不動産信託受益権とは?
不動産は高額で貴重な資産ですが、売買や賃貸によって不動産から資金調達を図るのは手間も時間もかかるとされてきました。
ところが、現在、不動産による資金調達の手法として、不動産を「信託」して利益を得る「不動産信託」と、これによって発生する「不動産信託受益権」という権利を売買することが注目されています。
この記事では、不動産信託受益権について解説していきます。
1.不動産信託受益権とは?
(1) 信託とは
まず信託とは、「委託者と受託者の間の信託契約」や「委託者の遺言」などの方法によって、受託者が、一定の信託目的に従い信託財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすること、と定義されます(信託法2条)。
例をあげましょう。
Aは土地を所有者しており、これを活用して収益をあげ、娘のBにお金を渡してやりたいと希望しています。しかし、AもBも不動産活用のノウハウがありません。そこで、ノウハウを持つCに土地の所有権を譲渡してしまい、Cの名義で賃貸に出すなど活用して賃料収益をあげてもらい、その収益をBに渡してもらうことにします。
Aを「委託者」、Cを「受託者」、Bを「受益者」と呼びます。土地を活用して収益をBに渡すという目的が「信託目的」であり、土地が「信託財産」です。
利益を受け取る立場である「受益者」は、委託者A自身がなることもできます。自分に利益を渡してもらうことを信託目的とすれば良いのです。その場合、Aは「委託者兼受益者」です。
このような信託は、AとCとの間の「信託契約」で行っても良いし、Aが「自分が死んだら、収益をBに渡してくれ」と遺言を残すことで行うことも可能です(信託法2条2項、3条1号、2号)。
(2) 信託受益権とは
「受益権」とは、受益者の立場にある者に認められた権利の総称です。
その内容は、①信託契約や遺言などの信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務で、信託財産の引渡しその他の給付をすべき債権(これを「受益債権」と言います)及び、②受益債権を確保するために信託法が定めている受託者等に一定の行為を求めることができる権利に分けられます(信託法2条7項)。
上の例で言えば、①BはCに対して収益を引き渡すよう要求する債権がありますし、②例えばCによる権限外の行為をBが取り消す権利(信託法27条)などが法定されています。
2.不動産信託受益権のメリット
不動産信託受益権とは、不動産を信託財産とする信託行為における受益者の権利です。
今日では、信託銀行などを受託者とし、不動産を信託財産として信託契約を結ぶことが数多く行われています。
このような不動産信託を行うのは、不動産の資産活用の手法として、他の手法にはないメリットがあるからです。
(1) 資産の流動化
資産の流動化とは、その資産からの資金調達をしやすい状態とすることです。
上のAのように不動産は所有していても、活用のノウハウがない方は、せっかくの資産をお金に換える選択肢が狭まります。
信託銀行のような不動産活用の専門知識、実績がある機関に管理運用を任せることができれば、資金調達も容易となります。
(2) 節税効果
固定資産税を節約できる
所有権を維持したまま賃貸に出した場合、固定資産税を払い続けなくてはなりませんが、不動産信託として、信託銀行などに所有権を移転すれば、その必要はなくなります。
不動産取得税を節約できる
実は、不動産信託受益権は、それ自体を商品として第三者に売却することが可能です(信託法93条1項本文)。家賃収益をあげられる不動産それ自体を第三者に買ってもらう場合、買主には不動産取得税がかかってしまいます。
しかし、不動産の所有権は信託銀行などに置いたまま、不動産信託受益権だけを購入する場合は、不動産信託受益権は不動産それ自体ではないので、買主に不動産取得税がかかりません。
したがって、その分、高値での売却が期待できます。ただし、不動産信託受益権の売主側には、信託財産である不動産を売却したときと同様の譲渡所得税がかかることに注意してください。
印紙税を節約できる
不動産の売買には代金額に応じた高額の印紙税がかかりますが、不動産信託受益権の売買は、不動産売買それ自体ではないので、そのようなことはありません。
(3) 分割して売買も可能
例えば、収益をあげられる不動産がひとつの場合、それ自体を分割して売買することは現実には不可能ですが、債権である不動産信託受益権は分割して売買することが可能です。
(4) 担保として資金調達も可能
不動産信託受益権に質権など担保を設定して融資を受けることも可能です(信託法96条1項)。その意味でも資産の流動化が可能です。
(5) 倒産隔離機能
信託財産は受託者の名義にはなりますが、受託者自身の財産とは別個独立の財産として扱われます。
受託者の債権者が信託財産を差し押さえることはできませんし(信託法23条1項)、受託者が破産しても破産管財人によって信託財産が処分されることはありません(同25条1項)。
また、信託によって、不動産は既に委託者の所有物ではなくなっていますから、委託者の債権者も信託財産を差押えることはできません。
このように信託財産が、委託者と受託者のいずれからも独立した財産とされることを「信託財産の独立性」と呼び、いずれが破産しても守られることを「倒産隔離機能」と呼びます。
このような機能があるので、委託者は安心して、不動産を受託者に信託できるのです。
(6) 所有権を取り戻すことも可能
信託に期限を設けることも自由ですし、期限等により契約が終了する段階で、信託財産の所有権を帰属させる者を指定することも可能ですから、委託者自身に復帰させることもできます(信託法164条1項、175条、177条4号、182条)。
3.不動産信託受益権を売買することの注意点
最後に、不動産信託受益権を売買する際の注意するべき点を指摘しておきます。
(1) 不動産信託受益権にもリスクはある
収益は100%確実とは言えない
いかに受託者が不動産活用のノウハウを有していても、必ず期待した収益をあげることができるとは限りません。
不動産市況の変動によって、家賃を減額せざるを得ない、入居者が集まらない、部屋があいてしまった等々、様々な理由での減収があり得ます。
受託者である信託銀行なども、営利目的ですから、収益が期待どおりでなくとも、手数料は差し引かれますし、経費も差し引かれます。投資に見合うリターンが得られない可能性は常にあるのです。
そればかりか不動産活用に赤字が続けば、信託終了時に信託財産を売却されて清算されてしまう場合もあります(信託法175条、178条)。
倒産隔離機能には例外もある
また、前述の倒産隔離機能があるといっても、例外があります。それが「信託財産責任負担債務」(信託法23条1項)です。
これは受託者が、信託に必要な事務を行った結果、負担するに至った債務です。
例えば、信託財産の建物を修繕する必要が生じた場合の修繕工事費の支払債務です。これは、名義上は受託者の債務ですが、受託者に利益を渡すために負担した債務なので、当然に信託財産から支出するべき債務ですから、その支払がない場合、工事業者は信託財産を差し押さえることが許されます(信託法23条1項括弧書き)。
不動産信託受益権は「みなし有価証券」
商品としての不動産信託受益権は、上のようなリスクを有し、公正な価格形成を図る必要がある観点から、有価証券ではなくとも、金融商品取引法において有価証券として規制を受ける「みなし有価証券」とされています(金融商品取引法2条1項)。
不動産信託受益権は、決して魔法のような方法ではありませんし、商品としての不動産信託受益権もノーリスクではないことに注意しましょう。
4.まとめ
不動産信託には、資金調達を流動化できるメリットもありますが、良いことづくめではありません。メリット、デメリットを十分に認識して実行するべきです。
不動産信託の法律に関しては、法律の専門化である弁護士に相談されることをお勧めします。