借家契約の合意更新と法定更新|更新に関する注意事項
借家契約(建物の賃貸借契約)については、借地借家法によって賃借人側の権利が厚く保護されています。
特に借家契約の更新時には、借地借家法の「法定更新」の規定が適用され、賃貸人(家主)が思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があるので注意しましょう。
借家契約の法定更新に関するトラブルを防止するためには、契約書の文言を工夫するなどの予防策を講じることが有効になります。
賃借人とのトラブルを未然に防ぎたい場合は、一度弁護士にご相談ください。
この記事では、借家契約の更新に関する注意事項や、トラブルの予防策について解説します。
1.借家契約を更新する2種類の方法
借家契約を更新する方法には、「合意更新」と「法定更新」の2種類があります。
(1) 合意更新
「合意更新」とは、賃貸人・賃借人双方の合意により、借家契約を更新することを意味します。
合意更新の場合、更新後の契約条件は、賃貸人・賃借人の協議によって自由に決定することが可能です。
(2) 法定更新
期間の定めのある借家契約は、期間満了の1年前から6か月前までの間に、当事者の一方が相手方に対して更新拒絶の通知をしなければ、従前と同一の条件で更新したものとみなされます(借地借家法26条1項)。
これを「法定更新」と言います。
また、賃貸人が更新拒絶の通知を行った場合でも、期間満了後に賃借人が建物の使用を継続しているときは、賃貸人が遅滞なく異議を述べない限り、法定更新の効果が発生します(同条2項)。
なお借地契約についても、借家契約とは条件が異なるものの、借地権者の請求等による法定更新が認められています(同法5条)。
2.法定更新に関する注意事項
借家契約が法定更新される場合、借地借家法の規定により、賃貸人(家主)は思わぬ不利益を被る可能性があるので注意しなければなりません。
借家契約の法定更新に関する主な注意事項は、以下のとおりです。
(1) 法定更新を拒絶するには「正当の事由」が必要
賃貸人(家主)が借家契約の法定更新を拒絶するためには、期間満了の1年前から6か月前までの間に、賃借人に対して更新拒絶の通知を行う必要があります(借地借家法26条1項)。
「通知」は口頭でも文書でも構わないのですが、のちのトラブル防止のため、内容証明郵便で更新拒絶の通知をするのが望ましいです。
また、借家契約の更新拒絶の通知は、「正当の事由」があると認められる場合でなければ、行うことができません(同法28条)。
「正当の事由」の有無は、以下の事情を総合的に考慮して判断されます。
- 賃貸人と賃借人が建物の使用を必要とする事情
- 建物の賃貸借に関する従前の経過
- 建物の利用状況
- 建物の現況
- 財産上の給付(いわゆる「立退料」)に関する申出の内容
更新拒絶の「正当の事由」については、賃貸人にとって非常に厳しい判断が行われる傾向にあります。
場合によっては、多額の立退料を支払うことを覚悟しなければなりません。
(2) 法定更新後は期間の定めのない借家契約になる
借家契約が法定更新された場合、契約条件は原則として、更新前と同一のものとなります。
ただし、存続期間に関しては例外的に、更新前の条件にかかわらず、一律期間の定めのない契約となる点に注意が必要です(借地借家法26条1項但し書き)。
(3) 法定更新後の解約は、合意解約または解約申入れによる
法定更新によって、借家契約が期間の定めのない契約になることに伴い、その後の解約方法は「合意解約」または「解約申入れ」のいずれかに限られます。
「合意解約」は、賃貸人・賃借人間の合意により、借家契約を解約する方法です。
合意が成立次第、いつでも借家契約を解約することができます。
これに対して「解約申入れ」は、賃貸人が賃借人に対して解約申入れをする場合には、解約日の6か月以上前に行うことが必要です(借地借家法27条1項)。
解約申入れに関して、賃貸人(家主)は以下の3点に注意しなければなりません。
①賃借人が出ていく時期を予測できない
借家契約の期間の定めがなくなる以上、賃借人はいつでも解約申入れを行うことができます(民法617条)。
