借地権付き建物を無断でリフォームされた場合の対処法
借地契約において増改築禁止特約が規定されているにもかかわらず、それを知ってか知らずか、地主に無断で借地人が借地上建物の増改築(リフォーム)を行う例が相次いでいます。
借地人が増改築禁止特約に違反した場合、地主としては契約解除を含めた厳正な対応を検討すべきです。
ただし、増改築禁止特約違反を理由とする解除については、判例によって一定の制限が設けられています。
また増改築の許可に関しても、借地借家法によってルールが設けられています。
地主としては、判例・法律上の取り扱いを踏まえたうえで、状況に合わせた適切な対応をとることが大切です。
この記事では、増改築禁止特約があるのに、借地人が借地上建物を無断でリフォームした場合に、賃貸人がとるべき対応などを解説します。
1.増改築禁止特約とは?
増改築(リフォーム)によって借地上の建物の寿命が延びると、地主としては建物買取請求の際の金額が吊り上がるなど、大きな不利益を被ります。
そのため、借地契約の中では「増改築禁止特約」を規定し、借地上建物の増改築を禁止しているケースが多いです。
まずは、増改築禁止特約に関する基礎知識を押さえておきましょう。
(1) 借地上建物の増改築に地主の許可は原則不要
民法その他の法律では、借地上の建物の増改築をする際、借地人が地主から承諾を得なければならない旨の規定はありません。
したがって、特に地主・借地人間の合意がない場合には、社会通念に反しない限り借地人は地主の承諾を得ることなく、借地上の建物を増改築することができます。
(2) 特約によって借地上建物の増改築を禁止可能
しかし、冒頭でも述べたとおり、借地上の建物の寿命が増改築によって延びると、地主は大きな不利益を被ってしまいます。
そこで、借地契約の中で、増改築の際には地主の承諾を得なければならないという「増改築禁止特約」を規定しているケースが多いです。
増改築禁止特約の条文例は、以下のとおりです。
「借地人は、借地権設定者(地主)の承諾を得ない限り、本件建物の増改築をしてはならない。」
2.増改築禁止特約違反による契約解除
借地契約に増改築禁止特約を規定する場合、併せて特約違反を契約解除事由として規定するのが一般的です。
そのため、借地人が地主に無断で増改築をした場合、地主は原則として借地契約を解除することができます。
ただし、実際に契約解除が認められるかどうかはケースバイケースなので、解除の前に十分な法的検討を行いましょう。
と言うのも、地主によって借地契約が解除された場合、借地人は借地上の建物を除却して借地を明け渡さなければならないなど、生活の場を失うといったきわめて大きな不利益を被ってしまいます。
「契約違反が発生した場合は契約を解除できる」というのは、確かに法律上の原則的な考え方です。
しかし、軽微な違反を理由として、借地契約のような重要な契約の解除を杓子定規に認めてしまうと、借地人にとってあまりにも酷な結果となりかねません。
そこで、最高裁の判例上、借地契約の解除を認めるかどうかについては、地主と借地人の間の「信頼関係」が破壊されたかどうかによって判断すべきものと解されています。
最高裁昭和41年4月21日判決の事案では、借地契約の中で増改築禁止特約が規定されていたにもかかわらず、借地人が地主に無断で増改築を行いました。
増改築の主な内容は、以下の通りでした。
- 借地上の建物の2階部分を6坪から14坪に拡張
- 2階部分の独立室化
- 2階部分の各室に入口、押入れ、電気計量器を設置
- 2階部分に炊事場、便所を設置
- 2階部分から直接外部への出入口となる階段を設置
これらの増改築は、これまで借地人が自らと家族のみで使用していた2階部分を、アパートの居室として他人に賃貸できる状態に改造することを目的としていました。
最高裁は、増改築禁止特約違反を理由とした地主による契約解除の可否につき、以下の規範を示しました。
「増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり、土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため、賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは、賃貸人が前記特約に基づき解除権を行使することは、信義誠実の原則上、許されないものというべきである。」
そして最高裁は、上記の増改築の内容を踏まえて、借地人の行った増改築は、土地の通常の利用上相当であり、地主の地位に著しい影響を及ぼすものではないと判示し、地主による契約解除の主張を退けました。
アパートの居室として他人に賃貸できる状態に改造することを目的としていたので、一見すると土地の利用目的が変更され地主の解除を認めても良さそうと思われるかもしれませんが、それでも最高裁は地主による解除の主張を退けました。
このように、増改築禁止特約がある場合でも、増改築の内容によっては、信頼関係の破壊が否定され、地主からの契約解除が認められないケースがあることに注意しましょう。
3.増改築に関する承諾料について
借地契約中に増改築禁止特約が規定されているケースで、借地人が増改築をしたい場合には、基本的には地主の承諾を取りに行くべきです。
ただし、増改築によって地主も不利益を受けるリスクがあるのですから、借地人はそのリスク(潜在的損失)を補償する金銭(承諾料)を支払うよう求められるケースが多いです。
増改築の承諾料の金額は、地主・借地人間の交渉によって決定されます。
承諾料に明確な相場はありませんが、だいたい更地価格の1~5%程度となることが多いようです。
4.裁判所が地主の代わりに増改築を許可するケース
前述のとおり、最高裁の判例上、増改築禁止特約がある場合でも、土地の通常の利用上相当な範囲にとどまる増改築については認めるべきという考え方が示されています。
上記の最高裁の考え方を受けて、借地借家法17条2項では、地主の承諾に代わる裁判所の増改築許可について規定しています。
すなわち、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき、当事者間に協議が調わないときは、借地人の申立てにより、裁判所が地主の承諾に代わる増改築の許可を与えることができるのです。
上記の取り扱いを踏まえると、地主としては、増改築禁止特約は万能ではなく、一定の場合には増改築を認めざるを得ず、その場合には承諾料を払ってもらい穏便に解決すべき場合があるということを理解しておくべきでしょう。
【増改築が許可されるための条件・考慮要素】
裁判所が増改築の許可をするのは、増改築が土地の通常の利用上相当であると判断される場合です。増改築の相当性は、あらゆる事情を総合的に考慮して判断されますが、借地借家法17条4項では、考慮要素の例として以下のものを挙げています。
①借地権の残存期間(残存期間が長ければ長いほど、増改築の相当性は認められやすい)
②土地の状況
③借地に関する従前の経過
裁判所によって増改築が許可される場合、地主の側は不利益を受けることになります。その際、地主の不利益を補填するため、裁判所が借地人に対して承諾料の支払いを命ずる可能性が高いです。
5.まとめ
借地契約の中で増改築禁止特約を規定すれば、借地人が地主に無断で増改築を行った際、地主は契約解除などの対抗手段をとることができるようになります。
しかし、実際には「信頼関係破壊の法理」によって解除権が制限されるほか、借地人が裁判所に申立てを行い、裁判所が地主の代わりに増改築を許可する可能性もあります。
万が一借地人が無断で増改築をしている事実をつき止めた場合、地主としては、増改築禁止特約が万能ではないことを理解したうえで、妥当な承諾料の請求をするといった善後策について弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
弁護士は、増改築に関する法律・判例・契約についての論点を整理したうえで、契約解除を含めた対応の準備や実際の手続きを全面的にサポートいたします。
借地人による無断増改築にお悩みの地主の方は、お早めに泉総合法律事務所の弁護士までご相談ください。