使用貸借は相続の対象になる?借主死亡時・貸主死亡時の相続ルール
「被相続人が使用していた物件を相続できると思ったら、実は他人から無償で借りていただけだった」
「被相続人が所有している物件が、他人に無償で貸し出されていた」
このようなケースでは「使用貸借」の相続が問題になります。
使用貸借には、借主死亡・貸主死亡のそれぞれのケースについて、民法でルールが定められています。
今回は、使用貸借に関する相続のルールを詳しく解説します。
1.使用貸借と賃貸借の違い
使用貸借と賃貸借は、いずれも「物の貸し借り」である点で共通しています。
しかし、使用貸借は賃料が無償、賃貸借は賃料が有償であるという違いがあります。
上記の違いに伴い、使用貸借に基づく「使用借権」は、以下の各点において、賃貸借に基づく「賃借権」よりも弱い権利として位置づけられています。
- 使用借権は対抗要件を備えられない(賃借権は対抗要件を備えられる)
- 使用貸借は契約終了が比較的緩やかに認められる(賃貸借は借地借家法で契約終了が厳しく制限されている)
- 使用貸借の必要費は借主が負担する(賃貸借の必要費は貸主が負担する)
2.借主が死亡した場合における使用貸借
(1) 原則として借主死亡により使用貸借は終了
使用貸借は、借主の死亡によって終了するのが原則とされています(民法597条3項)。
したがって、使用借権は借主の死亡後に残存しないため、相続の対象にならないのが原則です。
(2) 例外的に使用貸借が存続するケース
ただし、例外的に以下の場合については、借主死亡によって使用貸借が終了せず、使用借権が相続の対象になります。
①使用貸借契約で契約を存続させる旨の特約が定められている場合
民法597条3項は任意規定であり、特約により排除することが認められます。
したがって、使用貸借契約の中で、借主死亡後も使用貸借が存続する旨の特約を定めておけば、特約に従って使用貸借は存続し、使用借権が相続の対象となります。
②使用貸借の存続について黙示の合意が認められる場合
使用貸借契約の中で明示的に特約が定められていなくても、貸主・借主の間で、借主死亡後も使用貸借を存続させる旨の黙示の合意が認められる場合には、使用貸借は存続し、使用借権が相続の対象となります。
3.貸主が死亡した場合における使用貸借
使用貸借の貸主が死亡した場合には、借主死亡の場合とは原則と例外が逆転します。
(1) 原則として貸主が死亡しても使用貸借は存続
民法上、貸主が死亡しても原則として使用貸借は存続し、使用貸借の貸主たる地位が相続の対象になります。
借主の死亡とは異なり、貸主の死亡使用貸借の終了事由とはされておらず、貸主が死亡しても使用貸借は生き続けるのです。
(2) 特約がある場合には例外的に使用貸借は終了
ただし、使用貸借契約において、個別に貸主の死亡を契約終了事由と定めることはできます。
使用貸借は、貸主・借主間の人的な信頼関に基づいて行われるのが一般的なので、貸主の死亡を契約終了事由と定めるのはよくあることです。
使用貸借契約の中で、貸主死亡によって使用貸借が終了する旨を定めた場合、使用貸借の貸主たる地位は相続の対象から外れます。
4.貸主の相続人が承継した使用貸借を終了できるケース
使用貸借の貸主が死亡したケースでは、貸主たる地位を承継した相続人にとっては、物件の活用に当たって制約を負うことになってしまいます。
しかし、以下のいずれかに該当する場合には、貸主たる地位を承継した相続人が使用貸借を終了させることができます。
もし相続人が使用貸借を終了させたい場合には、契約終了の要件に当てはまる事情がないかを確認してみましょう。
(1) 契約上の終了事由・解除事由が存在する場合
使用貸借契約で定められている終了事由が存在すれば、使用貸借は終了します。
また、契約上の解除事由が存在すれば、貸主たる地位を承継した相続人は、使用貸借契約を解除できます。
典型的な解除事由としては、借主による用法違反などが考えられます。
使用貸借契約書の解除条項を一つずつチェックして、該当する事情がないかを確認しましょう。
(2) 民法上の終了事由・解除事由に該当する場合
民法では、使用貸借の終了事由または解除事由として、以下の4つが規定されています。
①使用貸借の期間が満了したとき(民法597条1項)
使用貸借の期間が満了した場合、使用貸借は当然に終了します。
更新も可能ですが、貸主に更新に応じる義務はありません。
②使用貸借に期間の定めがなく、使用収益の目的の定めがある場合で、借主が目的に従い使用収益を終えたとき(民法597条2項)
借主が使用貸借の目的を果たした場合には、もはや使用貸借を存続させておく実益がないため、使用貸借は終了すると定められています。
③使用貸借に期間の定めがなく、使用収益の目的の定めがある場合で、借主が目的に従い使用収益をするのに足りる期間を経過したとき(民法598条1項)
借主が使用貸借の目的を果たせないからといって、期間無制限に使用貸借を存続させておくのは、貸主にとって酷です。
そのため、借主が使用貸借の目的を果たす合理的な期間が経過した段階で、使用貸借は終了することが定められています。
④使用貸借に期間・使用収益の目的の定めがないとき(民法598条2項)
使用貸借により、貸主が借主に物件を無償で使用することを許すのは、貸主の善意による場合が多数です。
つまり、使用貸借はある種、貸主の借主に対する「恩恵」のような側面を多分に有しています。
そのため、使用貸借に期間・目的の定めがいずれもない場合には、貸主の一存でいつでも使用貸借を解除できるとされています。
上記の民法上の終了事由・解除事由は、使用貸借契約で反対の定めがない限り、すべての使用貸借について適用可能です。
使用貸借契約上の期間・目的を確認したうえで、適用可能な民法上の規定がないかを検討しましょう。
(3) 借主と使用貸借の終了を合意した場合
契約上または民法上の契約終了事由・契約解除事由が存在しない場合でも、借主と使用貸借の終了について合意すれば、使用貸借を終了させることができます。
借主の納得が得られるように話し合いを尽くすとともに、必要に応じて立退料を提案するなど、借主にとってのメリットを提示することができれば、使用貸借の終了に応じてもらえる可能性が高まるでしょう。
5.まとめ
使用貸借の相続については、貸主死亡の場合と借主死亡の場合で、民法上の取り扱いが大きく異なります。
また、実際に使用貸借が相続の対象となるかどうかを判断するには、民法の規定だけでなく、使用貸借契約上の規定も併せて考慮しなければなりません。
使用貸借の相続に関して、法律・契約の各ルールについてわからない部分がある場合には、弁護士にご相談ください。