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地代の値上げは可能?交渉方法や賃借人が拒否した場合の対処法

周辺地域の賃料相場が上がったにもかかわらず、長年地代が据え置かれているようなケースでは、賃貸人は賃借人に対して地代の値上げを請求できる可能性があります。

地代の値上げを請求することは、借地借家法で認められた賃貸人の権利です。
ただし、実際に値上げを実現するためには、交渉や裁判などの手続きを適切に経る必要がありますので、弁護士に相談しながら対応することをお勧めいたします。

この記事では、地代の値上げに関する法律上のルールや、値上げ交渉の方法、賃借人に値上げを拒否された場合の対処法などについて解説します。

1.地代の値上げは可能?|地代等増減請求権

建物所有目的の土地賃貸借契約(借地契約)に関しては、借地借家法の規定により、一定の場合に賃貸人による地代の値上げ請求が認められています。

(1) 地代の値上げが可能なケース

「地代等増減請求権」について定める借地借家法11条1項本文を読み解くと、以下の場合が地代の値上げを請求できるケースの例として挙げられます。

  • 土地に対する租税公課が増額となった場合
  • 土地の価格が上昇した場合
  • その他の経済事情の変動があった場合
  • 近傍類似の土地と比較して、地代が安すぎる場合

地代の値上げを請求する権利が認められるには、上記のいずれかの原因によって、地代が「不相当」になったと評価できることが必要です。

したがって、軽微な経済事情の変動であれば、地代の増額請求が認められる可能性は低いでしょう。

しかし、長年にわたって地代が据え置かれているケースなどでは、地代と相場賃料の差が「不相当」と評価できるレベルに至っている可能性が高いので、一度調査・検討してみることをお勧めいたします。

(2) 一定期間地代を増額しない特約がある場合

なお、賃貸借契約(借地契約)などにおいて、一定期間地代の増額をしない旨の特約が定められている場合、地代の値上げ請求は認められません(借地借家法11条1項但し書き)。

ただし、特約期間があまりにも長期間にわたる場合などには、特約がある場合でも例外的に、地代の値上げ請求が認められる可能性があると考えられます。

2.地代の値上げを行う方法

地代が不相当になったことを理由として、賃借人に対して地代の値上げを請求するためには、「協議」により合意できなければ、「裁判」等の法的手続きという段階を踏む必要があります。

(1) 一方的な値上げは不可

地代等増額請求権は、賃貸人の一方的な意思表示によって値上げの効力を発生させるものではありません。

実際に値上げの効力を発生させるためには、賃貸人・賃借人間で合意するか、または裁判の判決等を得る必要があります。

地代の値上げを裁判で争う前提として、事前に当事者間での協議を行うのが一般的です。

したがって、まずは賃貸人の側から賃借人に対して、地代の増額を求める旨を文書などで通知し、値上げ交渉を開始しましょう。

(2) 拒否された場合は裁判で値上げの可否を争う

賃借人に地代の値上げを拒否されて交渉が決裂した場合、法的手続きを通じて地代の値上げを求めるほかありません。

引き続き話し合いを行うために調停を挟む場合もありますが、調停でも合意できなければ最終的には訴訟(裁判)手続きの中で、地代の値上げの可否を争うことになります。

訴訟では、地代の値上げが認められる要件を、賃貸人の側で主張・立証する必要があります。

具体的には、地価の上昇や周辺賃料相場の高騰などを示す証拠を提出して、地代が不相当に廉価であることを説得的に示すことが求められます。

3.地代の値上げ交渉を行う際のポイント

訴訟で地代の値上げを争う場合、訴訟手続きの準備や遂行に多大な労力と時間がかかります。
そのため、可能であれば交渉によって地代の値上げを実現するのが望ましいといえます。

とはいえ、交渉によって地代の値上げを実現するには、値上げ案について賃借人の納得・同意を得なければなりません。

賃借人の納得や同意を得るために、交渉上留意すべき主なポイントは、以下のとおりです。

(1) 値上げの根拠をきちんと説明する

借地借家法に定められる地代等増額請求権の要件に基づき、地代の値上げに法律上の根拠があることをきちんと説明すれば、賃借人の側も法的に分が悪いことを悟り、値上げに応じる可能性が高まります。

