不動産に強い弁護士に無料相談【東京・神奈川・埼玉・千葉】
安心と信頼のリーガルネットワーク弁護士法人泉総合法律事務所不動産問題
建物明渡し

家賃滞納で建物明渡請求訴訟を提起したい

賃借人が家賃を滞納した場合、賃貸借契約を解除して建物の明渡しを求めることができることがあります。

しかし、賃借人が任意に建物から退去しないことも考えられます。
その場合は、「建物明渡請求訴訟」を提起して、法的に立退きを実現することを目指しましょう。

この記事では、建物明渡請求訴訟の概要・流れ・費用・必要な期間などについて解説します。

1.建物明渡請求訴訟とは?

建物明渡請求訴訟とは、所有者など建物の占有権限を有する者が、無権原者に対して、建物を明け渡すように請求する訴訟をいいます。

建物明渡請求訴訟が提起される場合には、主に以下の2つのパターンが考えられます。

  • 建物を第三者が不法占有している場合
    もともと何の権限も持たない不法占有者が建物を占拠している場合です。空き倉庫・空き家などに誰かが勝手に入り込んでいるケースなどが想定されます。
  • 賃貸借契約が終了したにもかかわらず、賃貸人が建物に居座る場合
    賃貸借契約の賃借人が、賃貸借契約の終了後も退去せずに建物に居座っている場合です。

賃貸借契約が終了する原因としては、期間満了のほか、契約の解除による場合もあり得ます。

特に、家賃の滞納・無断転貸・無断増改築・度重なる迷惑行為などを理由として契約解除に至った場合、賃借人が解除について不満を持っている場合は、退去を拒否して居座るケースがしばしば見受けられます。

このような場合には、賃貸人により建物明渡請求訴訟が提起されることがあります。

2.建物明渡請求訴訟で原告が立証すべき内容(要件事実)

建物明渡請求訴訟では、原告(所有者など)が明渡しの要件事実(一定の法律効果を生じさせるのに必要な具体的事実)を立証しなければなりません。

不法占有のケースと賃貸借契約終了のケースでは、原告が立証すべき要件事実が以下のとおり異なります。

(1) 不法占有のケース

所有権に基づく不法占有者に対する建物明渡請求訴訟の場合、原告が立証すべき事項は以下のとおりです。

① 原告が建物を所有していること
② 被告が建物を占有していること

(2) 賃貸借契約終了のケース

賃貸借契約終了後の賃借人に対する建物明渡請求の場合、原告が立証すべき事項は以下のとおりです。

① 原告と被告の間で建物賃貸借契約を締結したこと
② 建物賃貸借契約に基づき、原告が被告に建物を引き渡したこと
③ 賃貸借契約終了の原因となった事実

家賃滞納による賃貸借契約解除の場合、「賃貸借契約終了の原因となった事実」として、原告は原則として以下の事実を立証する必要があります。

  • 被告が家賃を滞納した事実(信頼関係の破壊が必要とされているため、目安として3~4か月程度の滞納が必要)
  • 原告が被告に対して、家賃を支払わなければ賃貸借契約を解除する旨を催告したこと
  • 催告後、相当な期間が経過したこと(原告が相当な期間を超える催告期間を指定した場合には、当該催告期間が経過したこと)

3.建物明渡請求訴訟の流れ

賃貸人が賃借人に対して建物明渡請求訴訟を提起する場合の、手続きの主な流れについて解説します。

(1) 裁判所に訴訟を提起する

建物明渡請求訴訟は、裁判所に訴状を提出して訴えを提起することから始まります(民事訴訟法133条1項)。

訴状には、当事者などの基本的な情報に加えて、前の項目で解説した、建物の明渡しに関する要件事実などを記載する必要があります。

なお、建物明渡請求訴訟は、管轄権を有する以下のいずれかの裁判所に対して提起する必要があります。

  • 被告の普通裁判籍(住所地、居所地、最後の住所地)を管轄する地方裁判所(民事訴訟法4条1項)
  • 建物の所在地を管轄する地方裁判所(同法5条12号)

