不動産に強い弁護士に無料相談【東京・神奈川・埼玉・千葉】
安心と信頼のリーガルネットワーク弁護士法人泉総合法律事務所不動産問題
不動産売買

仮差押登記のある不動産を購入する際の注意点

相場に比べてかなり安い価格で売りに出されていた不動産は、よく確認すると「仮差押」の登記がなされているケースがあります。

仮差押登記付きの不動産は、安易に購入すると不測の損害を被ってしまうおそれがあります。
仮差押登記付きの不動産の購入を検討する場合、強制執行によるリスクを許容できるかどうか、契約上の手当によりリスクを防ぐことができないかなどを、事前に慎重に確認することが大切です。

この記事では、仮差押登記のある不動産を購入する際の注意点について解説します。

1.「仮差押」について

そもそも「仮差押」とは何なのでしょうか。

(1) 仮差押えとは?

仮差押えとは、民事保全法に基づく保全処分の一種です。
仮差押えの目的は、裁判などの結論が出る前の段階で、金銭債権の弁済に充てるべき債務者財産を確保することにあります。

債務者が金銭債務の支払いを拒否している場合、最終的に債権者は「強制執行」の手続きをとって、強制的に債務者財産を換価処分し、債権の弁済に充てることができます。

しかし、強制執行の手続きをとるためには「債務名義」(民事執行法22条1項)と呼ばれる公文書が必要です。

債務名義の代表例は、確定判決・和解調書・調停調書などですが、これらは裁判や調停で結論が確定しなければ取得できません。

裁判や調停などの法的手続きは、事案によっては1年以上に及ぶケースもあるところ、その間に債務者財産が費消・流出し、結局債権者が弁済を受けられないという事態が発生するおそれがあり、債務者が債権者を害することを目的に意図的に債務者財産を費消・流出させることすらあり得ます。

そこで、裁判などの結論を待たずに、弁済に充てるための債務者財産を確保するため、債権者は裁判所に対して仮差押えの申立てができるものとされているのです。

(2) 不動産の仮差押えの効果

仮差押えをしただけでは、債権者は対象財産について強制執行の手続きをとることはできません。
前述のとおり、強制執行の手続きをとるには債務名義が必要であり、仮差押えは債務名義がない段階での暫定的な措置に過ぎないからです。

その一方で、仮差押えには「強制執行手続きにおける順位保全効」が認められています。

一般的によく耳にする「差押え」は、強制執行手続きの一環として行われる裁判所の処分です。

不動産差押えの場合、強制競売の開始決定が債務者に送達された時点で差押えの効力が生じます(民事執行法46条1項)。

差押えの後に強制競売が行われ、不動産の所有権は落札者に移転します。
差押え後に、売買等により不動産の所有権を取得した者がいたとしても、その者は落札者に所有権取得を対抗できません。

しかし逆に言えば、差押え前に売買等により不動産の所有権を取得し、その旨の登記を備えた場合は、所有権取得者は落札者に対して不動産の所有権取得を対抗できてしまいます。
執行妨害を目的に意図的にこのようなことをする債務者もいるほどです。

そこで効果を発揮するのが「仮差押え」です。

仮差押登記が事前に存在する場合、仮差押登記より後に売買等により不動産の所有権を取得した者がいたとしても、その売買等による所有権取得は、強制競売によって効力を失うと定められています(同法59条2項)。

つまり、本来であれば差押えが行われるまでの間、債務者は財産を自由に処分できるところ、仮差押えを先行させることで、前倒しで債務者財産の処分を実質的に阻止できるのです。

【最終的に強制執行が行われるおそれ】
前述のとおり、仮差押登記より後に売買等により不動産の所有権を取得したとしても、その後強制執行が行われれば、所有権取得の効力は失われてしまいます。つまり、せっかく不動産を購入したにもかかわらず、事後的に所有権を失ってしまうリスクがあるのです。
仮差押登記のある不動産の購入を検討する際には、この強制執行による所有権喪失のリスクを、いかにして適切にコントロールするかが重要になります。

2.仮差押登記のある不動産を購入する際のポイント

不動産購入希望者の視点からは、仮差押登記がある不動産は非常に厄介です。

もし仮差押登記のある不動産が目に留まった場合は、購入時にどのような対処をすべきなのかを正確に理解しておきましょう。

(1) 仮差押登記の抹消等を売買の実行前提条件とすべき

強制執行により所有権を失ってしまうリスクはあまりにも大きく、不動産のような高額な資産の取引においては、このようなリスクは許容できないと考えるのが通常でしょう。

そのため、仮差押登記のある不動産を購入するとしても、基本的には保全処分の失効・仮差押登記の抹消が確認できることを、売買の実行前提条件とすべきです。

仮差押登記が抹消されたかどうかは、最新の不動産登記簿謄本から確認できるので、決済時に売主から提出してもらうようにしてください。

(2) 売買契約条項のチェックを弁護士に依頼する

売買契約の締結に当たっては、仮差押登記の抹消等を売買実行前提条件とすることや、その他の仮差押登記に関するリスクをコントロールするための規定が適切に盛り込まれているかどうかを確認する必要があります。

