マンションの共用部分に私物が放置されていたら?
マンションの共用部分に私物が放置されていると、他の入居者に迷惑が掛かってしまいます。
マンション全体の住環境を健全に維持するためにも、オーナー(賃貸人)としては、早急に私物が撤去されるように対応しなければなりません。
ただし、オーナー自身が入居者の私物を撤去・処分する際には、法律上の責任を問われないように注意が必要です。
この記事では、マンションの共用部分に入居者の私物が放置されていた場合における、トラブル回避のための対処法について解説します。
1.共用部分の私物に関する法律上の取り扱い
共用部分に放置された私物については、オーナーとしても対処に困るところです。
入居者自身が私物を撤去してくれればよいですが、そうでない場合には、オーナー自身で何らかの対処を行う必要があります。
その場合、法律上どこまでの行為が認められるかを正しく理解して、入居者からオーナー自身の法的責任を問われないように注意しましょう。
(1) 共用部分での私物の放置は管理規約違反
まず、共用部分に私物を放置する行為は、管理規約違反に該当するのが一般的です。
共用部分は入居者全員のための場所なので、その用法は管理規約で定めることになっています。
特定の入居者の所有物を共用部分に置く行為は、他の入居者にとって迷惑になるため、管理規約で禁止されていることが多いです。
なお、たとえばマンションの廊下も共用部分に当たるため、居室のドア前の廊下部分に傘立てなどを置くことも、基本的には管理規約違反に当たります。
ただし、多くの入居者にとって便利であり、他の入居者の迷惑にならないと考えられる範囲では、例外的に共用部分に私物を置くことが認められているケースもあります。
この辺りは管理規約の定めによりますので、管理規約の内容を確認してください。
(2) 私物の撤去は可能
共用部分に放置された私物について、オーナー側が場所を移動(撤去)すること自体は、基本的に問題ありません。
共用部分への私物放置は、他の入居者にとって迷惑なので、マンションの管理上必要な措置と考えられるからです。
ただし、場所を移動する際にその私物を壊してしまった場合、私物の所有者からオーナー側の責任を問われてしまう可能性があるので注意が必要です。
もし私物のサイズが大きい場合や、壊れやすい物である場合には、所有者が自発的に撤去するように促すほうが無難でしょう。
また、所有者がいつでも私物を引き取れるように、引き取り方法について周知することも必要になります。
(3) 撤去した私物を処分する際は注意が必要
オーナーが撤去した私物については、いつまでも保管しておくわけにはいきませんので、どこかのタイミングで処分する必要があります。
しかし、いくら共用部分に放置されているとはいえ、他人の所有物を勝手に処分する行為は違法であり、所有者から損害賠償(民法709条)を請求される事態を引き起こしかねません。
そこでポイントとなるのが、「所有権の放棄」という考え方です。
放置された私物の所有権が放棄された場合には、オーナーがその私物を処分することについて制約がなくなります。
また、実際に所有権が放棄されていないとしても、オーナー側で所有権が放棄されたと判断するのが合理的な状況が存在すれば、私物の処分に関してオーナー側の違法性が認められず、不法行為責任(民法709条)を免れることができるのです。
たとえば、十分な期間を設けたうえで引き取りを促し、その期間に引き取りの申出がなければ、所有権が放棄されたものとみなして処分する旨のアナウンスを行うことが考えられます。
そうすれば、もし引き取り期間の経過後に、所有者が私物の処分について異議を申し立てたとしても、オーナーの私物処分に関する責任が否定される可能性が高いでしょう。
2.共用部分に私物が放置されていた場合の対処手順
上記の法的な整理を踏まえると、マンションの共用部分に私物が放置されていた場合、オーナーは以下の手順で対処するのがよいでしょう。
(1) 張り紙等で警告する
所有者が任意に私物を撤去してくれれば、もっとも穏便な形でトラブルを解決できます。
そのため、まずは一定の期間を設けたうえで、私物を撤去するように警告する張り紙等を行いましょう。
期間の目安はケースバイケースですが、基本的には1週間程度確保すれば十分です。
張り紙には、期間内に撤去しない場合はオーナー側で撤去する旨を併記しておくと、その後の対応をスムーズに進められます。
なお、大型の家電・家具が放置されているなど、オーナー側で撤去した私物を保管しておくことが難しい場合には、業者に撤去・処分を一括で依頼することも考えられます。
その場合は、張り紙の段階で警告期間を長めに設定し(2週間~4週間程度)、期間が経過した後、すぐに処分に移行できる態勢を整えておきましょう。
(2) 私物を撤去し引き取り方法をアナウンス
