権利証・登記識別情報の紛失と再発行について
土地の権利書について詳しくない人でも、権利書=大切なものだと、何となくイメージできるはずです。
ここで言う権利書とは、正確には「登記済証」または「登記識別情報」が書いてある「登記識別情報通知書」のことですが、こういった書類は普段使う機会が少ないこともあって、どこかにしまったままにしている方も多いと思います。いざ必要というときになって見つからないこともあるでしょう。
「どこをどう探しても見つからない」「どうやら紛失したようだ」「何かの間違いで捨ててしまったかもしれない」「盗まれたかも…」
こういった場合はどうすればいいのでしょうか?
登記済証や登記識別情報を見つけられない方のために、再発行は可能なのか、悪用されるおそれはあるのかなどを解説していきます。
1.権利書は再発行できる?
いきなり結論ですが、登記済証も登記識別情報も再発行はできません。
登記識別情報は、12桁の英数字を組み合わせたパスワードのようなものなので、登記済証とは、登記申請書のコピーに、法務局が「登記済」の押印をし、必要事項を記載したものです。いずれも、不動産についての所有権などの権利を証明するものであることに違いありません。
ただし、不動産の権利を証明する書類を失くしたからと言って、権利まで失うわけではありません。登記済証や登記識別情報がなくても、別の方法で不動産の権利者であることを証明できれば問題ありません。
2.権利書がない場合の登記手続き
万が一、登記済証や登記識別情報を失くしても、以下のいずれかの方法で登記手続きが可能です。
- 事前通知制度の利用
- 司法書士などの資格者代理人による本人確認情報の提供
- 公証人による本人確認情報の提供
この3つの方法の概略とメリット、デメリットをご説明します。
(1) 事前通知制度の利用
不動産の登記申請をする際には、登記識別情報や登記済証を提供しなければなりませんが、事前通知制度とは、正当な理由があってこれらを提供できないときに利用する制度です。もちろん、紛失した場合や失念した場合も利用可能です。
利用方法は、登記申請書に、「登記識別情報を提供できない理由」として紛失した旨を記して申請すると、登記官が、登記申請の意思確認をするための「事前通知書」を登記義務者の登記簿上の住所に本人限定受取郵便などで送付します。
このとき、事前通知書を受け取った登記義務者が、一定期間内に、登記の申請の意思や内容に間違いない旨を法務局に返送ないし持参すると、はじめて登記が行われます。
メリット:事前通知制度の利用は無料でできる
事前通知制度は無料で利用できます。
デメリット:事前通知制度は時間と手間がかかる
事前通知制度では、登記の申請をした後、通知が届くのを待って返送をしなければなりません。
そのため登記を申請してから登記が完了するまでの時間と、通知を返送する手間がかかってしまいます。
仮に通知の返送を怠るなどすると登記申請が却下されてしまい、不動産取引などに影響が発生します。場合によっては、取引自体が白紙になるかもしれません。
(2) 弁護士・司法書士による本人確認情報の提供
不動産の登記申請は、一般の方には、ハードルが高く、弁護士・司法書士に依頼することが多いのが実情です。
この場合に、利用できるのが、弁護士・司法書士に作成してもらった本人確認情報を提供し、登記申請する制度です。
この制度では、弁護士・司法書士との面談のほか、運転免許証などの本人を確認できる書類が必要になりますが、依頼する弁護士・司法書士の指示に従えば、問題ないでしょう。
(3) 公証人による本人確認情報の提供
公証人にも、司法書士と同様に、本人確認情報を作成することができ、この本人確認情報を添付して、不動産登記をすることができます。
本人確認情報の提供についてのメリット・デメリットには、以下のものがあります。
メリット:本人確認情報の提供は時間が節約できる
代理人や公証人が行った本人確認の情報は、登記を申請するときに登記官に提供しますので、事前通知制度のように、登記の申請から完了までに時間も手間もがかかりません。
弁護士・司法書士に依頼すれば、法務局での登記申請手続き等も代理人が行ってくれるため、ここでも手間と時間が省けます。
資格を持った専門家が本人確認をするので信頼性が高く、ビジネスの場では主にこの方法が用いられます。
デメリット:本人確認情報の提供は費用がかかる
本人確認は慎重に慎重を重ねて行われます。そのため費用が高額になってしまいます。
弁護士や司法書士に依頼した場合、5~10万円程度が費用の相場とも言われています。
公証人に本人確認をしてもらう場合は、数千円程度で利用できます。
ただし必要書類を持って公証役場に行く必要があるなどの手間が発生するため、公証人による本人確認は実務上あまり利用されていないようです。
3.権利書を盗まれていたら悪用される?
