農地売買契約で注意すること
農地を売却したいと考えたとしても、すぐに売却することはできません。
農地は、一般的な宅地とは異なり、農地法によって厳しい制限が課せられています。また、農地法の制限をクリアして売却する場合でも、農地のまま売却するのか農地を転用して売却するのかによって必要となる手続きが異なってきます。
今回は、農地を売却しようと考えている方に向けて、農地売買契約での注意点について解説します。
1.農地の売買の特徴
農地の売買は、一般的な宅地の売買とは異なる特徴があります。
農地の売却を行う場合には、以下の点に注意して進める必要があります。
(1) 農地法の制限
農地の売却が難しいといわれている大きな要因が、農地の売却には農地法上の制限が課されているという点です。
具体的には、農地を農地のまま購入することができるのは、以下の要件を満たす農業従事者に限られます。
- 農地の取得者が必要な農作業に常時従事していること
- 農地取得後の農地面積の合計が50ha(地域により異なる場合があります。)以上であること
- 農地のすべてを効率的に利用すること
- 周辺の農地利用に支障がないこと
そのため、「サラリーマンを辞めて農業を行いたい」「家庭菜園用に小さな畑が欲しい」といったような、新規に農業を始めるという人や投資目的の人に対しては、売却することができません。
また、農地の売却をする際には、農業委員会の許可が必要になり、許可を受けずに売買したとしても無効になってしまいます。
(2) 需要が少ない
農地を売却が難しいのは、そもそも農地の購入需要が少ないということも理由の一つです。
一般的な宅地であれば、マイホームを建てたり、投資用のマンションを建てたり、駐車場にしたりといったさまざまな用途に活用することができますが、農地の場合には、原則として農地として利用しなければなりません。そのため、農家以外の方には需要がないため買い手が見つからないのです。
仮に買い手が見つかったとしても、需要がない土地だと査定価格が上がりづらく、安い価格で売却せざるを得ないこともあります。
【農地の税金】
農地を売却しようと考えている方は、農地を所有していても利用していないか、今後農業をやめようと考えている方でしょう。上記のように農地の売却にはさまざまな制約があることから、農地を売却せずに放置しようとする方もいるかもしれません。
しかし、農地は、耕作していなかったとしても所有しているだけで固定資産税の負担が生じます。また、農地を耕作せずに長期間放置すると雑草や害虫などによって近隣農家に迷惑をかけてしまうことがあります。そのため、定期的な管理を行わなければならないという負担がありますし、状態が悪化した農地では売却しようとしてもさらに困難になります。
そのため、使用しない農地がある場合には、できる限り早めに売却するようにしましょう。
2.農地売却の手続きの流れ
農地の売却をする場合には、農地のまま売却する場合と農地を転用して売却する方法があります。
以下では、それぞれの手段での手続きの流れについて説明します。
(1) 農地のまま売却する場合
農地のまま売却する場合には、以下のような流れになります。
なお、農地のまま売却する手続きは、個人でも可能な手続きですが、トラブルが生じないようにするためにも専門家に依頼して行うことをおすすめします。
①買い手を探す
農地を売却するために、まずは農地の買い手を探さなければなりません。
農地を買うことができるのは農業従事者に限られますので、買い手を探す場合には、近隣農家に声をかけてみたり、農業委員会に相談してみたりするとよいでしょう。
不動産会社に相談して買い手を見つけてもらうという方法もありますが、通常の不動産会社では農地の仲介は扱っていませんので、農地を専門に扱っている不動産会社を見つける必要があります。
②売買契約の締結
農地の買い手が見つかったら、売主と買主との間で農地の売買契約を締結します。
農地の売買にあたっては、後述する農業委員会の許可が必要になりますので、売買契約書には、農業委員会の許可を条件とした売買契約である旨記載し、許可が得られなかった場合には、契約を解除することができる旨の条項を定めましょう。
