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占有移転禁止の仮処分とは?効果・活用場面・申立ての流れ・費用

賃借人に対して不動産の明渡請求訴訟を提起する際、訴訟の複雑化を防ぐため、事前に「占有移転禁止の仮処分」を申し立てるケースがあります。

悪質な賃貸人との間でのトラブルを防ぐためにも、早めに弁護士にご相談のうえ、占有移転禁止の仮処分を含めた必要な事前対応をとりましょう。

この記事では、占有移転禁止の仮処分について、効果・活用場面・申立ての流れ・費用などの幅広い観点から解説します。

1.占有移転禁止の仮処分とは?

占有移転禁止の仮処分」とは、動産の引渡しや不動産の明渡しなどが問題となる訴訟(本案訴訟)の前段階で、債務者(被告)に対して、第三者へ係争物の占有を移転することを禁ずる民事保全処分です。

本案訴訟で動産の引渡しや不動産の明渡しを命ずる判決が確定したとしても、その効力は原則として、当事者である原告・被告に対して生じるのみです。

この場合、係争物の占有が第三者に移転されてしまうと、その第三者に対しては、確定判決を根拠に係争物の引渡し・明渡しを求めることができません。

しかし、占有移転禁止の仮処分命令を得ている場合、係争物を占有した以下の第三者に対しても、確定判決を根拠として係争物の引渡し・明渡しを請求できるようになります(民事保全法62条1項)。

  • 占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたことを知って、係争物を占有した者
  • 占有移転禁止の仮処分命令の執行後に、その執行がされたことを知らないで、係争物について債務者の占有を承継した者

このように、占有移転禁止の仮処分命令には、動産引渡請求訴訟・不動産明渡請求訴訟における判決の効果範囲を実質的に拡大する効力があるのです。

2.不動産の明渡しに関する活用場面

不動産の明渡しを求める場合、占有移転禁止の仮処分がよく活用されます。

以下では、典型的な占有移転禁止の仮処分の活用例を見てみましょう。

(1) 相手方当事者が増えることを防ぐ

不動産の明渡請求を行う場合、賃借人が不動産の占有を第三者に移転する可能性があるときは、本案訴訟を提起する前に、できるだけ早めに占有移転禁止の仮処分を申し立てるのが実務上一般的となっています。

前述のとおり、訴訟の判決は原則として当事者に対してのみ効力を生じます。
したがって、もし第三者に不動産の占有が移転されてしまった場合、その第三者も当事者に含めて訴訟を提起しなければなりません。

しかし、占有者が誰であるかを特定するのは困難です。
また、当事者が増えればそれだけ論点も増えるので、訴訟が長期化することも予想されます。

そのため、できるだけ早く占有移転禁止の仮処分命令を得て、本案訴訟の複雑化を防ぐことが大切なのです。

(2) 占有者を特定できない場合

賃借人に対する占有移転禁止の仮処分が間に合わず、素性の分からない第三者に不動産の占有が移転されてしまった場合にも、賃貸人は何もできないわけではありません。
このような場面でも、占有移転禁止の仮処分を活用する余地があります。

不動産を係争物とするケースにおいて、執行前に債務者を特定することを困難とする特別の事情がある場合、裁判所は、債務者を特定せずに占有移転禁止の仮処分命令を発することができます(民事保全法25条の2第1項)。

すなわち、占有者の素性がわからない場合でも、債務者不明の状態で占有移転禁止の仮処分を申し立てることができるのです。

もっとも、占有移転禁止の仮処分は暫定的な措置であり、占有者を確定的に立ち退かせるためには、占有者に対して明渡しを命ずる判決が確定する必要があります。

また、そもそも債務者を特定しない占有移転禁止の仮処分を執行するためには、執行時点までに債務者を特定しておくことが必須とされています(同法54条の2)。

そのため賃貸人としては、依然として、占有者の素性を特定する必要がある点に注意しなければなりません。

3.不動産の占有移転禁止の仮処分申立ての流れ

不動産の占有移転禁止の仮処分を申し立てる際の手続きの流れを大まかに解説します。

(1) 裁判所への仮処分申立て

不動産に係る占有移転禁止の仮処分は、管轄裁判所に対して以下の書類を提出して行います。

  • 申立書
  • 証拠書類(賃貸借契約書、賃料支払催告書、契約解除通知など)
  • 不動産登記簿謄本
  • 固定資産評価証明書
  • 法人登記簿謄本(当事者が法人の場合)
  • 委任状(弁護士による代理人申立ての場合)

管轄裁判所は、以下のいずれかの地を管轄する地方裁判所となります(民事保全法6条、12条、民事訴訟法4条、5条12号)。

  • 債務者の普通裁判籍の所在地(住所・居所・最後の住所)
  • 不動産の所在地

(2) 債権者面接

申立書類の補正等が完了した後、裁判官による債権者(保全命令の発令を求める人)の面接が実施されます。
債権者面接では、証拠書類の原本確認や、事実関係の確認などが行われます。

