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入居者トラブル

賃借人の子どもがアパート設備を破壊|親に損害賠償請求できる?

アパートの賃借人(入居者)に子どもがいる場合、遊んでいる最中にアパートの設備を壊してしまうことがあります。

「子どもの責任は親の責任でもある」という考え方は、社会では常識のようにも思われますが、法的には常に正しいとは限りません。
もし賃借人の子どもにアパートの設備の一部を壊されてしまった場合、誰に対して損害賠償請求を行うべきかをきちんと見極めましょう。

この記事では、賃借人の子どもがアパートの設備を破壊した場合において、親である賃借人に対して損害賠償を請求できるかどうかを中心に解説します。

1.賃借人がアパートの設備を壊した場合の法的処理

まずは、賃借人がアパートの設備を破壊した場合において、誰がいつ設備を修繕すべきなのかにつき、法律上のルールを確認しておきましょう。

(1) 賃貸人は修繕義務を負わない

賃借人がアパートの設備を壊した場合、賃貸人は修繕義務を負いません。

民法606条1項本文では、賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負うと定められています。
しかし、同項但し書きにおいて、賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要となった場合には、例外的に修繕義務を負わないとされています。

したがって、賃借人の故意または過失によってアパートの設備が破壊された場合、賃貸人は設備を修繕する義務を負わないのです。

(2) 賃借人による修繕の期限

賃貸人が修繕義務を負わないとすれば、賃借人が修繕費を負担するか、場合によっては賃借人自身が修繕を行う必要があります。

いつまでに修繕が行われるべきかについては、設備が居室内のものか、それとも共用部分のものかによって変わります。

居室内設備の場合|退去時までに原状回復

賃借人が居室内に存在する設備を壊した場合、その設備は賃借人だけが使用するものですので、修繕を行う緊急の必要性はありません。
法的にも、民法628条で賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負うとされていますので、居室内の設備については、賃借人が退去する際に、原状に復して返還すれば足ります。

したがって、居室内の設備を壊した賃借人は、退去時までに設備を修繕すればよいのです。

ただし、設備の修繕が賃貸物の保存のために必要であるケースにおいて、賃貸人が修繕を行う場合、賃借人はこれを拒むことができません(民法606条2項)。

なお、賃借人が実際に設備を修繕しようとする場合には、修繕を必要とする急迫の事情がない限り、賃貸人に対する事前通知が必要です(民法607条の2第1項、第2項)。

共用部分設備の場合|直ちに修繕費用を負担する義務

これに対して、賃借人が壊した設備が共用部分に存在する場合、その設備は全入居者の利益のために活用されるべきものです。
したがって、壊れた設備は直ちに修繕しなければなりません。

共用部分の修繕を行うのは、基本的に賃貸人です。
賃貸人は、損壊された共用部分の設備の修繕を行った後、修繕費を賃借人に対して請求できます。

なお、居室に付属しているように見えても、窓ガラスやバルコニーなどは共用部分として取り扱われるため、賃借人は直ちに修繕費用を負担する必要があります。

2.子どもと監督義務者の責任

上記のとおり、賃借人が故意または過失によって共用部分の設備を損壊した場合、賃貸人は賃借人に対して修繕費の支払いを請求できます。

それでは、賃借人自身ではなく、賃借人の子どもが共用部分の設備を損壊した場合、賃貸人は同様に賃借人に対して修繕費の支払いを請求できるのでしょうか。

(1) 未成年者の責任能力について

民法上は、未成年者であってもアパート設備の損壊について法的責任を負う場合があります。

民法712条では、未成年者の責任能力について以下のとおり定めています。

民法712条(責任能力)
第七百十二条 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

上記の規定を反対解釈すると、未成年者であっても、(他人に損害を与える)「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」を備えていれば、不法行為の被害者に対する損害賠償責任を負うことになります。

「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」を獲得する年齢の目安は、12歳前後と言われています。

