マンションに関する法律をわかりやすく解説
最近では、都市部では一軒家よりもマンションに住む方の方が多いのではないでしょうか。
マンションに住む方、これから住もうとする方であれば、戸建て建物とは著しく異なるマンションに関する法律について知っておくべきです。
この記事では、マンションに関する所有権について定めた区分所有法、管理について定めた法律、建替えなどについて定めた法律など、マンションをめぐってどんな法律があるかについてわかりやすく解説していきます。
1.区分所有法
(1) 区分所有法の目的
区分所有法は、正確には「建物の区分所有等に関する法律」といいます。
区分所有者の権利義務の範囲を定め、マンションの管理運営を円滑に行うこと等を目的としています。
<区分所有法第1条>
「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。」
また「区分所有権」とは、第1条に規定する建物の部分を目的とする所有権をいいます(区分所有法第2条第1項)。
本来、民法の規定する所有権の目的は、一戸建ての建物を想定していますので、ひとつの建物の各部分を目的とした所有権は認められず、複数の人間に所有権を取得させるには建物全体を共有させるしか方法がありませんでした。
しかし、マンションは一つの建造物の中に住居となる独立した構造物が存在します。民法の例外として所有権を各住居の専有部分に認めたうえ、それ以外の共同で使用する部分の管理などを、区分所有者で構成する団体で行えるよう定めたのが区分所有法です。
(2) 管理費・修繕積立金の支払いの根拠
マンションの部屋を購入した後に、毎月管理費や修繕積立金の支払いをしなければなりません。その支払いの法的根拠は区分所有法第19条に規定されています。
<区分所有法第19条>
「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。」
「共有部分の負担に任じ」の記載は、建物の共有部分の使用などに伴う管理費などの負担については、マンションの入居者全員で負担しなければならないことを定めています。
また、反対に「共用部分から生ずる利益を取得する」との記載は、共用部分を第三者に賃貸した場合の賃料などを各持分に応じて得ることができることを定めています。
なお、区分所有者が共用部分を使用することが認められるのは、民法の共有規定(民法第249条)から明らかですから、区分所有法の規定とは関係ありません。
(3) マンション管理組合の根拠
マンション管理組合は、建物やその敷地その他付属施設の管理を行う団体のことをいいます。このマンション管理組合を構成することの根拠も区分所有法にあります。
<区分所有法第3条第1文>
「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。」
この条文からわかるようにマンション管理組合は、区分所有者全員で構成されています。
また、マンション管理組合の業務は、一般的には管理規約に定められています。建物やその敷地及び共用部分の保安、保全、保守、修繕や清掃、消毒及びごみ処理を行うなどとされています。
抽象的には、マンションの住環境を保全し、入居者全員の利益を図る役割を担うと言えるでしよう。
[参考記事] マンション管理組合・マンション管理会社とは|構成、役割、権限マンション管理費などの不払いの効果
マンションの管理費や修繕積立金の不払いは、金銭の給付を目的とする義務の不履行であるため、民法第419条第1項により、遅延損害金の支払いをしなければなりません。
損害金の利率は、不払い防止のため、規約によって一般的には法定利率である年3%(2021年時点)よりも、かなり高率(年10~14%)に設定されていることが多いようです。
[参考記事] マンションの管理費・修繕積立金を滞納するとどうなる?強制執行
マンションの管理費などが不払いとなった場合、まずは書面や電話・訪問などの督促により任意の支払いが求められます。内容証明郵便により催告されることもあるでしょう。
それでも支払いがない場合、管理組合は訴訟を提起し、判決を取得した上で強制執行によってその費用を回収することとなります。具体的には、まず、不払いとなった者の財産である動産、不動産、給与などを差し押さえて、その中から弁済を受けることとなります。
もっとも、給与の全額を差し押さえてしまえば、差し押さえられた者が最低限の生活すらできなくなってしまいます。そのため、給与の全額を差し押さえることはできず、最低限生活ができるように範囲が限定されています(民事執行法152条)。
区分建物の競売
マンションの管理費などの不払いに対しては、管理組合の集会での決議に基づき、区分所有法第59条第1項により、不払い者の区分所有権とその敷地利用権の競売を請求されるおそれがあります。
これは一般の強制執行としての競売とは異なり、滞納金の回収目的にとどまらず、他の区分所有者に迷惑をかける者をマンションから排除するために認められた制度です。このため必ずしも滞納額が多額とは言えなくとも、不払いの解消に非協力的で不誠実な区分所有者については、この競売請求が認められるケースが増えているとされています。
裁判例 | 不払い額 |
---|---|
東京地裁平成13年8月30日判決 | 約162万円 |
東京地裁平成17年5月13日判決 | 約117万円 |
東京地裁平成20年5月8日判決 | 約91万円 |
東京地裁平成20年8月29日判決 | 約107万円 |
東京地裁平成21年7月15日判決 | 約80万円 |
東京地裁平成26年3月27日判決 | 約96万円 |
