住宅ローン完済後、抵当権設定登記はそのまま放置しても良い?
住宅ローンを利用して住宅を購入すると、通常は住宅に「抵当権」というものが設定され、住宅の登記簿に「抵当権設定登記」が行われます(その住宅に抵当権が設定されていることが公になります)。
その後、無事に住宅ローンを完済したら、抵当権を登記簿から抹消できるようになります。
しかし、この抵当権を抹消せず、そのまま放置している人もいるようです。
抵当権を抹消しないと何か悪いことはあるのでしょうか?
本記事では、抵当権の概要や、抵当権を抹消しないとどうなるのか、そして抹消する方法などについて解説していきます。
1.住宅に設定される抵当権について
まずは、抵当権と抵当権設定登記について簡単に説明します。
(1) 抵当権の役割
住宅ローンで債権者(銀行など)が貸すお金は数千万円に及びます。返済期間も長期にわたるため、途中で返済できなくなる債務者もいます。
返済が行われなくなった場合、債権者は「抵当権」を実行して債権の回収を図ります。
抵当権が実行されると、その住宅は「競売」に出されます。そして、債権者はこの競売による売却金額から債権を回収するのです。
つまり抵当権の役割は「債権者が債権の回収をしやすくすること」です。
抵当権が設定してあっても債務者はその住宅を自由に使うことができますが、住宅ローンの返済ができなくなると住宅が競売に出されるため、債務者は最終的に住宅から追い出されることになります。
(2) 抵当権設定が登記される理由
住宅に抵当権が設定されると、通常は不動産登記簿にその旨が登記されます。
抵当権の登記は義務ではありません。しかし抵当権を設定した場合、必ずと言って良いほど登記が行われます。
登記が必要とされる理由は以下の通りです。
抵当権は登記が対抗要件
抵当権は、債権者と債務者の契約によって「成立」します。しかし、成立したことを知らない人の方が世間には圧倒的に多いです。
登記をしなければ、例えば債務者が他の人から借金をして返せない場合などに、その住宅に抵当権があることを知らない人が勝手に住宅を差押えて住宅を競売にかけてしまうかもしれません。
これではせっかく設定した抵当権が無駄になってしまいます。
登記をすることで、その住宅に抵当権が設定されていることが公になり、第三者に対して「この住宅には私を債権者とする抵当権が設定されています」と主張できるようになります。
このように「法律関係や権利関係を第三者に主張できるようにするための要件」のことを、「対抗要件」と呼びます。
抵当権は登記することで第三者に対する対抗要件を得ると法律で定められているため(民法177条)、抵当権が設定されたらほぼ必ず登記が行われるのです。
抵当権は登記の先後が大事
抵当権は1つの物件に複数設定することができます。そして競売のときに弁済を受けられるのは、早く登記を行った人から順番です。
例えば同一の住宅に1番抵当権者(債権額1000万円)、2番抵当権者(1500万円)、3番抵当権者(700万円)がおり、抵当権が実行された結果、競売で1800万円を得られたとします。この場合、1番抵当権者が1000万円、2番抵当権者が800万円を得られ、3番抵当権者に配当はありません。
早く抵当権を登記しなければ配当が減る可能性があるため、登記は非常に重要です。
登記事項証明書の必要性
抵当権を実行する場合、通常は登記事項証明書が必要です。
いざというときにすぐ実行できるように、抵当権が設定されたらすぐに登記が行われます。
2.完済後に抵当権設定登記を放置するデメリット
さて、住宅ローンを無事に完済しても、債権者は抵当権を抹消してくれません。
これは、ローンの(元)債務者が自分自身で行うか、司法書士に依頼して行う必要があります。
抵当権の抹消は義務ではありませんが、放置しておくと以下のようなデメリットがあります。
(1) 不動産の売却ができない
住宅を売却する場合、購入希望者は間違いなく不動産登記簿を確認します。
住宅を売却したからといって抵当権登記は抹消されないので、そこに抵当権登記が残っている場合、購入希望者は「この物件には抵当権がついている。買った後に抵当権を実行されたら競売されてしまう」と考えて、購入を見送る可能性が高いでしょう。
実際には抵当権が消滅していても、登記が残っている限り、購入候補から外されて売却しづらくなってしまいます。
(2) 新たなローンが組みにくい
完済後に別のローン(リフォームローンなど)を組みたくなることがあるかもしれません。
このとき、自宅を担保にしようとしても、抵当権登記が残っていると、金融機関から「抵当権付きの不動産だと融資は難しい」と判断され、ローンの審査に落ちやすくなります。
