マンション建築における「等価交換」とは?
広い土地を所有しているものの活用方法に悩んでいる、という方は、「等価交換」という方法も検討してみましょう。
等価交換による開発を行えば、ほとんど資金を準備することなく土地を活用することが可能です。
今回は、マンション建築などの不動産開発を行う際に用いられる「等価交換」の手法について、メリット・デメリット・手続きの流れなどを解説します。
1.等価交換とは?
不動産開発における「等価交換」とは、土地所有者がディベロッパー(不動産開発業者)に対して土地を提供する見返りに、土地上に新築された建物の区分所有権を得る取引をいいます。
(1) 等価交換の仕組み
等価交換の取引は、いわば土地所有者とディベロッパーによる、不動産開発の共同プロジェクトです。
土地所有者は、建物新築などの開発ノウハウを持ったディベロッパーと契約して、提供した土地の上にマンションやオフィスビルなどを建ててもらいます。
その後土地所有者は、新築されたマンションやオフィスビルなどの区分所有権(居室の所有権)と、対応する敷地権を取得します。
このとき、土地所有者が提供した土地の価値と、取得する区分所有権+敷地権の価値が等しくなるように区分所有割合を設定することから、「等価交換」と呼ばれています。
等価交換は、土地所有者にとっては資産の利便性・収益性を向上させることができる一方で、ディベロッパーも不動産の開発・販売等によって利益を得ることができるため、双方にとってwin-winになり得る取引といえるでしょう。
(2) 等価交換に向いている土地
等価交換に向いているのは、マンションやオフィスビルなどの大規模不動産を新築するのに適した土地です。
具体的には、以下の条件を満たす土地が、等価交換に向いていると考えられます。
①面積が広い土地
マンションやオフィスビルの開発には、広大な土地を必要とします。コンパクトなマンションであっても、少なくとも100坪前後は必要になるでしょう。
土地の面積が広ければ、新築後に得られる区分所有権の割合も増えますので、等価交換に用いる土地は、できるだけ広い土地であることが望ましいです。
②交通の便がよい土地
駅に近く、交通の便がよいエリアであれば、マンションやオフィスビルの開発には最適です。
交通の便がよい土地は資産価値も高い傾向にありますので、土地所有者は等価交換によって大きな利益を得られる可能性があるでしょう。
2.土地所有者にとっての等価交換のメリット
土地所有者がディベロッパーと契約して等価交換の取引を行う主なメリットは、以下のとおりです。
(1) 資金を準備せずに土地を活用できる
等価交換の取引では、土地所有者は基本的に土地を提供するだけでよく、別途資金を準備する必要がありません。
土地を所有したままで建物を新築する場合、ローンを組むなどして資金を準備しなければならないことと比べると、資金を準備しなくてよい点は大きなメリットです。
(2) 譲渡所得税が繰り延べられる
等価交換の取引では、土地所有者はディベロッパーに対して土地の所有権を譲渡します。
譲渡価格(=取得する区分所有権+敷地権の価値)が取得費を上回っている場合、通常であれば譲渡の段階で「譲渡所得税」が課されます。
しかし等価交換の場合、一定の要件を満たして「立体買替えの特例」を活用することで、譲渡所得税の課税を将来買換え資産を売却するときまで100%繰り延べることができるのです。
参考:措置法第37条の5《既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例》関係|国税庁
譲渡所得税の課税繰り延べが認められれば、等価交換実行時に課税が発生しないため、土地所有者は金銭的な支出を回避できます。
手元に資金が残ることで、その資金を運用に回して利益を得ることができますので、土地所有者にとって特例を活用するメリットは大きいでしょう。
(3) 新築居室を自由に活用可能
等価交換の取引によって、土地所有者は新築建物の区分所有権を得ることができます。
利便性のよい位置にあるマンションの新築居室は快適ですので、ご自身で住むのもよいでしょう。
あるいは、区分所有権を得た居室を賃貸に出すことによって、賃料収入を得ることも可能です。
このように、等価交換の取引を行った土地所有者は、新築居室を自由に活用できるメリットを享受できます。
3.等価交換のデメリット
