仮登記とは?その効力・種類・費用などをわかりやすく解説
不動産の所有権などの権利を保全するため、通常の登記(本登記)の代わりに「仮登記」が用いられるケースがあります。
この記事では、仮登記の効力・メリットやデメリット・種類・手続き・費用などについてわかりやすく解説します。
1.仮登記とは?
仮登記とは、不動産に関する所有権や抵当権などの物権について、権利変動を暫定的に登記簿に記載・記録しておくことをいいます(不動産登記法105条)。
不動産に関する権利変動(所有権移転、抵当権設定など)を第三者に対抗するためには、基本的に「本登記」を行うことが必要です(民法177条)。
しかし、何らかの事情によって本登記ができない・したくないという場合には、仮登記によって一応の権利保全を図ろうとするケースがあります。
2.仮登記のメリット
仮登記を活用することのメリットは、大きく分けて以下の2つです。
(1) 登記順位を保全できる
仮登記には、本登記をした際の「順位保全効」が認められています(不動産登記法106条)。つまり、仮登記をした後に改めて本登記をした場合に、その本登記について仮登記をした日に遡ってその時に本登記をしたのと同じような効果が生じます。
たとえばAさんが、不動産Xについて抵当権の設定を受け、2021年3月1日に抵当権設定仮登記を行ったとします。
この段階では、Aさんの抵当権につき、第三者対抗要件は認められません。
次に、Bさんも不動産Xについての抵当権設定を受け、2021年4月1日に抵当権設定本登記を行ったとします。
すると、Bさんが抵当権についての第三者対抗要件を備えたことになり、この時点ではBさんがAさんよりも優先的に抵当権を実行できることになります。
しかし、Aさんがその後2021年5月1日に、抵当権の仮登記を本登記に移行したらどうなるでしょうか。
この場合、仮登記の順位保全効が効果的に機能します。
すなわち、AさんはBさんの本登記よりも先に抵当権設定仮登記を備えているので、Aさんが第一順位・Bさんが第二順位となり、AさんがBさんよりも優先される結果となるのです。
このように、仮登記には、いざ本登記へ移行する際に、仮登記を備えた時点での順位に従って本登記を備えることができるメリットがあります。
(2) 登録免許税の節約
また、仮登記の特徴の一つとして、本登記よりも登録免許税が安いということがあります。
たとえば売買に基づく所有権移転本登記の登録免許税は、不動産の価額の1000分の20とされています(土地の場合は、2023年3月31日までは1000分の15)。
これに対して、所有権移転仮登記の登録免許税は、不動産の価額の1000分の10と半額になります。
また、抵当権設定本登記の登録免許税は、債権金額または極度額の1000分の4です。
一方、抵当権設定仮登記の登録免許税は、不動産の個数1個につき一律1,000円と非常に安価になっています。
実際上の問題として、本登記が必要になるのは、不動産に関する権利関係について争いが生じた場合です。
裏を返せば、それまでの間は仮登記によって順位を保全しておけば十分、という考え方も成り立ち得ます。
このような事情から、登録免許税を節約するために、物権変動について本登記を備えず、暫定的に仮登記のみを経由するという取り扱いが実務上しばしば見られます。
3.仮登記のデメリット
仮登記は、順位保全効の使い勝手の良さや、登録免許税の安さが相まって、幅広い活用の道を持っています。
その反面、以下のデメリットには注意する必要があります。
(1) 本登記とは異なり対抗力はない
仮登記は、本登記とは異なり、第三者対抗要件としては認められません。
そのため、実際に第三者に対して所有権や抵当権などの存在を主張する場合は、本登記を備える必要があることに注意しましょう。
(2) 本登記への移行には利害関係人の承諾が必要
仮登記を本登記に移行することはいつでもできると思われがちですが、不動産登記法の規定上、所有権に関する仮登記を本登記に移行する際には、登記上の利害関係を有する第三者の承諾が必要とされています(不動産登記法109条1項)。
登記上の利害関係を有する第三者の典型例は、所有権に関する仮登記よりも後に同一の物権について所有権移転や抵当権設定に関する本登記を備えた者です。
2-(2)で紹介した設例でいうと、Aさんの仮登記よりも遅れて本登記を備えたBさんは、Aさんが本登記を備えた時点で、Aさんよりも劣後する立場にあります。
しかし、Aさんが実際に仮登記を本登記に移行することを法務局に申請する際には、Bさんの承諾が必要であるというのが、不動産登記法上の原則なのです。
もしBさんがAさんによる本登記への移行に協力的でない場合、AさんはBさんに対して訴訟を提起し、承諾の意思表示を求める必要があります。
このように、仮登記にとどまる段階で、後から不動産に関する権利を取得した第三者が現れた場合には、本登記への移行手続きが面倒になる可能性があることに留意しておきましょう。
4.仮登記は2種類|1号仮登記と2号仮登記
不動産登記法105条では、仮登記を行うことができる場合として2つのパターンが定められており、条文番号をとって「1号仮登記」「2号仮登記」と呼ばれています。
それぞれの概要は、以下のとおりです。
(1) 1号仮登記とは?
