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入居者トラブル

賃借人が賃貸借契約をキャンセルした場合のオーナーの対応

入居に向けて賃貸借契約を締結したにもかかわらず、賃借人が一方的に契約のキャンセルを申し出た場合、オーナーは賃料収入を得られなくなってしまいます。

契約内容によっては、賃借人に対して違約金など一定の補償を請求できる可能性があるので、オーナー自身が持つ権利の内容をよく確認して対応しましょう。

この記事では、賃借人によって賃貸借契約が一方的にキャンセルされた場合に、オーナーがとるべき対処法について解説します。

1.賃貸借契約はいつまでキャンセルできる?

賃借人による一方的な賃貸借契約のキャンセルが認められるかどうかは、正式な賃貸借契約の締結がなされる前か後かで結論が変わります。

(1) 正式な契約締結前

賃貸借契約が成立していない(未締結の)段階では、賃貸人・賃借人を拘束する合意が何ら存在しないため、賃借人は賃貸借契約を自由にキャンセルできます

なお、契約は口頭でも成立するのが民法のルールですが、不動産の賃貸借契約では、契約書を作成し、賃貸人・賃借人の双方が署名・押印するのが一般的です。

そのため、契約書への署名・押印前であれば、「契約成立前」と判断される可能性が高いでしょう。

(2) 契約締結後のキャンセルは「解約」扱い

これに対して、賃貸借契約書に当事者双方が署名・押印した後であれば、賃貸借契約は締結済みとなり、賃借人が一方的に賃貸借契約をキャンセルすることはできません。

賃貸借契約締結後のキャンセルは、法的には「解約」となり、原則として当事者双方の合意が必要になります。

ただし、不動産賃貸借契約の場合、賃借人の側からの解約を認める規定が設けられているのが一般的です。

そのため、賃借人が契約締結後に賃貸借契約をキャンセルする場合は、契約上の解約規定に従うことになります。

2.契約締結後の契約キャンセルの対処法

では、賃貸借契約が締結された後、賃借人が賃貸借契約のキャンセルを申し入れてきた場合、オーナーがとるべき対処法について解説します。

(1) 賃貸借契約に従って違約金などを請求

前述のとおり、賃借人による賃貸借契約の解約は、契約上の解約規定に従います。
解約規定の中では、賃借人による解約申入れ時に賃借人に課される義務などが定められているでしょう。

解約規定に含まれていることが多い賃借人の主な義務内容としては、以下のものが挙げられます。

①解約予告期間

賃借人が賃貸借契約を解約する場合には、解約日の一定期間前にその旨を予告しなければならないとする規定です。

なお、解約予告期間に対応する賃料を一括で支払えば、即時解約が認められるのが一般的です。

②違約金

賃借人側から賃貸借契約を解約する場合に、賃貸人に生じる損害を補填するための違約金の支払いを義務付ける規定です。

違約金額は契約内容次第ですが、賃料の2~3か月分程度までが相場でしょう。

オーナーとしては、賃貸借契約中の解約規定の内容を確認して、賃借人に対して主に金銭的な請求を行うことになります。

(2) 初期費用の取り扱い

賃貸借契約を締結する際、オーナーは賃借人から一定の初期費用の差し入れを受けるケースが多いでしょう。

初期費用を賃借人に返還する必要があるかどうかは、以下のとおり費用の項目によって異なりますので、契約内容を踏まえて取り扱いを確認しておきましょう。

①敷金

賃貸借契約から生じる一切の債務を担保するために、入居時に賃借人から賃貸人に差し入れられる金銭です。

違約金等の金銭債務の支払いに充当した後、残額があれば賃借人に返還する必要があります。

②礼金

実質的な賃料の前払いとして、入居時に賃借人から賃貸人に支払われる金銭です。返還の必要はありません。

③その他

鍵の交換料、清掃料などを入居時に徴収するケースがあります。こちらも返還の必要はありません。

【仮契約の段階ではキャンセル料は発生しない?】
賃貸借契約を正式に締結する前に、賃借人のために入居の優先権を確保する目的で、物件を仮押さえ(仮契約)する場合があります。
仮契約をした後に賃借人が賃貸借契約をキャンセルした場合、キャンセル料が発生するかどうかは、仮契約における合意内容によります。
オーナーとしては、仮契約によって他の入居候補者に物件を案内する機会を失うという側面もありますので、実害が生じそうな場合には仮契約の中でキャンセル料を設定しておくとよいでしょう。

