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入居者トラブル

ペット不可のアパートでペットを飼っている入居者は強制退去?

ペットを飼う方の増加につれ、ペット可の物件も増えているようですが、まだまだ足りないのが現状です。ペット不可のアパートやマンションでペットを飼育する入居者もまだまだいるようです。

では、ペット禁止のアパートでペットの飼育を発見したら、入居者に直ぐに退去するよう要求したり、これに応じないときに、強制退去させたりすることはできるのでしょうか。

今回は、この問題について考えてみます。

1.ペットを飼育している入居者の契約解除は可能?

(1) ペット禁止の契約は有効

まず、賃貸借契約におけるペット飼育禁止の特約は基本的に有効です。ペットによる壁や床の損傷や、糞尿による匂いや鳴き声で、他の入居者・近隣居住者に対して迷惑がかかる懸念もあり、合理的な理由が認められるからです。

賃貸物件の事例ではありませんが、分譲マンションのペット禁止管理規約を有効とする裁判例は複数存在します。

例えば、マンションの管理組合が原告となり、ペットの飼育禁止を定めた管理規約に違反し犬を飼育した区分所有者を被告として飼育の禁止などを求めた事案で、ペット飼育禁止規約の有効性を認めた裁判例(※1)があり、これは最高裁(※2)にも支持されています。

※1:東京地裁平成6月3月31日判決(判例時報1519号101頁)
※2:最高裁平成10年3月26日判決(日本不動産学会誌第13巻1号49頁「論説マンション・ペット事件」現東海大学准教授塩原真理子)

(2) 契約解除には賃貸人との信頼の破壊が必要

賃貸借契約書にペット禁止の特約があり、それに違反して入居者がペットを飼っていれば、明らかな契約違反です。

ただし、賃貸借契約を解除するにはそれだけでは足りず、違反の程度や態様、経緯などによって、「信頼関係」が破壊されたと認められることが必要です。

アパートなどの賃貸借契約は入居者の生活の基盤となっているため、軽微な契約違反で退去を余儀なくされることのないよう、借主を保護する社会政策的な要請があります。

他方、賃貸借契約は、売買契約のような一回限りの関係ではなく、長期間継続するもので、貸主と借主の相互信頼関係を基礎としているため、借主の行為によって信頼関係が破壊された場合には、貸主の利益のために解除を認めるべきとするのが判例法理なのです(※最高裁昭和27年4月25日判決など多数)。

契約に違反してペットを飼育していても、それが直ちに信頼関係を破壊したと評価できるか否かは、微妙な問題です。

そこで、まずは、入居者にペット飼育をやめるよう申し入れましょう。入居者と話し合って、ペットを他に譲渡や処分するのに必要な短期の猶予期間(準備期間)を取り決めることも良いでしょう。

ただし、猶予期間はせいぜい1ヶ月程度の短期とすること、期限までに飼育をやめることを合意した旨の合意書を必ず作成しましょう。口頭だけの合意では、後述のように貸主がペット飼育を黙認したと評価されてしまう危険があるからです。

2.状態が改善されなければ賃貸借契約解除を検討

入居者がペット飼育をやめることを約束してくれない場合や、猶予期間経過後も飼育をやめない場合には、アパートのオーナーと入居者の信頼関係が破壊されたとして、契約解除を検討せざるを得ません。

契約を解除するには、原則として、入居者に対して相当な期間を定めて、その期間内にペットを飼うことを止めなければ契約を解除する旨を書面で通知します。
これは解除前の「催告」といい、契約解除の前に、契約違反状態を是正する最後のチャンスを与えるものです(民法541条)。

ただし、これまで何度もペット飼育をやめるよう申し入れをしてきた事実があるときや、前述した猶予期間の合意をしたにも関わらずこれを守らない場合には、もはや催告でチャンスを与える理由はありませんから、ただちに解除する旨の通知を行って構いません。

3.賃借人が応じなければ強制退去も視野に

それでも退去に応じない場合は、強制退去も視野に入れなければならなくなってきます。

(1) 裁判所へ明渡請求の訴訟提起

強制退去には、まず、アパートのオーナーを原告、ペットを飼っている入居者を被告として、建物の明渡請求の訴訟を裁判所に対して起こします。

なお、裁判の途中であっても判決が出るまでは、裁判官が話合いの仲介を行なって、入居者と「裁判上の和解」をすることができます。

和解は話合いですから、当時者が合意すればどのような内容でも良いのですが、①入居者がペットの飼育を諦めることで賃貸借契約を継続するという和解や、②ペットの飼育をやめない場合は退去するなどという和解には絶対に応じてはなりません。

このような和解内容では、入居者が飼育をやめていないのに飼育をやめたと主張して「請求異議の訴え」(民事執行法35条)という不服申立によって、強制執行の有効性を争う余地を残してしまうからです。

