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賃貸物件の給湯器が故障|修理費用は賃貸人・賃借人のどちらが負担?

賃貸物件の給湯器が故障した場合、風呂やシャワーなどが使用できなくなってしまい、たいへん不便です。

住み続ける以上は修理が必要ですが、給湯器の修理費用は賃貸人・賃借人のどちらが負担するのでしょうか。

給湯器の修理費用の負担者は、民法の規定や契約条項によって定まります。
給湯器が故障してしまった場合は、事前に民法上・契約上の取り扱いを確認しておきましょう。

この記事では、賃貸物件の給湯器が故障した場合に、修理費用を誰が負担すべきかなどについて解説します。

1.賃貸人が負う修繕義務について

賃貸人は、賃貸物件の使用・収益に必要な修繕をする義務を負います(民法606条1項本文)。

通常の居住用賃貸物件であれば、給湯器は当然に備え付けられており、賃貸物件を使用・収益するに当たって不可欠な賃貸設備の一つといえるでしょう。
この場合、賃貸人は原則として、給湯器を修繕する義務を負います。

ただし、給湯器の故障が賃借人の責めに帰すべき事由によって発生した場合は、例外的に賃貸人は修繕義務を負いません(同項但し書き)。

また、賃貸物件に給湯器がそもそも付属されておらず、賃借人が自分で給湯器を設置した場合にも、やはり賃貸人は修繕義務を負うことはありません。

賃貸人の修繕義務については、以下の記事も併せてご参照ください。

[参考記事] 賃貸で大家が修理してくれない|勝手な修理・家賃相殺は可能?

2.給湯器の賃借人による修理は可能?

賃貸物件に付属している給湯器が故障した場合、原則として賃借人は、給湯器を勝手に修理してはいけません。賃借人の責めに帰すべき事由により壊してしまった場合も同様です。

賃借人が自分で給湯器を修理して良いのは、以下のいずれかの場合に限られます。

(1) 賃貸人に事前通知を行い相当期間が経過した

賃借人が給湯器を自分で修理するには、まず賃貸人に対して、修繕が必要である旨を通知しなければなりません(民法607条の2第1号。なお、給湯器が壊れていることを賃貸人が別のルートで知っている場合には、通知の必要はありません)。

そのうえで、賃貸人が給湯器の故障を知ってから相当の期間内に、賃貸人が給湯器を修理しない場合に、はじめて賃借人が自分で給湯器を修理することが認められます。

(2) 急迫の事情がある場合

また、賃貸人に対する事前通知をする余裕がないほど、給湯器を直ちに修理しなければならない急迫の事情がある場合には、事前通知なしで賃借人が給湯器を修理することができます(民法607条の2第2号)。

給湯器の故障を直ちに修理すべき「急迫の事情」があるかどうかは、ケースバイケースの判断となります。

たとえば、近隣に銭湯などがない状況で、夜間に給湯器が壊れてしまったなどの事情があれば、「急迫の事情」が認められ得るでしょう。

3.修理費用の負担

賃貸物件に付属している給湯器の修理費用を、賃貸人・賃借人のどちらが負担するかについては、前述の修繕義務に関する整理と基本的に対応しています。

(1) 賃借人に帰責性がない場合は賃貸人負担

給湯器の故障について、賃借人の帰責性がない場合、前述のとおり、賃貸人が給湯器の修繕義務を負います。

この場合、当然ながら給湯器の修理費用は、賃貸人負担となります。

(2) 賃借人に帰責性がある場合は賃借人負担

これに対して、給湯器の故障につき賃借人に帰責性が認められる場合には、賃貸人は給湯器の修繕義務を負いません。

反対に、賃借人が賃貸人の所有物(給湯器)を壊したことに伴う損害賠償責任を負うため、給湯器の修理費用は賃借人負担となります。

(3) 修理費用を一律賃借人負担とする特約

賃貸借契約の中には、賃貸物件の修理費用を、賃借人の帰責性の有無にかかわらず、一律賃借人負担とする内容の条項が規定されているケースが有ります。

この点、修繕費を原則賃貸人負担とする民法606条1項は、契約上の規定(特約)によって排除可能な「任意規定」と解されています。
したがって、賃貸物件の修理費用を一律賃借人負担とする契約上の特約は有効です。

