賃貸借と使用貸借の違い
賃貸物件を借りる際は「賃貸借契約」を締結します。
民法には賃貸借についての規定がありますが、これとよく似たものに「使用貸借」というものがあります。
使用貸借という言葉は耳慣れないかもしれませんが、不動産を「賃貸借」ではなく「使用貸借」しているケースは意外と多いです。
言葉が似ているため違いがわかりづらい賃貸借と使用貸借ですが、それぞれどういった意味なのでしょうか?
本記事で詳しく紹介していきます。
1.賃貸借と使用貸借の定義の違い
それぞれの違いは単純です。賃料を払って借りると賃貸借になり、無料で借りれば使用貸借となります。
借りたものが不動産か動産かに関係なく、「賃料」が判断基準です。
以下でいくつか分かりやすい例を挙げてみましょう。
【賃貸借の例】
・賃貸アパート、賃貸マンション
・レンタルビデオ
・レンタカー【使用貸借の例】
・友人から無料で傘などを借りる
・親や友人の車や自転車を無料で使わせてもらう
使用貸借は、当事者間の信頼関係が前提となっている場合が多いです。
そのため契約書などを特に作ることもなく、使用貸借は口約束で日常的に行われています。
そうは言っても契約であることに変わりはないので、返還義務がありますし、後で述べるような原状回復義務なども存在します。
なお、お金や食べ物のように「消費したら手元からなくなってしまい、全く同じものを返せないもの」の貸し借りは「消費貸借」と言います。お金の貸し借りは使用貸借ではありません。
2.不動産における賃貸借・使用貸借の法律的効果の違い
「建物や土地などの不動産って無料で借りられるの?」と思うかもしれませんが、親族などの土地を無料で借りて、その上に建物を作るケースは意外と多いです。
ここからは、「不動産」の賃貸借・使用貸借について、それぞれが持つ効果や効力の違いを見ていきましょう。
なお、前提として、使用貸借は「無料で物を借りている」という性質上、賃貸借よりも借主の立場が弱い傾向があります。
(1) 契約の解除について
不動産の賃貸借の場合、借主はいつでも契約を解除できます。
しかし、貸主から賃貸借契約を解除するには相当の事由が必要です。
一方、不動産の使用貸借では以下の場合に契約解除となります。
- 期間の定めがある場合は、それに従う
- 期間を定めなかった場合、借主が借りた目的に従って使用収益をするのに足りる期間を経過すれば、貸主は契約の解除ができる
- 期間や使用収益する期間を定めなかった場合、貸主はいつでも契約を解除できる
- 借主はいつでも契約を解除できる
ただし、借主の好きなタイミングで使用貸借契約の解除ができてしまうと、貸主が適切に対応することができずに困るケースも想定されます。
その場合は特約で「契約解除前◯日前に予告すること」などと定めれば、トラブルを防止することができます。
(2) 借主・貸主が死亡した場合
賃貸借の場合は、借主が亡くなっても相続人が借主の立場を相続するため、賃貸借契約は継続します。
例えば夫が亡くなっても、妻が借主の立場を相続すれば、妻は同じ借家に住み続けることができます。
しかし使用貸借の場合は、原則的に借主の死亡で使用貸借契約が終了します。
例外として、特約があるか、貸した物を借主の相続人が継続的に使用することに対して貸主が異議を言わない場合などは、使用貸借契約が継続します。
貸主が亡くなった場合、賃貸借でも使用貸借でも契約は継続します。
貸主の地位は相続人に承継されるからです。
(3) 原状回復義務
賃貸借の場合、借主は原状回復義務を負います。
しかし、経年劣化や通常の利用による損耗に関する部分は原状回復義務の範囲に含まれていません(そういった部分は賃料に織り込んであります)。
使用貸借の場合も原状回復義務はありますが、その範囲は賃貸借と少し異なっており、以下のように定められています。
- 借主が目的物を受け取った後に生じた損傷は借主の原状回復の対象
- ただし借主に責任のない事由による損傷は原状回復義務の範囲外
使用貸借の場合、通常の使用による損耗や経年劣化については、法文上明確化されていません。
そのため「使用貸借は無料で貸し出す契約のため、貸主が経年劣化も考慮したうえ無償で貸し出している」という考え方と、「借主は経年劣化分等まで原状回復すべきという考え方」があります。
結局は当事者同士がケースバイケースで判断することになりますが、どうしても原状回復の必要がある場合などは、原状回復義務の範囲について前もって書面化しておくなどの対応が必要です。
(4) 対抗要件
対抗要件とは、借りている物件が貸主から第三者に売却や譲渡された場合などに、その物件を継続して借り続けるための要件です。
この要件を備えていれば、第三者から立ち退きを命じられても拒否することができます。
賃貸借の場合は以下のようになっています。
- 借地の場合、借地上の建物の登記がある
- 借家の場合、賃借権の登記があるか、借家の引渡しを受けている