ただし、これは厳密な基準ではなく、行為者である未成年者の判断能力などを個別に考慮したうえで、その責任能力の有無が認定されることに留意しましょう。

(2) 責任無能力者の監督義務者の責任

不法行為者である未成年者が責任能力を有しない場合、誰にも損害賠償を請求できないとすれば被害者にとって酷です。

そこで民法では、未成年者が責任無能力によって不法行為責任を負わない場合、法律上未成年者の監督義務を負う者に対して、被害者が損害賠償請求を行うことを認めています(民法714条1項本文)。

未成年者に対して法律上の監督義務を負うのは、通常は法定代理人である親権者、つまり親です。

したがって、責任無能力である未成年者の不法行為によって被害を受けた方は、未成年者の親に対して損害賠償を請求できる可能性があります。

ただし、監督義務者が監督義務を怠らなかった場合、または監督義務違反がなくとも損害が発生したと考えられる場合には、監督義務者の責任を追及することはできないので注意しましょう(同項但し書き)。

3.アパート設備を破壊した子どもへの損害賠償請求

(1) 子どもが責任能力を有する場合

上記をアパート設備が損壊されたケースに当てはめると、賃借人の子どもが民法上の責任能力を有する場合、設備を壊された被害者である賃貸人は、子どもに対して損害賠償を請求できます。

その一方で、親である賃借人自身に対しては、法的には損害賠償請求を行うことはできません。

未成年者には資力がないケースも多いところ、その場合でも、親である賃借人に対して、損害賠償を強制的に肩代わりさせることはできないのです。

実際には、親である賃借人が未成年者の代わりに損害賠償を行うことも多いですが、これはあくまでも「子どもの債務を、親が任意で代わりに支払っている」状態で、親に支払いを強制することはできないと理解しておきましょう。

(2) 子どもが責任無能力の場合

これに対して、子どもが責任無能力の場合、親である賃借人の監督義務違反に基づき共用部分の修繕費を請求することができます(民法714条1項本文)。

賃借人は、監督義務違反がないことなどを立証すれば、監督義務者としての責任を免れます(同項但し書き)。

しかし、賃借人の子どもが共用部分の設備を壊したケースでは、大抵の場合、賃借人の監督義務違反が認められるでしょう。

4.火災保険からは補償を受けられる?

賃借人やその子どもによって共用部分の設備が壊された場合、賃貸人は損害賠償を請求できます。

しかし、賃借人やその子どもが、修繕費を支払うことのできる資力を有しているとは限りません。
また、いつの間にか共用部分の設備が壊れており、誰に壊されたかわからないというケースも想定されます。

このような場合には、火災保険から保険金の支払いを受けられるかどうかを確認しましょう。
火災保険の保障内容によっては、共用部分の設備の損壊が補償対象に含まれる可能性があります。

なお、マンションやアパートの場合、居室(専有部分)と共用部分では、別個の火災保険に加入するのが一般的です。

そのため、共用部分の設備損傷がカバーされているかどうかは、共用部分に係る火災保険の約款などを確認してください。

5.まとめ

賃借人の子どもがアパート共用部分の設備を壊した場合、賃貸人は、子どもの責任能力があれば子どもに、責任能力がなければ親である賃借人に、それぞれ損害賠償を請求できます。

賃貸人が特に注意しなければならないのは、子どもに責任能力がある場合です。
子どもに損害賠償を請求できるとしても、子どもが損害賠償を行うのに十分な資力を有するケースは稀だからです。

親に対して肩代わりを依頼することも考えられますが、法律上の強制力はない点に留意しましょう。

もし加害者に資力がなく、損害賠償請求が空振りに終わってしまう場合や、誰が設備を壊したかわからない場合などには、火災保険からの保険金を受け取れないか確認してみましょう。

その他、賃貸物件に関するトラブルについてお困りの賃貸人の方は、一度弁護士までご相談ください。
賃貸人の方が置かれている具体的な状況に合わせて適切な対応を検討し、親身になってアドバイス・サポートいたします。

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