借地権とは?種類・存続期間、所有権との比較
新築分譲住宅や、中古住宅の広告を見ると、土地に関する権利が「借地権」と表示されている場合があります。
土地に関する権利が「借地権」か「所有権」かは、戸建て住宅を購入するに当たって大きなポイントとなるため、必ずチェックしなければなりません。
今回は、借地権とは何かについて、種類・存続期間、所有権と比較したメリット・デメリットといった観点から、幅広く解説します。
これから戸建て住宅の購入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
1.借地権の種類
「借地権」とは、建物を所有するために土地を借りる権利をいいます。
借地権は、民法の観点から2種類、旧借地法・借地借家法の観点から3種類に分類されます。
まずは、借地権にどのような種類があるのかについて、概観してみましょう。
(1) 民法上の分類|地上権・賃借権
民法上、借地権は「地上権」と「賃借権」のいずれかに分類されます。
「地上権」は、他人の土地において工作物または竹木を所有するため、その土地を使用する権利です(民法265条)。
地上権は「物権」であり、借地権者(地上権者)には非常に強力な権利が与えられています。
特に、地主の承諾を得ずに地上権を譲渡したり、土地を第三者に転貸したりできる点が大きな特徴です。
これに対して「賃借権」は、他人の物を使用収益する権利です(民法601条)。
賃借権は「債権」であるため、物権である地上権に比べると、借地権者(賃借人)に認められた権利はやや弱いものとなっています。
具体的には、賃借権を第三者に譲渡したり、土地を第三者に転貸したりする際には、地主の承諾が必要となります。
(2) 旧借地法・借地借家法上の分類
民法上の分類とは別に、現在設定されている借地権は、「旧法借地権」「普通借地権」「定期借地権」の3種類に分類されます。
これは、1992年7月31日まで存在した旧借地法と、同年8月1日に旧借地法の内容を全面改訂する形で施行された借地借家法に基づく分類です。
「旧法借地権」「普通借地権」「定期借地権」の分類の概要は、以下のとおりです。
①旧法借地権
1992年7月31日以前に締結・更新された借地契約に基づく借地権です。
②普通借地権
1992年8月1日以降に締結・更新された借地契約に基づく借地権で、定期借地権ではないものをいいます。
③定期借地権
1992年8月1日以降に締結・更新された借地契約に基づく借地権で、以下の事項を定めたものをいいます。
- 契約の更新がないこと
- 建物の築造による存続期間の延長がないこと
- 存続期間の満了により借地契約が更新されない場合に、建物買取請求をしないこと
上記のうち、定期借地権については、契約の更新がないことが最大の特徴になります。
一方、旧法借地権と普通借地権は、いずれも契約更新がある借地権の類型になりますが、適用される法律が旧借地法か、それとも借地借家法かという点に差があります。
特に、後述する存続期間については、旧法借地権と普通借地権の間で大きく異なるルールが適用されるので要注意です。
2.借地権の存続期間
借地権の存続期間は、借地権の種類が旧法借地権・普通借地権・定期借地権のどれであるかによって、以下のように異なります。
当初の存続期間 | 更新後の存続期間 | |
---|---|---|
旧法借地権 | 堅固建物:30年以上(期間の定めがない場合は60年) 非堅固建物:20年以上(期間の定めがない場合は30年) |
堅固建物:30年以上(期間の定めがない場合は30年) 非堅固建物:20年以上(期間の定めがない場合は20年) |
普通借地権 | 30年以上(期間の定めがない場合は30年) | 最初の更新後は20年、その後の更新は10年(合意によりこれ以上の期間にすることも可能) |
定期借地権 | 一般定期借地権:50年以上 建物譲渡特約付借地権:30年以上 事業用借地権:10年以上50年未満 |
更新なし |
「堅固建物」とは、石造・土造・煉瓦造またはこれらに類する建物(鉄筋コンクリート造の建物等)を意味します。
一般的な分譲住宅・中古住宅の場合は、堅固建物に該当するケースは少ないものと思われます。
なお、借地権付き建物を購入する段階では、上記の存続期間がすでにある程度進行しているケースが多いです。
そのため、借地権の残存期間がどの程度であるのかについて、注意深く確認する必要があります。
3.借地権付き建物のメリット・デメリット
借地権付き建物には、敷地が所有権である場合に比べると、メリット・デメリットの両面が存在します。
借地権付き建物の購入を検討する際には、良い面も悪い面も正しく理解したうえで、納得したうえで購入の決断を下しましょう。
(1) 借地権付き建物のメリット
借地権付き建物の主なメリットは、以下のとおりです。
取得費用が安い
敷地部分についての取得費用が安く済む点は、借地権付き建物の最大のメリットといえるでしょう。
敷地の所有権価格に対して、借地権価格は50%~70%程度となるのが一般的です。
そのため、敷地が所有権の場合に比べると、土地・建物の取得費用が数百万円・数千万円の規模で安くなることも珍しくありません。
敷地の固定資産税がかからない
敷地部分に対応する固定資産税が発生しないことも、借地権付き建物のメリットといえるでしょう。
固定資産税は、毎年1月1日時点における、不動産登記簿上の所有者に対して課されます。
借地権者は、敷地の所有者ではないので、固定資産税の納税義務者にはならないのです。
借地権は旧借地法・借地借家法で強力に保護されている
借地権は、「所有権よりも弱い権利」というイメージが先行して、買主候補から敬遠されがちです。