原告(賃貸人)が裁判所に訴状を提出したら、訴状が裁判所から被告(賃借人)に送達されるとともに、第1回口頭弁論期日が指定されます。

被告は第1回口頭弁論期日までに、反論内容を記した「答弁書」を作成して裁判所に提出するのが一般的です。

(2) 口頭弁論期日で主張・立証を行う

第1回口頭弁論期日では、原告が訴状、被告が答弁書の内容を相互に陳述します。

その後、おおむね1か月に1回程度のペースで開催される口頭弁論期日において、原告・被告双方がそれぞれの主張・立証を行います。

口頭弁論期日は、途中で和解が成立する場合を除いて、裁判所が判決を言い渡すために十分な心証を形成できたと判断するまで繰り返されます。

(3) 和解が成立する場合もある

建物明渡請求訴訟の最中には、裁判所によって和解が勧告されることがあります(民事訴訟法89条)。

和解による解決には、賃借人にとっては明渡しまでに一定の猶予期間が得られる可能性があるほか、賃貸人にとっても手続きを早期に終結させられるメリットがあります。

裁判上の和解が成立した場合、その旨が和解調書に記載されます。

和解調書の記載は、確定判決と同一の効力を有するとされており(同法267条)、和解調書を債務名義として強制執行の手続きをとることも可能です(民事執行法22条7号)。

(4) 判決の言渡し・確定

口頭弁論期日において当事者の主張・立証が尽くされ、裁判所が十分な心証を形成した段階で、判決が言い渡されます(民事訴訟法243条1項、250条)。

地方裁判所の判決に不服がある当事者は、判決書の送達を受けた日から2週間以内に、高等裁判所に対して「控訴」を提起することができます(同法281条1項、285条)。

また、高等裁判所の判決に対しては、同様に「上告」が認められています(同法311条1項)。

これらの不服申立て手続きを経て(または不服申立てが行われずに控訴・上告期間を経過した場合も同様)、判決が確定します。

(5) 強制執行

建物の明渡しを命ずる判決が確定した場合、賃貸人は確定判決の正本を債務名義として、強制執行の手続きをとることができます(民事執行法22条1号)。

明渡しの強制執行は、執行官が賃借人の建物に対する占有を解いて、賃貸人にその占有を取得させる方法により行うとされています(同法168条1項)。

具体的には、執行官立会いの下で開錠・鍵の交換・居室内の荷物の搬出などを行い、交換後の鍵を賃貸人に手渡すことで強制執行が完了します。

4.建物明渡請求訴訟にかかる費用

建物明渡請求訴訟を行う際に、賃貸人が負担すべき費用は以下のとおりです。

(1) 裁判所に納付する印紙代・郵便費用

建物明渡訴訟を提起する際には、印紙代と郵便費用を裁判所に納付する必要があります。

印紙代は、訴額(=建物の固定資産税評価額の2分の1。なお、建物の一部分のみを賃貸している場合は、賃貸部分の床面積が建物全体の床面積中に占める割合を乗じたものになります。)に応じて以下のとおり決められています。

訴額 印紙代
100万円までの部分 10万円までごとに1000円
100万円を超え500万円までの部分 20万円までごとに1000円
500万円を超え1000万円までの部分 50万円までごとに2000円
1000万円を超え10億円までの部分 100万円までごとに3000円
10億円を超え50億円までの部分 500万円までごとに1万円
50億円を超える部分 1000万円までごとに1万円