【抵当権抹消の必要書類を紛失するリスク】
住宅ローンを完済すると、住宅ローンの債権者から抵当権を抹消するための書類を渡してもらえます。
しかし、抵当権の抹消を長期間行わないと、その書類を紛失する可能性も高くなります。後から抹消したくなっても再度書類集めから行わなければならず、手間と時間がかかります。また、長期間放置していると金融機関が合併したり代表者が変わったりするなどして、書類の内容と現状に違いが発生することがあります。これを補正するためにも追加の書類が必要なため、抹消手続きが複雑になります。
これらのリスクも存在するため、抵当権抹消は早めに行うに越したことはありません。
3.抵当権設定登記を抹消する方法
抵当権の抹消手続き自体はそれほど難しいものではなく、個人でも可能です。
手続方法を紹介するのでどうぞ参考にしてください。
(1) 必要書類の準備
抵当権の抹消に必要な書類は以下の通りです。
- 登記原因証明情報
住宅ローンが完済されたことを証明する書類です。債権者である金融機関から送られてきます。「抵当権解除証」「抵当権放棄証書」など様々な名称があります- 登記済証または登記識別情報
不動産に抵当権を設定した際に発行される書類です。住宅ローン完済後に金融機関から交付されます。- 資格証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
住宅ローン完済後に金融機関から送られてきます。「登記事項証明書」「現在事項一部証明書」などと記載されていることがあります。発行から3ヶ月を過ぎた場合、法務局で申請すれば新しく取得できます。- 委任状(代理権限証明情報)
金融機関から送られてきます。債務者が単独で抵当権の抹消登記を行えるように、債権者であった金融機関が債務者に委任状を交付することが多いです。- 登記事項証明書
抵当権が設定されている不動産の、登記簿上の登録内容を確認する書類です。法務局に申請して取得する必要があります。- 抵当権抹消登記申請書
必要事項を記載して法務局に提出する書類です。法務局のホームページに書式と記載例があります。(抵当権抹消登記申請書の欄)
(2) 法務局へ申請
必要書類を準備できたら、対象の不動産の所在地を管轄する法務局へ書類を提出して、抵当権抹消登記を申請します。
申請は法務局の窓口で行うほか、郵送で行うこともできます。
不安がある場合は窓口へ行けば担当の人が親切に教えてくれます。
なお、申請の際は書類を以下のように2つにまとめてください。
1.抵当権抹消登記申請書 2.登録免許税貼用台紙 3.登記原因証明情報 4.資格証明書 5.委任状 |
1.登記済証または登記識別情報の原本 2.登記済証または登記識別情報のコピー |
それぞれ番号の少ない方が上になるように並べて、ホッチキスで左綴じにします。
その後、抵当権抹消登記申請書に使用した印鑑で、登記申請書と印紙貼付台紙に契印をしてください。
(3) 登記完了証の受け取り
提出書類に問題がなければ「登録完了証」という書類が発行されるので、法務局へ受け取りに行きます。このときに登記済証の原本も返してもらえます。
受け取り時に抵当権抹消登記申請書に使用した印鑑が必要です。必ず持参してください。
郵送での受け取りを希望する場合は、申請時に切手と宛名のある返信用の封筒を提出し、郵送してほしい旨を伝えておきましょう。
(4) 抵当権の抹消にかかる費用
抵当権の抹消には登録免許税が必要です。
不動産1つにつき1,000円と低額ですが、土地と建物が別でそれぞれに抵当権が設定されている場合は、別々に1,000円ずつ必要となります。
複数の土地にまたがって建物がある場合は、建物に加えて土地の筆数と同じだけの登録免許税がかかるので注意してください。
その他、法務局で登記事項証明書を取得するための費用などがかかりますが、自分で行えば総額5,000円未満で抵当権を抹消できます。
専門家に依頼する場合は、1万5,000円〜2万円が相場です。
4.まとめ
住宅ローン完済後に抵当権を抹消しないと、いざ住宅を売却・リフォームのため別のローンを組もうと思った時にデメリットが生じます。
長らく放置しておくと、抹消の手続きも煩雑になってしまうでしょう。
抵当権設定登記を抹消すること自体はご自身でも可能です。
しかし、「手間をかけたくない」「時間を節約したい」「失敗したくない」という方は、司法書士などへの専門家へお任せすることをお勧めします。
泉総合法律事務所は、各専門家と連携し、不動産に関するお悩みをトータルでサポートすることが可能です。
不動産に関する問題でお困りの方は、ぜひ一度当事務所の無料相談をご利用ください。