これに対して、使用貸借には第三者に対抗するための要件がありません。
そのため物件の貸主が第三者に物件を売却・譲渡した場合、借主は物件を明け渡すことになります。
ただし、売買に異常性があるなど特段の事情が認められた場合には、土地を譲り受けた人から借主への明け渡し請求が権利の濫用に当たるとされて、請求が退けられる可能性もあります(参考:東京高裁平成30年5月23日判決)。
【賃貸借と使用貸借の相違一覧表】
賃貸借 | 使用貸借 | |
---|---|---|
契約の解除・解約 | (民法の原則) ・期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる ・期間の定めがある場合はそれに従う。ただし、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、いつでも解約の申入れをすることができる (借家の場合) ・貸主が解約するには正当の事由が必要 |
・期間の定めがある場合はそれに従う ・期間を定めがない場合、借主が目的に沿って使用収益をするのに足りる期間を経過すれば、貸主は契約の解除が可能 ・期間や使用収益する期間を定めない場合、貸主はいつでも契約を解除可能 ・借主はいつでも契約を解除可能 |
借主の死亡 | 契約は継続する | 契約は解除される |
貸主の死亡 | 契約は継続する | |
借主の原状回復義務 | 経年劣化や通常の利用による損耗については義務を負わない | 経年劣化や通常の利用による損耗についての定めがない |
対抗要件 | ・借地の場合:借地上の建物の登記 ・借家の場合:借家の引渡し、または賃借権の登記 |
なし |
3.借地上に建物を建てたときの使用貸借と賃貸借
「建物を建てるお金はあるけれど土地を買うほどのお金がない」場合などに、土地を借りてその上に建物を建てることがあります。
その際に土地を賃貸借したか使用貸借したかによって、様々な違いが生じます。
意外とよくあるケースなので、詳しく見ていきましょう。
(1) 土地を「賃貸借」して建物を建てる場合
賃貸借契約の内容にもよりますが、普通借地権の場合は、借主が希望する限り契約が自動更新されます。
(2) 土地を「使用貸借」して建物を建てる場合
既に述べたように、使用貸借契約は借主の死亡で終了することになっています。
しかし、建物を所有する目的で使用貸借した場合、「借主が死亡しても使用貸借契約は終了しない」という例外が認められることがあります。
裁判所の判例(東京地裁平成5年9月14日)に以下のものがあります(要約)。
「特段の事情がない限り、建物所有の用途にしたがってその使用を終えたときに、その返還の時期が到来するものと解するのが相当であるから、借主が死亡したとしても、土地に関する使用貸借契約が当然に終了するということにはならないというべきである」
最終的にはケースごとに判断されますが、場合によっては「借主の死亡後でも使用貸借契約が存続する」可能性もあると覚えておきましょう。
(3) 親の土地を使用貸借する場合は注意!
子が親の土地を無料で借り、その土地に建物を建てることがあります。この場合は以下の点に注意が必要です。
贈与税について
子が親の土地に自分の建物を建てるということは、見ようによっては親が子に借地権という財産を贈与したとも言えます。
しかし、使用貸借には借地権のように強力な権利がありません。したがって贈与には当たらず、贈与税も発生しません。
反対に、地代を払ってしまうと賃貸借となります。この場合は贈与税の課税対象になり得ます。
贈与税の課税を避けるために、「借地権の使用貸借に関する確認書」を、借主の住所地を管轄する税務署へ提出しておくといいでしょう。
相続税について
親が亡くなって相続が発生した場合、土地を賃貸借しているか使用貸借しているかで相続税の課税額が変わります。
賃料が必要な貸宅地として他人に貸している土地は、相続税の評価の際に一定の減額を受けられます。
しかし使用貸借している土地は貸宅地でなく「更地」として評価されるため、借地権を設定した土地のような減税は受けられません。
これは借地上の建物が自宅でなく、アパートや借家のような賃貸物件の場合も同様です。
「土地の上に賃貸物件があるから貸宅地だ!」と主張しても認められません。
4.使用貸借と賃貸借の法的な違いは多い
使用貸借と賃貸借を分けるのは「賃料の有無」のみです。
非常にシンプルな違いではありますが、使用貸借と賃貸借には法律上の違いが数多く存在し、知らないと損をすることがあるかもしれません。
特に不動産の場合、使用貸借には対抗要件がないなど、借主に不利な部分があります。
場合によっては税金の扱いが変わることもあるため、不動産の貸し借りをする際は、たとえ親子同士であっても、賃貸借にするか使用貸借にするかを含めた総合的な判断が必要です。