(計算例)訴額が3000万円の場合
印紙代
=1000円×10+1000円×20+2000円×10+3000円×20
=110000円

郵便費用は裁判所ごとに定められており、数千円程度です。

なお、印紙代と郵便費用については「訴訟費用」とも呼ばれており、原告勝訴の判決が確定した場合には、被告(賃借人)に対して請求することが可能です。

(2) 弁護士費用

建物明渡請求訴訟の代理人を弁護士に依頼する場合には、弁護士費用が必要となります。

弁護士費用の体系は、弁護士ごとに異なります。
一般的には着手金・成功報酬の2段階制が採用されていることが多く、大まかな目安金額は以下のとおりです。

着手金:30万円前後
成功報酬:30万円~60万円程度

弁護士に確認すれば、正式な依頼前に見積もりの提示を受けられるので、必ず事前に弁護士費用の確認を行いましょう。

(3) 強制執行の費用

建物明渡請求訴訟の判決が確定しても、賃借人が任意に建物から退去しない場合には、強制執行の手続きをとる必要があります。

強制執行にかかる主な費用は以下のとおりで、これらはいったん賃貸人が負担しなければなりません。

  • 執行申立て時に裁判所に収める予納金(7万円程度)
  • 開錠や鍵交換に関して鍵業者に支払う費用
  • 家財道具などの搬出費用
  • 搬出した家財道具の保管費用(倉庫代など)

裁判所に納付する予納金以外の費用は、依頼する業者によって金額が異なります。

上記の各費用を併せて、おおむね数十万円から100万円程度になることが多いです。

これらの強制執行費用は、法律上賃借人に対して求償することが可能ですが、賃借人が無資力の場合には、結局賃貸人が負担することになってしまうので注意しましょう。

5.建物明渡請求訴訟に必要な期間

建物明渡請求訴訟を提起してから、実際に明渡しが完了するまでにかかる期間は、事案の複雑性や被告(賃借人)の態度などによってかなり幅があります。

事案がシンプルであり、賃借人が明渡しをそれほど強硬に争わない場合には、和解などで手続きが終結し、2,3か月程度で明渡しが実現する可能性もあります。

しかし、賃貸借契約解除の可否について法律上の取扱いが微妙であり、かつ賃借人も明渡しを強硬に拒んでいる場合には、建物明渡請求訴訟が長期化する可能性が高いです。

この場合、1年~2年程度の期間がかかってしまうことも覚悟しなければならないでしょう。

明渡しが実現するまでの期間を少しでも短縮するためには、以下のポイントに留意して、和解に応じることを含めた対応方針の検討を行うことが大切です。

  • 法的に適切な主張・立証を行う
  • 被告の対決姿勢や態度の変化などをよく観察する
  • 訴訟の経過などから、裁判官が抱いているであろう心証を推測する

6.建物明渡請求訴訟を弁護士に依頼すべき理由

建物明渡請求訴訟を提起する場合には、主に以下の理由から、弁護士に代理人就任を依頼することをお勧めいたします。

(1) 弁護士は訴訟のルールやポイントに精通

建物明渡請求訴訟では、民事訴訟法などの法令で定められた訴訟手続きに沿って、民法や借地借家法などに基づく明渡しの要件事実を主張・立証する必要があります。

弁護士は、訴訟手続き自体に精通しているほか、建物明渡請求訴訟で主張・立証すべき事実や立証方法などについても深い理解を持っています。

そのため、建物明渡請求訴訟の手続き全般を通じて、漏れのないスムーズな対応を行うことができます。

(2) 訴訟対応の労力が軽減される

建物明渡請求訴訟では、訴状や準備書面の作成・裁判所への出廷などをはじめとして、手続きの遂行に膨大な労力がかかります。

弁護士に代理人就任を依頼すれば、必要となる訴訟対応の大部分を代行してもらえるので、依頼者の労力は大きく軽減されることでしょう。

7.まとめ

賃借人に退去を拒否され、建物明渡請求訴訟が必要になった場合には、弁護士に相談して対応することで、賃貸人にとって手続きを有利に、かつスムーズに進めることができます。

賃借人の家賃滞納や明渡し拒否にお悩みの賃貸人の方は、お早めに弁護士までご相談ください。

関連するコラム
現在、不動産分野の新規受付を停止しております。
皆様には大変ご迷惑をおかけしますが、何卒ご了承のほどお願い申し上げます。