等価交換は、その取引の複雑さ・分かりづらさ故に、土地所有者にとって注意しなければならないデメリットも存在します。
(1) 契約時に決めなければならないことが多い
等価交換は、単純な不動産売買と比べるとはるかに複雑な取引です。
新築される建物も大規模なものになるため、事業計画の策定や、実際の建築に長い期間がかかります。
さらに、どの程度の区分所有割合を設定するか、建物の仕様はどうするかなど、契約時に決めなければならないことも非常に多いです。
そのため、等価交換をすることについての大枠を合意する「基本契約」と、事業計画や建物の仕様を確定させて着工に移ることを合意する「本契約」の二段階で契約が締結されることになります。
このように、等価交換の取引は、当事者にとって非常に煩雑であり、かなりの手間をかけて検討を進める必要がある点がデメリットといえます。
(2) ディベロッパーに搾取されるおそれがある
等価交換の取引は、建築・開発のノウハウを持つディベロッパー主導で進められるのが一般的です。
悪徳業者であるディベロッパーの場合、土地所有者に付与する区分所有割合を不当に少なくして、自社の利益を嵩増ししようとすることも考えられます。
土地所有者としては、弁護士などの専門家のサポートを受けながら、自分にとって不利な内容の契約へと誘導されていないかについて常に気を配ることが大切です。
4.等価交換を行う際の手続き
等価交換の取引は、大まかに以下の流れで進行します。
(1) 基礎調査・事業計画の作成
まずはディベロッパーの側で、等価交換の取引に関するリターンやリスクを分析するための調査が行われます。
具体的には、周辺にある類似物件の賃料や分譲価格の相場から収益性を分析したり、地盤調査などを行って建築コストを見積もったりします。
こうした基礎調査を経て、ディベロッパーは事業計画を作成し、土地所有者に対してプレゼンテーションを行います。
土地所有者がディベロッパーの提案に納得できた場合には、基本契約の締結へと進むことになります。
(2) 基本契約の締結
基本契約では、暫定的な工期や建物の仕様、土地所有者に対して付与する区分所有権の割合などを合意しておきます。
基本契約を締結することの意味合いとしては、等価交換の取引を実施することについて一応のコミットを得るという側面が強く、詳細は今後の土地所有者・ディベロッパー間の打ち合わせの中で詰めていくことになります。
(3) 建物の詳細設計
基本契約の締結後、建築する建物の仕様を固めるための詳細設計が行われます。
大規模なマンションやオフィスビルの場合、ディベロッパー主導での提案が行われるのが一般的ですが、土地所有者の側の希望をある程度反映させることも可能な場合が多いです。
(4) 本契約の締結・土地所有権をディベロッパーに移転
建物の詳細な仕様が決まったら、土地所有者・ディベロッパー間で本契約を締結します。
基本契約の段階から、計画に変更点があった場合には、その内容を本契約にも反映します。
土地所有者が得られる区分所有割合が変更される可能性もありますので、その場合は、どのような根拠で変更が行われたのかを必ず確認しましょう。
本契約の締結後、契約で定められた実行日に、土地所有者からディベロッパーに対して、土地所有権が移転されます。
(5) 建物の建築
土地所有権がディベロッパーに移転されたら、契約上定められた計画に従い、実際に建物の建築を開始します。
工期は建物の規模などによって変わりますが、マンションの場合は、階数+3か月前後の工期を見込んでおきましょう。
(6) 竣工・土地所有者に対する区分所有権の割り当て
建物が竣工した段階で、ディベロッパーが土地所有者に対し、本契約で定められた割合の区分所有権と敷地権を付与します。
それ以降、(旧)土地所有者は、区分所有権の対象となっている居室を自由に活用することができるようになります。
5.等価交換による不動産開発の疑問点は弁護士に相談を
土地所有者が、等価交換による不動産開発をディベロッパーから持ち掛けられた場合、契約上注意すべきポイントがたくさんあります。
安易にディベロッパーと契約を締結してしまうと、ご自身にとって不利な条項を見落としていた結果、想定していなかった不利益を被ってしまうことにもなりかねません。
弁護士に相談すれば、等価交換に関する取引上・契約上の懸念事項を踏まえたうえで、契約書のチェックなどを通じて、等価交換の取引から依頼者が不利益を被らないようにサポートしてくれるでしょう。