マンションの管理費・修繕積立金を滞納するとどうなる?
マンション購入後そのマンションに住み続けるには、マンションの管理費や修繕立替金を支払わなければなりませんが、その費用は安くはありません。
今回は、この管理費・修繕積立金とは法的にどのようなものか、これらの費用を滞納すればどうなるのか、どのような手続きがなされるのか等、マンションの管理費・修繕積立金にまつわる問題について分かりやすく解説していきます。
1.管理費、修繕積立金について
(1) マンションの管理費・修繕積立金とは?
マンション管理費とは、建物、敷地内やその他の設備を維持管理するための費用(例:屋上、通路部分、階段部分、ゴミ捨て場などの清掃費、共用部分の照明やエレベーターの電気代、エレベーターの保守点検費など)をいいます。
マンション修繕積立金とは、建物の良好な状態を維持する大規模な修繕のために、区分所有者で計画的に積み立てる金銭のことをいいます。
(2) マンションの管理費、修繕積立金は何故支払わないとならない?
マンションの管理費、修繕積立金の支払いの根拠は、次にみる建物の区分所有等に関する法律(以下、「区分所有法」)に定めがあります。
<区分所有法第19条>
「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。」
「共用部分」とは、①マンションの区分所有権の目的となっている「専有部分」以外の建物の部分(例:躯体部分、支柱、屋根、廊下、階段など)、②専有部分に属しない建物の附属物(例:エレベーター機械、電気・ガス・水道の配線配管など)、③管理規約によって共用部分とされた附属の建物(例:管理人室、集会室など)を言います。
この条文は、各共有者が、これら共用部分の「負担に任じ」ると定めており、その日常的な維持管理のためのマンション管理費や大規模修繕工事に備えるための修繕積立金の負担を義務付けています。
なお、同条の「共用部分から生ずる利益を収取する」とは、共用部分である駐車場部分やベランダ部分の専用使用料、屋上看板の設置料などを持ち分に応じて取得するという意味です。
(3) マンションの管理費が高すぎる場合
マンションの管理費は、マンションの戸数や地域によって様々ですが、全国平均では月額1万0862円と報告されています。
※国土交通省・平成30年度マンション総合調査結果[データ編]「管理組合向け調査の結果」185頁・「管理費収入月戸あたり(使用料・専用使用料からの充当額を除く)」による
既に解説した区分所有法第19条には、「規約に別段の定めがない限りその持分に応じて」とあります。これは、原則としては持分に応じて配分されるところ、例外的に規約で異なる負担割合を定めることができるというものです。
もっとも、一般論として、マンション規約で定めた負担割合が特に不公平である場合には、その規約部分は無効となる余地があるとの裁判例があります(東京地裁判決平成14年6月24日・判例時報1809号98頁)。
ただし、この事案は、敷地所有者であった被告が、訴外開発業者との等価交換方式で建築したマンションであって、被告はマンションの敷地の一部を単独所有し、他の区分所有者の無償使用を許しており、その代わりに管理費の優遇を受けていたもので、裁判所は不公平とは言えないとして優遇規約を有効と認めました。
マンション管理費があまりにも高額である場合には、一度マンション管理組合や管理会社に全区分所有者の負担割合を問い合わせ、確認することが良いと思われます。
【マンション管理組合とは?】
マンション管理組合とは、区分所有法で定められたマンションの区分所有者全員で構成される団体のことをいいます。この団体は、①集会を開きマンションをめぐる様々な事項を多数決で決め、②団体のルールとして管理規約を定め、③「管理者」として理事長を選任することができます。
<区分所有法第3条第1文>
「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。」
2.管理費、修繕積立金の不払いはどうなる?