そのため賃貸人としては、賃借人が建物から退去する時期を予測できなくなり、賃料収益の見通しを立てづらくなってしまうでしょう。
②解約申入れには「正当の事由」が必要
借家契約の賃貸人が解約申入れを行う際には、期間満了時の更新拒絶と同様に「正当の事由」が必要とされています(借地借家法28条)。
したがって、賃貸人都合で借家契約を解約して、賃借人に出て行ってもらうためには、多額の立退料の支払いを要する可能性が高いです。
③解約日後も賃借人が出ていかない場合、遅滞なく異議申立てが必要
更新拒絶の場合と同様に、賃貸人が解約申入れを行った場合でも、6か月経過後の解約日が来ても賃借人が建物の使用を継続しているときは、賃貸人が遅滞なく異議を述べない限り、法定更新の効果が発生します(同法26条2項)。
賃貸人としては、賃借人が建物からきちんと立ち退いたかどうかを確認して、居座っているようであれば内容証明郵便等を送付して異議を述べましょう。
(4) 法定更新後は更新料が発生しない
借家契約が法定更新された後は、再度の更新がないため、更新料が発生しなくなります。
契約更新毎に発生する更新料は、賃料と並んで、賃貸人の重要な収入源となることも多いです。
そのため、更新料を継続的に発生させたい場合には、法定更新を回避する必要があります。
3.法定更新に関するトラブルを防止するには
借家契約が法定更新された場合、契約期間が無期限になることや、それに伴って更新料が発生しなくなることによって、賃貸人が不測の不利益を被るおそれがあります。
賃貸人がこのようなトラブルを防止するためには、借家契約の締結時において、適切な予防策を講じておくことが大切です。
(1) 自動更新条項を借家契約に規定する
借家契約の法定更新を回避するには、契約中に自動更新条項を規定しておくことが効果的です。
<自動更新条項の条文例>
本契約の有効期間が満了する場合、期間満了の●か月前までに当事者のいずれかから相手方に対して解約申入れが行われない限り、本契約は従前と同一の条件で●年間更新されるものとする。
上記のような自動更新条項を規定しておけば、法定更新ではなく合意更新により、借家契約を更新することができます。
更新後の契約期間を定めておくこともできますし、更新料についても、更新前と同様の条件を引き継ぐことが可能です。
法定更新に関するトラブルを防止したい場合には、借家契約に自動更新条項を規定することをご検討ください。
(2) 借地借家法の強行規定違反に注意
借家契約の規定において、法定更新に関する対策を行う際にも、借地借家法の強行規定に違反する内容の定めは無効となるので注意が必要です(借地借家法30条)。
たとえば、借家契約で以下のような内容を定めた場合、強行規定違反で無効となります。
- 正当の事由の有無にかかわらず、賃貸人に更新拒絶や解約申入れを認める規定
- 契約更新がないものとする規定(定期借家契約の場合を除く)
- 借家契約の終了時に、立退料は一律発生しないものとする規定
- 更新後の契約期間を1年未満とする規定(同法29条1項。期間の定めのない契約となる)
借家契約の条項が強行規定違反で無効になると、賃貸人にとって思わぬ結果を招きかねません。
借家契約に関するトラブルを未然に防ぐためには、契約締結前に弁護士へご相談いただくことをお勧めいたします。
4.借家契約の更新に関するトラブルは弁護士に相談を
借地契約を更新するかどうかは、建物の賃貸人・賃借人の間でもっとも揉めやすいポイントの一つです。
円滑に合意解約が成立する場合を除けば、更新拒絶や解約申入れに関する「正当の事由」の有無、更新料や立退料の支払いなどを巡り、賃貸人・賃借人間でトラブルが発生する可能性もあります。
借家契約の更新に関するトラブルについて予防・対処する際には、弁護士へのご相談がお勧めです。
契約締結前のドラフトレビューや、既存の借家契約に照らして賃貸人が取り得る対処法のアドバイスを通じて、依頼者に生じる不測の損害を最小化できるようにサポートいたします。
賃借人との間で、借家契約に関するトラブルに巻き込まれた賃貸人(家主)の方は、お早めに弁護士までご相談ください。