3.キャンセル料を支払ってもらえない場合

賃借人が支払うべきキャンセル料(違約金等)を支払わない場合には、オーナーは以下の手段によってキャンセル料を回収できます。

(1) 敷金をキャンセル料に充当する

賃借人から敷金の差し入れを受けている場合、敷金をキャンセル料に充当することができます。

前述のとおり、敷金は賃貸借契約から生じる一切の債務を担保するため、キャンセル料についても敷金による担保の対象となるのです。

特に未入居の段階や、入居してから間もない段階では、居室の原状回復などもほとんど必要ないため、敷金の全額がキャンセル料への充当対象となり、キャンセル料の大部分を回収できる可能性もあります。

(2) 賃借人に対して内容証明郵便を送付する

敷金の充当後、なおキャンセル料の残額がある場合には、賃借人に対して内容証明郵便を送付して請求を行いましょう。

内容証明郵便を送付すれば、キャンセル料回収に向けたオーナーの本気度が伝わり、賃借人が任意に支払いを行う可能性が高まります。

内容証明郵便は書式について厳密なルールが定められているので、作成方法がわからない場合は弁護士にご相談ください。

(3) 裁判所を通じて支払督促をする

内容証明郵便を送付しても、賃借人がキャンセル料を任意に支払わない場合には、オーナーは法的手段をもって支払いを請求する必要があります。

金銭債務の支払いを請求する法的手続きの中で、比較的簡易に行うことができるのが「支払督促」です。

【参考】支払督促|裁判所

支払督促を裁判所に申し立てると、裁判所からキャンセル料の支払いを命ずる書面を賃借人に送付してもらえます。

また、賃借人から異議申し立てがなければ、最終的には支払督促に基づき、賃借人の財産に対する強制執行を行うことも可能です。

裁判所に納付する手数料も、訴訟に比べて安価で済むので、必要に応じて弁護士にご相談のうえ、支払督促の申立てを検討しましょう。

(4) 訴訟を提起する(少額訴訟・通常訴訟)

支払督促は、賃借人から異議申し立てが行われた場合、通常の民事訴訟の手続に移行します。
そのため、賃借人が異議を出す可能性が高い場合は、支払督促を申し立てずに最初から訴訟を提起することもあります。

訴訟には、大きく分けて「少額訴訟」と「通常訴訟」の2種類があります。

このうち少額訴訟は、キャンセル料などの請求額が総額60万円以下の場合にのみ利用できます。

【参考】少額訴訟|裁判所

少額訴訟の場合、審理が原則として1回で完結するため、きわめて迅速にキャンセル料を回収できるメリットがあります。

不動産賃貸借契約のキャンセル料の場合、よほど賃料が高額の物件を除いて、少額訴訟で解決できるケースが多いので、積極的に利用を検討しましょう。

これに対して、請求額が60万円を超える場合には、少額訴訟を利用できないため、通常訴訟によるほかありません。

通常訴訟では、口頭弁論期日において、キャンセル料の支払い義務を根拠づける事実を主張・立証する必要があります。

訴訟準備には多大なる手間がかかり、期間も長期化する傾向にあるので、弁護士にご相談のうえで万全の準備を整えることをお勧めいたします。

4.まとめ

賃貸借契約は、正式な締結前であれば賃借人が自由にキャンセルできますが、締結後のキャンセルは解約規定に従う必要があります。

契約締結後のキャンセルの場合、オーナーは賃借人に対して違約金などの金銭的補償を請求できる可能性があります。
賃貸借契約の内容をよく確認して、法的措置も視野に入れつつ、オーナーご自身の権利を正当に行使しましょう。

賃借人による一方的な賃貸借契約のキャンセルにお悩みの不動産オーナーの方は、一度弁護士までご相談ください。

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