そのため、仮差押登記のある不動産の売買契約書は、弁護士にリーガルチェックを依頼することを強くお勧めいたします。

3.仮差押登記があるまま不動産を決済したら

仮差押登記は決済前の抹消を求めることが原則であるのは前述のとおりですが、事情によっては、仮差押登記を抹消しないまま、不動産を決済せざるを得ないケースがあるかもしれません。

その場合には、後日のトラブルの予防・対処を適切に行うため、以下の点に留意して検討・対応を進めましょう。

(1) 第三者弁済の可能性を検討する

強制執行によって不動産の所有権を失ってしまうことは、買主にとってあまりにも大きなリスクです。

そのため、いざ強制執行の手続きがとられることが確実となった場合には、買主自ら差押債権者に対する第三者弁済(民法474条1項)を行うことも一つの選択肢になります。

第三者弁済によって、差押債権者の有する被担保債権が完済されれば、不動産の強制執行が行われることはなくなります。

また、第三者弁済を行った場合、「弁済による代位」(民法499条、501条1項)によって債務者に対する債権を取得するので、その後債務者に対して取り立てを行うことも可能です。

ただし、第三者弁済を行った場合、債務者が無資力となるリスクを負担することになります。

仮差押えを受けるような債務者は、すでに無資力であるか、将来的に無資力となる可能性がきわめて高いです。

そのため、第三者弁済を行う時点で、弁済額の回収は事実上不可能となることを覚悟しておかなければなりません。

さらに言えば、仮差押登記のある不動産を購入する場合には、このような第三者弁済による損失のリスクを十分に反映するため、売買価格のディスカウントを持ちかけるべきでしょう。

(2) 更地の場合、仮差押登記抹消まで建築に着手しない

更地上に建物を建築することを予定している場合、建築を開始してから強制執行で土地所有権を失ってしまうと、工事費用が無駄になってしまいます。

そのため、決済後間もない時期に仮差押登記を抹消できる見込みがあるケースに限られますが、仮差押登記の抹消が確認できるまでの間、建築に着手せずに待つことも考えられるでしょう。

なおその場合、いつまでに仮差押登記を抹消するのかを、売主側の義務(遵守事項)として売買契約に規定しておくべきです。

一方、仮差押登記抹消の見込みが立たない場合には、いつまで建築開始を待てばよいかわかりませんので、上記の方法は採用できません。

もしどうしても仮差押登記のある不動産を購入したい場合には、前述の第三者弁済などで対策をするほかないでしょう。

(3) 売買契約の解除などができないか確認する

仮差押登記のある不動産を売買する場合、強制執行によって買主が不動産の所有権を失ってしまった場合の処理については、事前に契約書上で手当てしておくことが必須となります。

買主の立場としては、強制執行による不動産所有権喪失時には、売買契約を解除して代金の返還を受けられる旨を定めておくのが望ましいです。

もしこのような規定が存在する場合は、強制執行によるリスクを最小限に抑えることができるでしょう。

ただし、売買契約を解除しても債務者がきちんと代金を返還してくれるか、という債務者の無資力のリスクを負担することになるのは、第三者弁済のところで説明したとおりです。

これに対して、売買価格をディスカウントする代わりに、強制執行が行われたとしても、売買契約の解除は認めない(売買代金は返還しない)とするアレンジも考えられます。

いずれにしても、契約交渉の段階で条項の内容を十分に煮詰めたうえで、売買実行後は、契約条項に基づいて正確な対応を行うことが重要です。

仮差押登記のある不動産の売買契約に関する契約交渉や、決済後の契約上の処理検討などについては、弁護士にご相談ください。

4.まとめ

仮差押登記のある不動産は、購入後に強制執行によって所有権を失ってしまうリスクがあります。

そのため、事前に仮差押登記を抹消することを、売買実行の前提条件とするのが原則です。

もしやむを得ず、仮差押登記を残したまま不動産を購入する場合には、売買契約書において、できる限り買主側のリスクを軽減できるようなアレンジを行いましょう。
そのためには、売買契約書の内容について、弁護士にリーガルチェックをご依頼いただくことをお勧めいたします。

関連するコラム
現在、不動産分野の新規受付を停止しております。
皆様には大変ご迷惑をおかけしますが、何卒ご了承のほどお願い申し上げます。