債権者面接を経て、裁判官が以下の要件がすべて疎明されたと判断した場合には、占有移転禁止の仮処分命令の発令が決定されます。

①不動産明渡請求権の存在(民事保全法13条2項)
②債権者が権利を実行できなくなるおそれがあること、または権利の実行に著しい困難を生じるおそれがあること(同法23条1項)

(3) 担保金の供託

占有移転禁止の仮処分命令の発令が決定される場合、同時に担保の金額が決定されます。

占有移転禁止の仮処分における「担保」とは、仮に本案訴訟で債権者が敗訴した場合に備えて、債務者側に生じる損害を補填するために、裁判所へあらかじめ預けておく金銭等をいいます。

担保金額は、物件の性質などにもよりますが、住宅であれば賃料の1~3か月分程度、営業用物件(店舗・オフィスなど)であれば賃料の3~6か月分程度になることが多いようです。

担保金(供託金)は、法務局または銀行に供託書を提出して納付します。

供託後、受領印付の供託書が返却されますので、それを地方裁判所の担当部署に提出すると、後日仮処分決定書を受け取れます。

(4) 保全執行の申立て

占有移転禁止の仮処分命令を得た場合、その後実際に仮処分の内容を執行することを裁判所に申し立てます。

保全執行の申立てに必要となる書類は以下のとおりです。

  • 仮処分執行申立書
  • 仮処分決定書の正本
  • 不動産登記簿謄本
  • 法人登記簿謄本(当事者が法人の場合)
  • 委任状(弁護士による代理人申立ての場合)
  • 債務者に関する調査票(在宅状況に関するメモ、物件の地図など)

(5) 保全執行

占有移転禁止の仮処分を執行する場合、執行官が債務者の目的物に対する占有を解いて保管します。
さらに執行官は、占有移転禁止の旨および執行官が目的物を保管している旨を公示します(民事保全法52条、民事執行法168条1項)。

実際の保全執行では、開錠業者を伴って執行官と債権者が物件の現場に臨場し、物件の屋内に公示書を貼り付ける方法がとられています。

保全執行が完了したら、裁判所に保全執行完了の上申書を提出します。
上申書の提出後、裁判所が債務者に対して仮処分決定書を発送します。

(6) 担保取消決定の申立て・供託金の取り戻し

債務者が物件から任意に立ち退いた場合や、本案訴訟で勝訴判決が確定した場合などには、債務者に損害が生じる可能性がなくなるため、供託金を取り戻せるようになります。

供託金を取り戻すには、保全裁判所に以下の書類を提出して、担保の取消しを申し立てます。

<任意の立ち退きの場合>
①担保取消申立書
②供託原因消滅証明申請書
③債務者から受け取る以下の書類
・債務者の供託金取り戻しに関する同意書
・印鑑証明書
・担保取消決定正本の受書
・即時抗告権放棄の上申書

<勝訴判決確定の場合>
①担保取消申立書
②供託原因消滅証明申請書
③確定判決の正本または謄本および写し
④判決確定証明書(裁判所が発行するもの)

裁判所から供託原因消滅証明書が発行されたら、法務局の供託所で供託金の還付を受けます。

これで占有移転禁止の仮処分に関する手続きは完了です。

4.占有移転禁止の仮処分申立てに必要な費用一覧

占有移転禁止の仮処分を行うために必要となる費用を、一覧形式で紹介します。

 

費目 金額 支払い時期
仮処分申立て費用 収入印紙:2000円
郵券:債務者1人当たり1100円程度
仮処分申立て時
供託金 個別に決定 仮処分決定の前
保全執行費用 予納金:3万円
開錠業者費用:業者による(1万円~2万円程度)
予納金は保全執行の申立て時、開錠業者費用は業者による
担保取消決定の申立て費用 収入印紙:150円
郵券:債務者1人当たり1100円程度
担保取消決定の申立て時
弁護士費用 弁護士と協議のうえ決定 着手金:依頼時
報酬金:保全執行完了時または本案の勝訴時。弁護士との協議による

開錠業者費用と弁護士費用以外は、保全手続きに関連して裁判所に納付する費用ですので、具体的な金額は裁判所に確認しましょう。

開錠業者費用は、事前に見積もりを取っておきましょう。

弁護士費用については、事案の内容に応じて、弁護士との協議によって決定します。
占有移転禁止の仮処分申立てについては、必ず本案の訴訟とセットでの依頼となりますので、弁護士費用も本案事件とトータルで見積もることになります。

事案の難易度・複雑性・物件の規模などにもよりますが、平均的には着手金30万円~50万円程度、報酬金も同程度となることが多いです。

このように占有移転禁止の仮処分申立てには、少なからず費用が発生する点がデメリットといえます。

しかし、賃借人から勝手に不動産の占有が移転され、訴訟や強制執行の手間が増えるおそれを考えると、費用をかけても占有移転禁止の仮処分を行っておく方が安心でしょう。

5.まとめ

占有移転禁止の仮処分を活用することで、不動産の明渡しに関する訴訟の複雑化を防ぐことができます。

占有移転禁止の仮処分を申し立てるには、民事保全法に沿った複雑なステップを踏む必要があります。
スムーズに手続きを進め、円滑に不動産の明渡しを実現したい方は、ぜひ泉総合法律事務所の弁護士へご相談ください。

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