ただし、修理費用を賃借人負担とするのみならず、賃借人に修繕義務まで負わせる内容の特約については、内容によって無効と判断されるおそれがあるので注意が必要です。

国土交通省のガイドラインに従うと、賃借人に一般的な修繕義務を負わせる内容の特約は、以下の3つの要件を満たす必要があることが指摘されています。

①特約の必要性と客観的・合理的理由があること

消費者契約法の規定に鑑み、賃借人にとって一方的に不利な形で修繕義務を負わせる内容の特約は無効と解されます。

たとえば、賃借人に修繕義務を課す代わりに、周辺相場に比較してかなり安価な賃料を設定するなど、賃借人から見た負担と利益が釣り合っていることが求められます。

②賃借人が特約の存在・内容を認識していること

契約書の明確な記載、または賃貸人の賃借人に対する明快な口頭説明などにより、賃借人が特約の存在・内容を明確に認識していなければなりません。

③賃借人が特約による義務を負担する意思表示をしていること

賃借人の不意打ち防止の観点から、賃借人が特約によって修繕義務を特に負担するという明示的な意思表示が要求されます。

【参考】原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版、平成23年8月)|国土交通省住宅局

4.賃貸人が給湯器の修理費用を支払わない場合

賃借人から給湯器の修理費用を請求された際、賃貸人がそれに応じない場合には、賃借人が以下の手段を講じてくる可能性があります。

賃貸人が修理費用の請求を受けた場合、自らに給湯器の修理費用を負担する義務があるのかどうかを、法的な観点から慎重に検討して対応するため、必要に応じて弁護士にご相談ください。

(1) 内容証明郵便で支払いを請求される

賃借人が、修理費用を請求する「内容証明郵便」を送付してきた場合、その内容とともに、差出人の名義を確認しましょう。

もし弁護士や司法書士の名義で内容証明郵便が送付されている場合、賃借人の修理費用回収に向けた本気度が窺えます。

賃借人側に弁護士や司法書士が付いている場合、問題となっている修理費用の金額にもよりますが、必要に応じて弁護士への依頼をご検討ください。

(2) 裁判所に支払督促を申し立てられる

賃借人は、賃貸人から修理費用を強制的に回収するため、裁判所に対して支払督促を申し立てる可能性もあります。

【参考】支払督促|裁判所

支払督促は、裁判所が賃借人に請求に一応の理由があると認めた場合に、賃貸人に対して送達されます。

支払督促と、その次の段階の「仮執行宣言付き支払督促」には、それぞれ受領から2週間以内の異議申立て期間が設けられています。

この期間に異議申立てを行わない場合、支払督促を債務名義として強制執行が行われてしまう可能性があるので要注意です。

(3) 訴訟を提起される

支払督促に対する異議申立てを行った場合、支払督促は失効し、訴訟手続きへと移行します。

なお、訴訟よりも先に支払督促の手続きを経ることは必須ではなく、賃借人がいきなり訴訟を提起する可能性もあります。

訴訟で賃借人の主張を認める判決が確定した場合、最終的には強制執行の手続きにより、給湯器の修理費用を強制的に回収されてしまうおそれがあるので注意が必要です。

訴訟に対して万全の準備を整えるには、弁護士へのご依頼をお勧めいたしますが、実際には、問題となっている修理費用の金額との相談になるでしょう。

ご依頼いただくかどうかの判断材料として、弁護士費用のお見積もりを明確にご提供いたしますので、一度弁護士までご相談ください。

5.まとめ

賃貸物件の給湯器が故障した場合、故障の原因によって、賃貸人が修理費用を負担すべきかどうかが異なります。
また、契約内容によっても修理費用の負担者が変わってくるので、契約条項をきちんと確認しましょう。

もし賃借人から給湯器の修理費用を請求された場合は、オーナー(賃貸人)自身に修理費用の負担義務があるのかどうかを、法的な観点から検証して対応する必要があります。

修理費用が少額の場合は費用倒れとなってしまうかもしれませんが、ある程度大きな金額が問題となっているなど、弁護士に相談しながら対応する方がよい場合もありますので、一度弁護士までご相談ください。

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