③農地売却の許可申請を行う
売買契約の締結後、農地の所在する市区町村の農業委員会に対して、農地法3条の許可申請を行います。農業委員会では、農地の買主が農地法3条の要件を満たしているかどうかや適切に農地利用ができるかどうかを審査します。
専業農家から専業農家への農地の売却であれば比較的許可が認められやすいですが、専業農家から兼業農家への農地の売却では、将来の農地利用の継続性が低いとみなされる場合には許可されないこともあります。
なお、申請から決定がでるまでには、1か月から2か月程度かかります。
④買い手が仮登記を行う
農地の売買の場合には、農業委員会の許可が必要になるため、売買契約締結から所有権移転登記まで数か月の期間が空くことになります。そのため、農地の所有権を確実に移転するために、農業委員会から正式な許可が出る前に、所有権移転の仮登記を行うことがあります。
仮登記を行うことによって、売主が第三者に農地を売却したとしても、仮登記をした人が優先されますので、買主としては安心です。
もっとも、所有権移転の仮登記は、農地の売買にあたって必須の手続きではなく、費用も掛かりますので、仮登記をするかどうかは、売主と買主でよく話し合って決めるようにしましょう。
⑤売却許可後に本登記と精算
農業委員会から農地売却の許可が出ると、許可証が交付されますので、それによって所有権移転登記手続きを行うことができます。一般的には、残代金の支払いと引き換えに所有権移転登記手続きを行うことになります。
残代金の支払いを受けて、売主から買主に農地の所有権が移転すれば、農地の売買は完了となります。
(2) 転用して売却する
農地の地目変更を行うことを「転用」といいます。
例えば、農地の地目を「畑」から「宅地」に変更することによって、買主が農業従事者に限られなくなりますので、広く買主を探すことができるようになります。
以下では、農地を転用して売却する場合の一般的な流れについて説明します。
①不動産会社に売却の依頼をする
農地の転用をする場合には、「立地基準」や「一般基準」といった要件をクリアする必要があり、非常に複雑かつ専門的な手続きとなってきます。
農地転用に不慣れな方では、申請したとしても許可が得られない可能性がありますので、農地転用をする場合には、農地転用に詳しい不動産会社に依頼して、売却手続きをすすめるようにしましょう。
②農地転用の許可申請を行う
農地転用の手続きには、「許可」が必要なケースと「届出」で足りるケースがあります。
市街化区域内の農地の場合には農業委員会への届出によって転用することができますが、市街化調整区域内の農地の場合には都道府県知事の許可が必要になります。許可申請を行う場合には、農業委員会を経由して行うことになり、決定が出るまでには1か月から2か月程度の期間を要します。
③売買契約の締結
農地転用の手続きと並行して、農地の買主を探すようにしましょう。あらかじめ買主が見つかっていた方が転用後の地目や転用目的が明確になりますので、転用許可が得られやすいこともあります。
転用前に売買契約を締結する場合には、農地の転用を条件とした売買契約である旨記載し、転用許可が得られなかった場合には、契約を解除することができる旨の条項を定めておきましょう。
④買い手が仮登記を行う
農地のまま売却する場合と同様に必須の手続きではありませんが、トラブルを防止するために、買主が所有権移転登記の仮登記を行うことがあります。
⑤転用許可後に本登記と精算
転用許可が出た後は、買主から残代金の支払いを受けるのと引き換えに、所有権移転登記手続きを行い、農地の売買は完了となります。
3.農地売買契約書の見本
農地を売却する場合には、買主との間で農地の売買契約を締結することになりますが、その際には、以下のような農地売買契約書を作成します。
4.まとめ
農地の売買を行う際には、農地法によるさまざまな制約が課されますので、一般的な宅地の売買に比べて複雑な手続きになります。
ご自身で売買手続きを進めることが不安な場合には、農地の売買に詳しい不動産会社や専門家などに相談をしながら進めていくと良いでしょう。