(1) 遅延損害金の発生
マンションの管理費(修繕積立金を含む。以下同じ)の滞納は、金銭債務の不履行なので、法定利率の年3%(2021年時点)または規約で決められた利率の遅延損害金を支払わなければなりません(民法第419条第1項)。
規約で定められた利率は、滞納防止のためにかなり高率に設定されていることもあるので、不払いには注意が必要です。
(2) 駐車場が使用できなくなる可能性
専用部分の駐車場代は管理費と一括して口座振替などで徴収されることが通常ですから、管理費と共に駐車場代を滞納すれば、駐車場使用契約が解除されて使用できなくなる場合があります。
【滞納は承継される】
次にみる条文のとおり、マンション管理費等を滞納している者がその部屋を第三者に売却した場合には、滞納している債務は、その部屋を買い受けた者に引き継がれます。
<区分所有法第8条>
「前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。」
前条第一項に規定する債権とは、管理費など管理組合が区分所有者に対する有する債権を指します。特定承継人は、売買などで区分所有権を取得した者のことを指しています。
(3) 不払いを公表されるか
マンション管理規約に「管理費等が支払えない場合が長期に渡る場合には、氏名を公表する」との規約があれば、公表されることもあるでしょう。
公表が名誉毀損などの不法行為となるか否かについては、裁判例の傾向としては、滞納額、公表に至るまでの経緯、公表の方法、文言、目的・動機など諸事情を考慮して違法性が判断されています。
したがって、事案によって異なる判断となるので、一般的には、管理組合側は公表については慎重な姿勢と考えられます。
3.滞納処分に対する措置の流れ
(1) 催告
不払いに対しては、書面や電話などで管理組合を代表する理事長から支払いの催告が来ることになります。
マンションによっては、管理組合から依頼を受けた弁護士等から催告の連絡が来ることがあります。
書面による場合には、後述するように内容証明郵便で送付されてくる場合があります。
(2) 訪問等
理事長、理事が訪問し、催告をしてくる場合があります。
むしろ良い機会ですから、分割払いなど、滞納を解消できる方策を協議することがお勧めです。
(3) 債務と支払い方法の確認
管理組合と滞納者との間で、滞納額を確認し、今後の支払い方法などの合意が成立した場合には、合意書が作成され、署名押印を求められます。
(4) 法的措置
支払督促
支払督促は、管理組合が簡易裁判所の書記官に申し立てて、滞納者の意見を聞くことなく、書類審査のみの簡易な手続きを経て、裁判所書記官が滞納者に対して支払督促状を送達する手続きです。
送達後一定期間が経過し、その間に滞納者から異議がない場合には、申立人の請求によって仮執行宣言が付され、後述する強制執行が可能となります。
支払督促や仮執行宣言に対して滞納者が異議を申し立てた場合は、通常の訴訟に移行します。
少額訴訟
少額訴訟は、訴訟の目的が60万円以下の金銭の支払いを求める場合に取ることのできる手続きで、判決まで長期間かかる通常の訴訟と異なり、基本的には1日で審理が終了する訴訟手続きです。
比較的少額となる管理費の徴収を短期間で徴収することができる特徴をもった手続きといえそうです。
しかし、この手続きは、訴えられた滞納者が通常の裁判手続きを希望し、その申立をした場合には通常の訴訟手続きによることとなります。
通常の訴訟手続き
既に解説したとおり、支払督促や少額訴訟から通常の裁判手続きに移る場合があります。
なお、請求する金額が140万円以下の場合には簡易裁判所での審理、140万円を超える場合は地方裁判所での審理になります。
(5) 強制執行
強制執行は、判決が確定した場合に取ることのできる手続きです。滞納者の資産を差し押さえて、その差し押さえた資産から弁済を受けることとなります。
差し押さえられる財産の対象としては、動産、不動産、給与などがあります。
もっとも、全ての財産を差し押さえてしまうと差し押さえを受けた者が最低限の生活すらできなくなることから、動産であれば生活用品が除かれ、給与も一定の金額のみ差し押さえることができるなどの制限があります。
(6) 競売
不払いが続き、滞納が原因でマンションの管理や修繕に支障を生じるような場合には、不払いは「区分所有者の共同の利益に反する行為」(区分所有法第6条)であり、「共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である」程度に達していれば、管理組合の決議を経た上で、滞納者のマンションの部屋の競売が申し立てられ(区分所有法第59条第1項)、マンションの所有権を失う恐れがあります。
つまり、最後の手段として、追い出されるわけです。
4.時効について
(1) 消滅時効の基本
マンションの管理費の請求権は、債権にあたりますので、その権利が行使できることを知ってから5年または行使できる時から10年行使しない場合には、時効により消滅します。(民法第166条第1項)
(2) 時効の完成猶予
時効の完成猶予は、催告やその他の事情によって、一定期間の間は時効が完成することを猶予することをいいます。
具体的には、内容証明郵便で管理費を支払うように催告する場合があります。この場合には6ヶ月を経過するまでは時効は完成しないことになります。
そのため、管理費を支払わない場合に内容証明郵便が届くことがありますが、これは時効の完成を妨げる意味で送られています。
(3) 時効の更新
時効の更新は、一定の事情によって、これまでの時効期間の経過をなくして、新たに時効を一から進めることをいいます。
つまり、また一から時効期間が計算されることになります。
時効更新の事情としては、様々なものがありますが、例えば訴訟の提起などがあります。
また、債務者が債務の存在を認めることも時効が更新される事情になります(民法第152条第1項)。
そのため、債務確認書に署名押印する行為には、時効の更新をする効果が生じることになります。
5.払えないときはどうする?
払えない場合には、管理組合などに相談し、分割払いをしてもらうか、支払いの期限を待ってもらうなどの相談をすることが良いでしょう。
なお、管理組合・理事会に何かしらの不満があるとしても、管理費の支払い義務には影響しませんので、請求には応じなければなりません。
もっとも、管理組合や理事会に不満がある場合には総会に出席し、意見をするなどをすることができます。
6.まとめ
マンションは複数の人間が共同生活を送る場であり、区分所有者は共同生活を維持するための義務を負担します。管理費を支払うこともそのひとつであって、これを拒否することはできません。
経済的事情から管理費を滞納してしまった場合、これを放置してしまうことは、管理組合・他の居住者との関係を悪化させ住みにくくなってしまいますし、滞納者が多くなれば、マンションの管理や補修に支障を生じ資産価値も下落してしまいます。
管理費を滞納している方は、早めに法律の専門家である弁護士に相談して、管理組合との分割払いの交渉などの方策をとるべきです。
借金が重なって管理費を支払えない場合には、弁護士に債務整理を依頼することで、無理なく管理費を支払うことができるようになる可能性もあります。