敷地内の転倒・怪我で訴訟!大家は損害賠償責任を負うか
賃貸アパートの敷地内に小さな公園(アパートの所有者であるオーナーが入居者向けに作った公園)が設置されていることを見かけることがあります。
このようなアパートの敷地内の公園において、設置された遊具の欠陥が原因で子どもが怪我をしてしまった場合、アパートのオーナーは責任を負うのでしょうか。
また、共用部分の廊下が滑りやすい構造になっていて、入居者が滑って転倒して怪我をしてしまった場合などにも、アパートのオーナーは責任を負うのでしょうか。
この記事では、アパートの敷地内や共用部分などで起きた事故・怪我について、アパートオーナーの責任の所在を解説していきます。
1.建物の占有者・所有者の責任について
結論からいうと、アパートの敷地内や共用部分などで起きた事故や怪我について、アパートのオーナーは「責任を負う場合がある」ということになります。
(1) 土地工作物責任とは
アパート内の公園や共用部分で、公園の設備や建物自体の欠陥が原因で起きた事故については、アパートのオーナーは「土地工作物責任」に基づいて賠償責任を負担します。
民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」
「土地の工作物」とは、土地に接着して人工的に作り出された設備のことです。
設置・保存の「瑕疵」とは、その種の工作物として通常備えるべき安全性を欠くことです。
瑕疵は損害が発生した当時存在すればよく、誰が生じさせたかは全く問題ではありません。前の占有者・所有者のもとで発生した瑕疵であっても、損害発生時の占有者・所有者の責任が問われるのです。
判例では、他人が作った瑕疵のある土地工作物を、瑕疵のないものと過失なく信じて譲り受けた者でも、損害の発生時に所有者であれば土地工作物責任を負うとしています(大審院昭和3年6月7日判決・大審院民事判例集7巻443頁)。
土地工作物責任を負うのは、第一に占有者であり、占有者が責任を免れた場合には、第二次的に所有者が責任を負います。
【所有者は不注意がなくとも責任を負担する】
不法行為制度の原則では、故意・過失で被害者に損害を生ぜしめた者だけが損害賠償義務を負う、「過失責任主義」が認められています。平たく言えば、不注意によって与えてしまった損害にだけ責任を負えば良いのです。また、被害者側が、その者に不注意があることを証拠をもって立証する責任が課せられています。
ところが、土地工作物責任では、占有者側が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたことを立証しなくては責任を免れることができません(中間責任)。
他方、占有者が責任を免れた場合には、所有者は不注意がなくとも責任を負担する「無過失責任」とされています。
他人に損害を与える可能性のある危険物が氾濫している現代では、その占有者、所有者に対し、非常に重い責任を課し、被害者保護を図っていると理解することができます。
(2) 占有者とは?