(4) 区分所有権の処分
如何にマンションの区分所有が認められても、マンションの敷地を利用する権利がなければ、ただの不法占拠者に過ぎません。したがって、区分所有権には、必ず何らかの敷地利用権が伴います。
敷地の所有権である場合もあれば、地上権、賃借権である場合もあります。区分所有権を売却するなどして処分する場合には、次に見る通り、敷地利用権と分離して処分することはできません。
<区分所有法第22条第1項>
「敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。」
本来、民法では、建物と敷地は別の不動産であるため、別々に処分することができるはずです。
しかし、区分所有権と敷地利用権が別人に帰属することを認めてしまうと、区分所有者が敷地を不法占拠する状態が出現してしまいますし、区分所有者でない敷地利用権者には管理組合の規約や決議の効力を及ぼすことができませんから、マンションの管理に重大な支障を生じてしまいます。
そこで区分所有法では、区分所有権と敷地利用権は一体として分離処分を禁止しているのです。
2.マンション管理適正化法
これまで一戸建てが主流であった住環境が、マンションの増大によって変化しました。そこで、マンションを管理する専門家としてマンション管理士の資格を定めるなどして良好な住環境を確保することなどを目指しました。
それがマンションの管理の適正化の推進に関する法律(以下、「マンション管理適正化法」といいます)です。
マンション管理適正化法には、マンション管理の専門家であるマンション管理士の資格試験や登録制度について定められています。
【マンション管理士ってなに?】
マンション管理士とは、マンション管理組合や居住者からの相談を受け、法的なアドバイスを行う専門家であり、この資格は、国家資格となります(マンション管理適正化法2条5号)。マンション管理士の業務の主なものとして以下が挙げられます。
・マンション管理組合の運営の補助
・住民トラブルの相談
・マンション管理規約の作成、変更
・大規模修繕工事に関する手続きの補助
以上のように、マンションの管理、運営に関わる業務となります。
3.マンションの建替え等の円滑化に関する法律
マンションの建替え等の円滑化に関する法律(以下、「マンション建替え円滑法」といいます)は、今後増加すると想定される老朽化マンションの建替えや耐震に問題のある建物の建替えの必要がある場合などに円滑に建替えができることを目指した法律です。平たく言えば、今住んでいるマンションを取り壊して新築する際の法的な手順と手続を定めたものです。
マンションの建替えとは、既にあるマンションを除去し、その敷地に新たにマンションを建築することです(マンション建替え円滑法第2条第2号)。
マンションの建替えは、マンション建替組合の事業として行われます(マンション建替え円滑法5条)。マンション建替え組合とは、区分所有法62条に定められているマンション建替え決議がされた場合に、その決議に賛成したことから、区分所有法64条によって建替に合意したとみなされる者の4分の3以上の同意により設立される組合のことをいいます(マンション建替え円滑法9条1項、2項)。
マンション建替え組合は、マンションの建替え事業の主体であって、事業計画をたて、建築の認可を受け、工事業者との建築工事契約を締結するなど様々なことを決定・実行し、また費用を組合員から徴収するなどの事務などを行います。また次にみる売り渡し請求をすることができます。
売り渡し請求
マンション建替え円滑法第15条第1項では、マンション建替え組合は、一定の期間以内に、建替えに参加しない旨を回答した区分所有者に対し、区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すべきことを請求することができると規定されています。
これは、建替えに賛成しない者がいると建替えが円滑にできないことから規定されています。
この売り渡し請求が相手方に到達した時点で売買契約の効果が生じ、請求を受けた者はこれを拒絶することはできません。
[参考記事] マンション建替えの流れ・注意点などをわかりやすく解説4.被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法
被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法(以下、「被災マンション法」といいます)は、阪神淡路大震災を受け制定された経緯があります。マンションが被災し、全部滅失した後のマンションの再建手続を定めたものです。
マンションが被災して全部滅失した場合、区分所有権の対象が失われているので、住民には敷地利用権しか残りません。敷地利用権は共有状態ですから、民法に従い、その上のマンションを再築するには全員の同意が必要となります。
しかし、それでは再築が困難となるため、この法律では、5分の4の賛成で再築できると要件を緩和しています(被災マンション法4条1項)。
再築を諦めた場合も同様の決議で敷地を処分することも可能とされています(同法5条1項)。
さらに全部滅失でなくとも、大規模な一部滅失であれば、同じく建物の取り壊し(同法11条)・敷地や残存建物の売却(同法9条、10条)が可能とされています。
5.まとめ
マンションをめぐる法律は民法の特別法なので、民法の深い知識がないと理解が困難であり、法律の中でかなり難解な部類です。管理組合の役員の素人判断は問題を拡大させ、全住民の不利益を招く危険があります。
マンションの問題は、必ず弁護士やマンション管理士に相談するべきです。