しかし借地権者は、旧借地法・借地借家法によって強力に保護されています。
特に、旧法借地権・普通借地権については、地主による更新拒絶には正当事由が要求されているうえ、借地権者には建物買取請求権が認められています(旧借地法4条、借地借家法6条、13条1項)。
そのため、地主による借地契約の解約は非常に難しく、借地権者が立ち退きを迫られることはそうそうありません。
後述するように、借地権にはさまざまな制限があるものの、「その土地に安住する」ことを目的とする場合には、借地権も十分強力な権利といえるでしょう。
(2) 借地権付き建物のデメリット
借地権付き建物の主なデメリットは、以下のとおりです。
地代を支払う必要がある
借地権者は地主に対して、借地契約に基づく地代を支払う必要があります。
地代の金額は借地契約の定めによりますが、固定資産税の3倍程度となっているケースが多いようです。
敷地が所有権の場合は、敷地に関するランニングコストは固定資産税のみであることと比べると、借地権付き建物のランニングコストは若干高くなってしまうことを覚悟しておきましょう。
賃借権の場合、建物を自由に売却できない
借地権が(地上権ではなく)賃借権の場合、賃借権を第三者に譲渡したり、敷地を第三者に転貸したりするためには、地主の承諾が必要です(民法612条1項)。
借地上の建物を第三者に譲渡することは、すなわち賃借権の譲渡または敷地の転貸を意味するため、やはり地主の承諾が必要になります。
もし将来建物を第三者に売却することを検討する場合、地主の承諾が得られなければ、売却計画は頓挫してしまうでしょう。
また、建物の売却を承諾する代わりに、地主から高額の承諾料を要求される可能性も考えられます。
このように、借地権付き建物については、将来売却を行う際に、地主の承諾がネックになり得ることを理解しておきましょう。
増改築が制限されているケースがある
借地契約では、建物の増改築を行う場合、地主の許可を要する旨が規定されていることがあります。
この場合、増改築に関する地主の許可が得られず、リフォームなどができなくなるケースがあるので要注意です。
売却時に買い手がつきにくい
借地権付き建物は、借地権が所有権よりも不安定・不完全な権利であることに伴い、市場から敬遠されがちです。
売却価格も低くなる傾向にあるため、「住まなくなったら売却すればいい」と考えている場合は、敷地が所有権である物件の購入を検討することをお勧めいたします。
金融機関からの融資を受けにくい(担保評価が低い)
借地権付き建物の市場価値が低い点は、住宅ローン審査においてもネックになってしまいます。
住宅ローンを貸し付ける際、金融機関は住宅の敷地と建物に抵当権を設定します。
抵当権を設定することで、住宅ローンの支払いが滞った場合にも、住宅の敷地と建物を売却して債権回収ができるのです。
融資審査の際にも、当然抵当権実行による債権回収の可能性を織り込んで審査が行われます。
しかし、借地権付き建物は市場価値が低いため、金融機関によって、回収不能リスクが高く見積もられてしまうのです。
回収不能リスクが高いと判断された場合、金利などの借り入れ条件が不利になるほか、借入可能額も少なくなってしまいます。
住宅ローンを借り入れて借地権付き建物を購入しようとする場合は、融資審査が厳しくなることにも留意しておくべきでしょう。
定期借地権の場合、特に存続期間に注意が必要
契約更新がない定期借地権の場合は、存続期間がどのくらい残っているのかを、購入前に必ず確認しましょう。
定期借地権の存続期間が満了すると、建物を除却して立ち退かなければなりません。
そのため、「終の棲家」としての購入を検討している場合には、定期借地権付き建物は避けた方が無難です。
4.借地権付き建物の購入を検討すべきケース
借地権付き建物は、敷地が所有権の建物と比べると、購入者を選ぶ「クセのある物件」といえます。
以下に該当する方は、借地権付き建物を購入するのに向いている傾向にありますが、リスクを十分に踏まえたうえで購入を決断してください。
(1) 都市部の好立地に家がほしい場合
都市部で駅からのアクセスが良い地域は、土地の価格がきわめて高額になる傾向にあります。
このような都市部の好立地に家を購入したい場合は、敷地部分にかかる費用を抑えるため、借地権付き建物も視野に入れておくとよいでしょう。
(2) 初期費用を少しでも減らしたい場合
立地にかかわらず、経済的に余裕がないため、少しでも購入にかかる初期費用を抑えたい場合には、借地権付き建物は有力な選択肢です。
地方の物件であっても、敷地が所有権の場合に比べて、数百万円程度は初期費用を安く抑えられる可能性が高いでしょう。
(3) 売却を意識せずに長期間住みたい場合
借地権付き建物には、市場価格が低い・買い手がつきにくいといった、売却に関するデメリットがあります。
しかし、将来的な売却を度外視して、あくまでも「自分や家族が長く住む」ことを目的として購入する場合には、借地権付き建物のデメリットを気にせずに済みます。
ただし、定期借地権の場合には、借地権の存続期間満了によって立ち退かなければならない点に注意が必要です。
「終の棲家」として借地権付き建物の購入を検討する場合には、旧法借地権または普通借地権の物件を探すべきでしょう。
5.まとめ
借地権付き建物には、敷地が所有権の場合に比べると、住宅ローン・売却・存続期間などさまざまな注意点が存在します。
その一方で、取得費用を低く抑えられる点は、借地権付き建物の大きなメリットです。
もし借地権付き建物の購入を検討する場合には、借地権に関する法律上の制約などを正しく理解し、リスクを十分に勘案したうえで、購入の可否をご決断ください。