さて、第一に土地工作物責任を負う占有者とは誰か?については、法律学上複雑な議論が存在するのですが、ここでは、「土地工作物を事実上支配する者で、その瑕疵を修補し、損害発生を防止しうる者」と理解すれば十分です。
以下のような者が占有者と考えられます。
管理業者
典型的には、賃貸アパートの建物・施設の管理を委託された管理業者がこれにあたります。
しかし、物的な管理を任されていなければ建物を支配しているとは言えず、例えば、家賃の徴収だけを任された管理業者は占有者にはあたりません。
所有者(オーナー)
賃貸アパートの所有者が管理業者に物的な管理を任せている場合は、所有者もまた占有者となります。
これは管理業者に占有を任せることによって、所有者は管理業者の占有を通じて間接的に占有していると評価されるためであり、「代理占有」(民法181条)と呼ばれます。
所有者が「占有者」でもあると評価することには意味があります。
例えば、管理業者が占有者として責任を負う場合には、二次的な責任者である所有者は責任を負いませんが、それでは管理業者に賠償する資力がないときに被害者の救済が難しくなります。所有者=占有者と評価できれば、このような事態を防止できます。
転貸業者
例えば、所有者から賃貸アパート1軒を借り上げて個々の賃借人に貸し出す転貸業者が、物的な管理を他の管理業者に委ねた場合は、管理業者が占有者であると同時に、転貸業者も占有者ということになります。
入居者
賃貸アパートの入居者(賃借人)も占有者となる場合があります。
賃借人は、少なくとも賃借した室内については事実上の支配をしていますし、瑕疵があった場合は、これを賃貸人に通知して修繕を要求でき、賃貸人がこれに応じないときは賃借人自らが修繕を行うことができるからです(民法607条の2)。
したがって、例えば、賃借人Aの部屋に知人の子どもBが遊びに来た際に、室内の廊下の穴にBの足がはさまって骨折したというケースでは、賃借人Aが占有者として土地工作物責任を問われることになります。
賃借人Aが、室内の廊下の穴について、損害の発生を防止するに足りるだけの注意を尽くしたことを立証できない限り、Bに対して工作物責任を負うのはAであって、賃貸アパートのオーナーではありません。
【占有者が免責される「必要な注意」とは?】
上記のようなケースで、廊下の穴について、「アパートの所有者に報告して修繕を要求した」という程度では土地工作物責任は免責されません。実際に穴をふさぐなり、子どもが近づかないよう柵で囲むなどの措置をしていた場合であって、はじめて免責されると言えます。
判例では、腐敗しかかっていた小学校の遊動円棒(丸太を鎖で吊った遊具)につき、1度に3人以上乗らないように口頭で注意し、念のため「禁止」と書いた板を打ち付けておいただけでは、必要な注意を尽くしたとは言えないと判断した例があります(大審院大正5年6月1日判決・大審院民事判決録22巻1088頁)。
2.賠償の範囲
土地工作物責任による損害賠償の範囲は、一般の損害賠償請求の場合と変わりはありません。
怪我をした場合には、①治療費、付添看護費用、通院交通費など怪我のために被害者が負担しなくてはならなかった積極損害、②休業損害、後遺症逸失利益など、怪我のために被害者が得ることができなくなった消極損害、そして③怪我をしたことや後遺障害が残ったことに対する慰謝料を請求することができます。
なお、損害賠償をした占有者や所有者は、瑕疵を生ぜしめたことについて責任がある者に対して求償権を持ちます。
例えば、工事の請負人や土地工作物の前所有者です(717条3項)。
3.分譲マンションの場合
賃貸アパートではなく、「分譲マンションの共用部分」に瑕疵があった場合は、オーナーである「区分所有者」で構成される「管理組合」が土地工作物責任の「占有者」にあたるかという独特な問題が生じます。
通常は、管理組合がさらにマンション管理業者に管理を委託していますが、管理業者と並んで管理組合も間接的な占有者と評価する余地があるので問題となります。
この点、裁判例の判断は分かれており、最高裁の判例はまだありません。
占有者か否かは、そのマンションにおいて、管理組合が実際にどのような管理を行っていたのか・どのような組合規約になっていたのかに左右され、必ずしも一般化するべき問題ではないようにも思われます。
ただ、仮に管理組合が占有者ではないとすると、例えば、共用部分の滑りやすい床材のために転倒して怪我をした被害者は、管理組合ではなく、個々の区分所有者に対して損害賠償請求を行わなくてはなりません。
例えば、200戸を擁する分譲マンションであったならば、200人の区分所有者に対して請求し、支払いを拒否されたら、200人を被告として訴訟提起をしなくてはならない可能性があり、これは現実的な解決ではありません。
最高裁の統一的な判断が待たれるところです。
4.まとめ
賃貸アパートの設備や遊具で事故が起きた場合、占有者・所有者であることから、重い責任を負担しなくてはならないケースがあります。
アパート経営をされている方は、転ばぬ先の杖として、専門家である弁護士のアドバイスを受けておくことをお勧めします。