値上げの根拠を説明する際には、地価や周辺賃料相場の高騰などについて、具体的な数値やグラフなどを示すのが有効です。

(2) 段階的な値上げを提案する

賃借人の立場としては、従前の賃料をいきなり大幅に値上げされてしまうことは受け入れがたいでしょう。

また実際上の問題として、賃料の不払いが生じる可能性も上がってしまい、賃貸人にとっても必ずしも得策とは言えません。

そこで、半年や1年などの期間ごとに、段階的な地代の値上げを提案することが有力な方策になり得るでしょう。

賃借人にとっては、資金繰りを見直すための猶予期間を確保できるため、地代の値上げが受け入れやすくなります。

賃貸人にとっても、値上げ交渉が長引いてしまい、いつまでも従前の地代を引き上げられないよりは、少しずつでも値上げを実現できる方がメリットを得られるでしょう。

(3) 必要に応じて裁判を行う旨を通知する

地代を値上げするという賃貸人の主張に、確固たる法律上の根拠があるならば、最終的に訴訟において賃貸人の主張が認められる可能性は高いといえます。

この場合、賃借人に対して「訴訟などの法的手続きをとるつもりがある」旨を伝えると、任意に地代の値上げに応じる可能性が高まります。

賃借人としては、訴訟に発展すれば値上げが認められる可能性が高い以上、交渉に応じて妥協・和解をする方がダメージを抑えられるからです。

ただし、賃貸人側の主張に根拠がないと思われてしまっては、賃借人側も強硬な姿勢に出てくる可能性があります。

よって、「法的手続きをとる」という趣旨の告知をする場合には、賃借人に対して、きちんとした法的な裏付けのある主張・説明を行うこととセットで考える必要があります。

4.地代の値上げを賃借人に拒否された後の流れ

賃貸人が交渉による地代の値上げを試みたとしても、賃借人がそれに応じなければ、最終的には訴訟に場を移して地代の値上げの可否を争うことになります。

この場合、大まかに以下の流れによって手続きが進行します。

(1) 裁判所に訴訟を提起する

まずは、賃貸人が裁判所に対して訴状を提出して、訴えを提起します(民事訴訟法133条1項)。

訴状には、当事者などの基本的な情報に加えて、借地借家法の要件に沿って、地代の値上げが認められるための要件事実(一定の法律効果を生じさせるのに必要な具体的事実)などを記載することになります。

訴状の提出先は、以下のいずれかを管轄する地方裁判所です。

  • 被告の普通裁判籍の所在地(住所地、居所地、最後の住所地)(民事訴訟法4条1項、2項)
  • 不動産の所在地(同法5条12号)

(2) 口頭弁論期日において地代を値上げすべき根拠を主張・立証する

裁判所に対して訴状を提出した後、裁判所が第1回口頭弁論期日を指定して、当事者双方に通知します。

その後、被告からの反論に当たる「答弁書」が提出され、第1回口頭弁論期日を迎えます。

第1回口頭弁論期日では、原告が訴状、被告が答弁書の内容をそれぞれ陳述します。

その後、おおむね1か月おきに口頭弁論期日が設定され、当事者双方が自らの主張を裏付ける証拠を提出して、相互に主張・立証を展開し合うことになります。

賃貸人としては、借地借家法11条1項の要件に従い、「地代が不相当となったこと」の主張・立証に成功すれば、地代の増額が認められます。

ただし、この要件は抽象的なので、実際には地代の不相当性を基礎づける以下の事実(評価根拠事実)などを立証する必要があります。

  • 土地に対する租税公課が増額となった事実
  • 土地の価格が上昇した事実
  • その他の経済事情の変動があった事実
  • 近傍類似の土地の地代額(対象土地の地代と比較するため)

(3) 判決で地代の値上げが命じられる

口頭弁論期日における主張・立証が尽くされ、裁判所が地代値上げの要件を満たしていると判断した場合は、判決で地代の値上げが命じられます。

判決に不服がある当事者は、判決書の送達を受けた日から2週間以内に、高等裁判所に対して控訴をすることが認められます(民事訴訟法285条)。

さらに、高等裁判所の判決に対しては上告が可能です(同法311条1項)。

不服申立ての手続き(控訴・上告)が審理を含めて終了するか、不服申立てが行われなかった場合、判決は確定し、当事者双方を拘束します。

つまり、判決が確定した時点で、地代の値上げが実現することになります。

5.交渉・裁判期間中の地代の金額はどうなる?

地代増額請求訴訟は、賃貸人が地代の値上げを主張し、賃借人がそれを拒否するという構図ですが、訴訟が係属している間の地代額はどうなるのでしょうか?

この点については、借地借家法でルールが定められています。

(1) 交渉・裁判の結果が確定するまでは従前の地代

地代の値上げについて、当事者間で協議が調わない場合、値上げの請求を受けた賃借人は、増額を正当とする裁判が確定するまでの間、賃借人自身が相当と認める額の地代を支払えば足ります(借地借家法11条2項本文)。

賃借人が地代の増額を拒否している場合、基本的には「相当と認める額=従前の地代額」となりますので、賃借人は従前の地代額を賃貸人に対して支払えばよいことになります。

なお、賃借人が、賃貸人の主張する値上げ幅の一部のみであれば受け入れるという態度をとる場合には、従前の地代額にその一部を上乗せして支払うことも可能です。

たとえば賃貸人が30%の地代値上げを主張し、賃借人は10%の地代値上げのみを受け入れるという場合には、賃借人は従前の地代+10%の金額を支払うことも認められます。

(2) 値上げを正当とする裁判が確定した場合は精算

ただし、裁判において地代の値上げを正当とする判決が確定した場合、賃借人は、賃貸人による請求の時に遡って、不足分に年1割の割合による利息を付した金額を支払わなければなりません(借地借家法11条2項但し書き)。

裁判が長引けば長引くほど、利息を含めた精算金額が大きくなるので、賃借人の側としては注意すべきポイントといえるでしょう。

6.まとめ

土地の価格や周辺賃料相場との比較などを踏まえて、地代額が不相当になった場合には、賃貸人は賃借人に対して、地代の値上げを請求することができます。

地代の値上げを請求するためには、交渉や訴訟などを通じて根気強い対応が求められますので、弁護士に相談することをお勧めいたします。

弁護士にご相談いただければ、賃借人の説得および裁判所での主張・立証に必要となる資料の収集に関するアドバイスから、実際の交渉・訴訟の遂行に至るまで、賃貸人である依頼者様を全面的にバックアップいたします。

地代の値上げをしたい賃貸人の方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

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