張り紙などを行っても所有者が私物を任意に撤去しない場合には、オーナー側で撤去して保管しておきましょう。
その際、私物が放置してあった場所に、引き取り方法および引き取り期間に関するアナウンスを掲示しておくのを忘れてはいけません。
引き取り期間については、後の処分を正当化するため、ある程度長めの期間を確保しておくことをお勧めいたします(2週間~4週間程度)。
(3) 処分したうえで処分費用を請求する
私物所有者に向けてアナウンスした撤去・引き取り期間が経過した場合、オーナー主導でその私物を処分しましょう。
なお、粗大ごみや家電リサイクル法の対象家電などについては、処分に当たって費用が発生します。
この費用は私物所有者に対して請求できますが、督促にかかる時間的コストなども総合的に考慮したうえで、対応を決定してください。
【賃貸借契約を解除できる?】
管理規約違反に当たる共用部分での私物放置は、同時に賃貸借契約違反にも該当し、オーナーの側から契約を解除できる可能性があります。
賃貸借契約の解除が認められるかどうかは、「賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊された」と言えるかどうかによって判断されます。
たとえば、傘などの撤去が容易なものを共用部分に放置した程度では、賃貸借契約の解除が認められることはないでしょう。これに対して、粗大ごみなどを共用部分に再三にわたって放置しており、そのたびに注意しても一向に直らないというような場合には、信頼関係の破壊による賃貸借契約の解除が認められる可能性があります。
私物の放置を理由に賃貸借契約を解除できるかどうかは、法律上の専門的な検討が必要となりますので、弁護士にご相談ください。
3.共用部分における私物の放置を予防するための対策
共用部分に放置された私物への対応には、オーナーにとってもコストがかかるため、可能であれば未然に防止したいところです。
共用部分における私物の放置を予防するための対策としては、以下のものが考えられます。
いずれも日々の地道な取り組みの範疇ですが、入居者に対して一定の意識付けをする効果は期待できるでしょう。
(1) 私物放置禁止の掲示を行う
もっとも基本的な対策として、マンションの掲示板などに私物放置禁止の掲示を行うことが挙げられます。
<私物放置禁止の掲示の文例>
マンションの共用部分(廊下など)に私物(傘・粗大ごみなど)を放置している方がいらっしゃいます。
共用部分に私物を放置する行為は、管理規約第〇条で禁止されています。
今後共用部分に放置された私物を発見した際には、賃貸人または管理会社が撤去・処分する場合があります。
現在共用部分に置かれている私物については、〇月〇日までに速やかに撤去するようお願い申し上げます。
上記の文例のように、「なぜ私物を放置してはいけないのか」「私物を放置するとどうなるのか」「いつまでに私物を撤去すべきなのか」といった点を、掲示の中で明確に記載しましょう。
(2) 私物放置禁止の案内書を投函する
掲示をするだけでは、入居者全員にアナウンスが届かない場合があります。
そのため、各居室のメールボックスに、私物放置禁止の掲示と同内容の案内書を投函するのも有力な方法です。
(3) 私物の処分事例についてアナウンスする
実際に共用部分に放置された私物を処分した場合、その経緯を入居者に向けてアナウンスすることも、今後の私物放置に対する抑止力になり得ます。
<私物の処分事例に関するアナウンス文例>
〇年〇月〇日、△△に放置されていた□□(以下「本件私物」)を、管理会社によって撤去いたしました。
管理会社が本件私物を発見した〇年×月×日以降、4週間の期間を設けて所有者に撤去を促しましたが、期間中に撤去が行われなかったため、管理会社にて処分したものです。
共用部分に私物を放置する行為は、管理規約第〇条で禁止されています。
今後共用部分に放置された私物を発見した際には、賃貸人または管理会社が撤去・処分する場合がありますので、入居者の皆様におかれましては適切な対応をお願い申し上げます。
単に「私物の放置は禁止されている」というメッセージを伝えるだけでなく、「放置された私物を実際に処分した」という事例を公表することで、他の入居者にとっても「明日は我が身」となり、私物の放置が減少する可能性があります。
(4) 定期的な見回り
オーナーが定期的に見回りして、もし共用部分に私物が放置されていたら、その場で入居者に私物を撤去するよう注意します。
速やかな私物の撤去も可能となりますし、他の入居者にとっても「厳しいオーナーだ」という印象を与え、私物の放置が減少する可能性がありますので、一石二鳥です。
4.まとめ
共用部分に放置された私物への対応は、オーナーとしても非常に悩ましいところです。
最終的にはオーナー側で処分すべき場合もありますが、その場合にはきちんとした手続きを踏んで、私物の所有者から法的責任を問われないように注意しましょう。