵を交換したりすることはできません。訴訟や強制執行を経て行う必要があります。

適法に対処するために、不動産トラブルについて困ったことはまず弁護士にご相談ください。

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