「登記済証が勝手に持ち出しされた形跡がある」「登記識別情報通知を見られたかもしれない」
こういった場合、「悪用されるのでは?」と不安になるでしょう。
特に、登記識別情報は、物理的に持ち出されなくても、他人から見られる状態にあるだけで写真を撮られたり、文字列を記憶されたりしてしまうおそれがあります。
しかし、それらが、悪用される可能性は極めて低いと言えるでしょう。
そもそも、登記申請には、印鑑証明書など多くの添付書類が必要になります。登記済証や登記識別情報さえあれば、申請できるというものではありません。
したがって、登記済証や登記識別情報を盗まれたり持ち出しされたりしたというだけでは、直ちに不動産の権利を失うことはありません。ただし、登記済証や登記識別情報、実印、印鑑証明書といったものは、しっかりと管理するに越したことはありません。
4.権利書を紛失したときにするべきこと
悪用のおそれは低いとは言え、ゼロというわけではありません。
登記に必要な書類や実印を丸ごと紛失したり盗難されたりするケースもあるでしょう。
そのような場合には、速やかに、下記の手続きをすることで不正な登記を防ぐことができます。
(1) 登記識別情報の失効申出
登記識別情報はいわばパスワードです。登記識別情報の失効申出は、これを失効させて利用できないようにします。
法務局に申し出ると登記識別情報は失効されるため、それ以降の不正な利用を防ぐことができます。
ただし申出をするには発行から3ヶ月以内の印鑑証明書のほか、ケースに応じて複数の書類が必要になります。
法務局に問い合わせて必要書類を確認し、速やかに揃えて手続きをしてください。ただし、一度失効した登記識別情報は再発行できませんので、登記申請には、事前通知か、本人確認情報の提供を利用することになります。
(2) 不正登記防止申出
不正登記防止申出制度は、虚偽の登記が行われるおそれがある場合に、対象となる不動産に登記が申請されたことを登記官が申出者に通知して不正な登記を防止する制度です。
申出は、登記名義人や登記名義人の相続人その他の一般承継人(出頭できないやむを得ない事由がある場合は代理人も可)が、法務局に出頭して行わなければなりません(不動産登記事務取扱手続準則35条1項)。
また、申出をするには、事前に、「申出をするに至った経緯及び申出が必要となった理由に対応する措置」(不動産登記事務取扱手続準則35条4項)を講じなければなりません。
具体的には、登記済証が盗まれた場合などには警察へ被害届を提出する、印鑑証明書が不正に発行された場合は役所で印鑑証明を廃止する手続きをする、勝手に自分の不動産が取引されている場合は警察に告発をすることなどです。
注意しなければならないのは、申し出をしても、虚偽の登記が無効になるわけではないことです。虚偽の登記についての通知が来たら、直ぐに処分禁止の仮処分などの対抗措置を取らなければなりません。
もっとも、法務局の登記官も、不正登記防止申出が行われた不動産について登記が申請された場合は、申請人に出頭を求めて面談し、本人確認書類を提示させるなどして本人確認を図ります。
5.権利書なしでも登記は可能!紛失や盗難の際は手続きを!
登記済証や登記識別情報は、土地の売買等による所有権の移転や、住宅ローンを組むための抵当権を設定する際に必要となります。
また、相続登記では、原則的に、登記済証や登記識別情報が不要ですが、故人の最後の住所が登記簿上の住所と違うなどの場合は、登記済証や登記識別情報が必要になります。
しかし登記済証や登記識別情報に代わる制度があるため、手続きは煩雑になるものの、登記は可能です。
紛失や盗難があっても、不正利用を防ぐ様々な制度があります。そういった制度を利用すれば大きな問題はありません。法務局に相談して、落ち着いて対処しましょう。
権利済証や登記識別情報の紛失や盗難などにかかわらず、不動産の登記には、司法書士や弁護士など専門家の知識が必要になります。
登記以外にも、泉総合法律事務所では、これまで様々な不動産の問題を扱ってきました。もし、不動産のことでお悩みであれば、是非一度泉総合法律事務所にご相談ください。