1号仮登記とは、不動産に関する物権変動(所有権移転・抵当権設定など)はすでに生じているものの、以下の情報を法務局に提供できないために、本登記手続きができないケースで行われる仮登記をいいます(不動産登記法105条1号、不動産登記規則178条)。
- 登記識別情報
- 第三者の許可、同意または承諾を証する情報
1号仮登記を行うべき場合としての典型例が、登記義務者(売買の売主・抵当権設定者など)が本登記手続きに協力してくれない場合です。
この場合、登記義務者に対して訴訟を提起して、本登記に向けた意思表示を求めることはできます。
しかし、訴訟の結果を待っていては、その間に第三者に権利を奪われてしまう可能性があります。
そこで、不動産の所在地を管轄する地方裁判所に対して、「仮登記を命ずる処分」を申し立てることが有効な対処法となります(不動産登記法108条1項、3項)。
裁判所に対して仮登記の原因となる事実を疎明し、仮登記を命ずる処分が行われると、登記権利者は単独で仮登記を申請することができるのです(同条2項、107条1項)。
また、登録免許税の節約を目的として行われる仮登記も、1号仮登記に分類されます。
(2) 2号仮登記とは?
2号仮登記とは、不動産登記の対象となる権利の設定・移転・変更・消滅に関して、請求権を保全しようとするときに行われる仮登記をいいます。
2号仮登記の場合、1号仮登記とは異なり、本登記の原因となる物権変動は未だ生じていない状況であるという特徴があります。
たとえば、農地の売買を行う場合、農業委員会の許可を受けることが所有権移転の効力要件とされています(農地法3条1項6項)。
したがって、農業委員会の許可がない段階では、所有権移転の効果は未だ発生しておらず、その請求権は「条件付債権」となります。
このとき、農業委員会の許可が下りていない段階で、所有権移転に関する請求権の保全を目的として行われるのが「2号仮登記」ということです。
5. 不動産の所有権移転仮登記を申請する手続き
不動産の所有権移転仮登記を例にとって、仮登記手続きを行う手続きの概要を解説します。
(1) 法務局で共同申請するのが原則
不動産登記法に通ずるルールとして、「共同申請主義」(不動産登記法60条)が採用されています。
したがって仮登記についても、登記権利者と登記義務者が共同で申請するのが原則となります。
(2) 例外的に単独で仮登記申請できる場合
ただし、以下の場合には、登記権利者が単独で仮登記を申請することができます(不動産登記法107条1項)。
- 登記義務者の承諾があるとき
- 仮登記を命ずる処分があるとき
上記のうち、仮登記を命ずる処分の概要については、すでに解説したとおりです。
一方、登記義務者の承諾については、登記義務者から承諾を証する書面を取得して、法務局に提出する必要があります。
(3) 売買による所有権移転仮登記の必要書類
売買を原因として所有権移転仮登記を行う場合、法務局に提出する必要書類は以下のとおりです。
- 登記申請書
- 売買契約書の写し
- 登記義務者の印鑑証明書
- 固定資産税評価証明書(登録免許税を算出するため)
また、登記権利者が単独で仮登記を申請する場合は、以下のいずれかの書類も併せて添付する必要があります。
- 登記義務者の承諾を証する書面
- 仮登記を命ずる処分の決定書の正本
6.不動産の所有権移転仮登記手続きに必要な費用
不動産の所有権移転仮登記手続きを行う場合、必要となる主な費用は「登録免許税」と「専門家費用」の2つです。
(1) 登録免許税
所有権移転仮登記にかかる登録免許税は、不動産の価額の1000分の10(1%)です。
不動産の価額としては、固定資産税評価証明書の記載が用いられます。
(2) 専門家費用(弁護士・司法書士)
不動産の登記手続きは専門的な要素が強いので、弁護士または司法書士に依頼すると良いでしょう。
実際の登記事務は司法書士が行うことが多く、弁護士に相談をした場合でも、最終的には司法書士の紹介を受けるのが一般的です。
所有権移転仮登記に係る司法書士費用は、司法書士事務所によっても異なりますが、通常は数万円程度で済むことが多いでしょう。
7.まとめ
所有権移転や抵当権設定の仮登記は、本登記ができる条件が整っていない場合や、登録免許税を節約したい場合に有効な手段です。
不動産の仮登記は専門性が高い手続きですので、弁護士・司法書士へのご相談をお勧めいたします。
特に、売買契約書のチェックなどを弁護士に依頼している場合には、登記に関しても弁護士に相談してみると、司法書士の紹介を受けられるなど、ワンストップで対応してくれる例が多いです。
不動産の仮登記に関してわからないことがある場合には、お早めに専門家へご相談ください。