紛争の解決にならないので、和解を仲介する裁判官も、通常はこのような和解は薦めません。

裁判上の和解をするなら、契約を守れない相手との賃貸借契約が継続する余地を絶対に残してはいけません

したがって、入居者が○年○月○日までにアパートの部屋を明渡す義務があることを和解条項に明記します。
貸主の譲歩としては、「明渡期限までの家賃の一部を免除して、引越費用に充てられるようにしてあげる」などの工夫で、入居者が和解しやすいように水を向けることが有効です。

裁判上の和解が成立すれば、和解調書が作成され、確定判決と同一の効力(後述の「債務名義」)を持ち、入居者が退去期限を守らない場合、強制執行が可能となります。

和解が成立しない場合は、判決が下されることになります。

(2) 強制執行

裁判で明渡しを命ずる判決が確定すると、判決文が債務名義(※1)となり、これに執行文(※2)が付与されることで強制執行が可能になり、裁判所の執行官が入居者を強制退去させることができるようになります。

※1:債務名義とは、裁判所等の公的機関が、強制執行の対象となる権利の存在と範囲を確定して記載した法定の文書です(民事執行法22条)。
※2:執行文とは、例えば確定した判決を債務名義とする場合に、その事件の記録がある裁判所書記官が、その債務名義が有効で、判決文に示された条件や期限などを満たしており、執行するに適していることを公証して、債務名義の正本の末尾に記載する文言です(民事執行法26条)。

執行官は、勝訴したオーナーからの申立てにより、判決で建物明渡しを命じられた入居者が建物を明渡さない場合に、その入居者を建物から排除したうえでアパートオーナーに引き渡します(民事執行法168条1項)。

強制執行の申立後には、速やかに執行官と打ち合わせを行い、申立の日から2週間以内の範囲で「明渡しの催告」の日を決めます(民事執行規則154条の3)。

また、事前にオーナー側で依頼した執行補助者(実際に荷物を搬出・保管・買い受けをする専門業者。俗に「執行屋さん」「立会屋さん」とも呼ばれ、強制執行に不可欠の存在です)を執行官に伝えておきます。

オーナー側で執行屋さんを依頼できない場合は、業者の選定を執行官にお任せすることも可能です。

4.ペット不可物件でのトラブルにおける注意点

(1) 賃貸人の実力行使は認められない

入居者が言うことを聞かない、状況が改善しないからといって、間違っても賃貸人であるアパートのオーナーが勝手に鍵を変えてしまったり、部屋に入って家財道具を持ち出して処分したりしてはいけません。

部屋へ立ち入ることは住居侵入罪、家財道具を持ち出すことは窃盗罪、器物損壊罪といった刑法上の罪に問われます。

(2) 明渡請求が認められないケースもある

もし、アパートのオーナーなどが、入居者がペットを飼っているのを知った段階でペットの飼育を止めるように促さなかった場合は、裁判所から黙示の承認とみなされて、契約解除が認められなくなってしまう可能性があります。

アパートでペットを見かけたら、写真や動画を取って飼い主を確認するなど、早急に対処すべきです。

(3) ペットの飼育による部屋の原状回復費用請求も可能

賃貸人は、部屋の汚れや匂い、フローリングの傷といったペットによる破損・汚損を、次の賃借人に貸すために修繕しなければなりません。

ペット禁止特約があるアパートでは、賃貸人は、通常、これらのペットによる破損や汚損を原状回復として請求することができます。

賃貸物件では、壁の黒ずみやクロスの変色といった経年変化や通常損耗についての補修費用は、賃貸人が負担することが原則ですが(民法621条)、契約に違反して飼育したペットによって生じた破損・汚損は経年変化や通常損耗に含まれないからです。

[参考記事] 退去時の原状回復義務とは?

5.まとめ

賃貸物件の入居者がペット禁止条項違反などの契約違反を犯した場合は、それが常態化しないうちに対処する必要があります。

そのような入居者を放置すれば、それが既成事実化して黙認したと評価されたり、他の入居者もこれに習って違反行為が蔓延したり、これに不満を持った入居者が退去してしまったりして、最終的に物件の収益力を低下させてしまう危険があります。

入居者の契約違反への対応は、最終的にスムーズに強制執行で退去させることができるよう慎重に手続を進める必要があり、専門家の知識が必要です。
また、明渡執行の現場では、入居者側が暴力で反撃するなど修羅場となるケースもあり、法律知識だけなく場数を踏んだ経験も不可欠です。

泉総合法律事務所では、不動産関連のトラブルについても知識が豊富です。賃借人とのトラブルでお悩みであれば、是非一度泉総合法律事務所にご連絡ください。

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