立退き交渉を相談する弁護士の選び方・費用相場など
不動産オーナーにとって、立退き交渉は非常に骨の折れる作業です。
不動産の賃貸借契約における賃借人の権利は、法律上強力に保護されているので、不動産オーナーが立退き交渉を成功させることは容易ではありません。
そのため、不動産の立退き交渉が必要な場合には、弁護士に依頼することをお勧めいたします。
この記事では、不動産オーナーが立退き交渉を依頼する弁護士の選び方・費用相場・相談時の注意点などについて解説します。
1.不動産オーナーが立退き交渉を弁護士に依頼すべき理由
不動産オーナーにとって、立退き交渉にはかなり慎重な対応が求められるので、弁護士に依頼することをお勧めいたします。
立退き交渉を弁護士に依頼すべき主な理由は、以下のとおりです。
(1) 賃借人の権利が法律上強力に保護されている
建物の賃貸借については、「借地借家法」という法律によって、賃借人の権利が強力に保護されています。
特に賃貸人による契約の更新拒絶や解約については「正当の事由」が必要とされており(借地借家法28条)、正当の事由の有無については、賃貸人にとってかなり厳格な解釈・運用がなされています。
立退きを実現するためには、借地借家法の規定に従って適法に賃貸借契約を終了させるため、弁護士のサポートを得るのが賢明でしょう。
(2) 立退料の相場を正確に把握できる
賃貸借契約の更新拒絶・解約の正当事由が認められるかどうかについては、「立退料」の支払いが重要なポイントになります。
賃貸人としては、賃借人が受ける不利益を補填するに足る立退料を支払う必要がありますが、適正な立退料の金額を求めるためには、裁判例等を踏まえた法的な検討が不可欠です。
そのため、立退料の適正な相場を知りたいならば、弁護士にアドバイスを求めるとよいでしょう。
(3) 不動産オーナーの労力が軽減される
立退き交渉では、賃借人側が強硬に拒絶の姿勢を示すことも多く、オーナーにとっては大きなストレスとなります。
弁護士に依頼をすれば、実際の立退き交渉を代行してくれるので、オーナーの精神的・時間的労力の軽減に繋がるでしょう。
(4) 訴訟などに発展した場合もスムーズに対応できる
立退き交渉が奏功しない場合、最終的には賃借人に対して、建物明渡請求訴訟を提起する必要があります。
弁護士は訴訟手続きに精通しているので、万が一訴訟が必要になった場合にも、スムーズに対応を進めることが可能です。
[参考記事] 家賃滞納で建物明渡請求訴訟を提起したい2.立退き交渉の解決までの流れ
弁護士に立退き交渉を依頼した場合、立退きが実現するまでの大まかな流れは以下のとおりです。
(1) 話し合いでの立退きを目指す
まずは、賃借人との話し合いにより、任意での立退きを目指すことになります。
賃借人が賃貸物件に対する強いこだわりを示す場合もありますが、合理的な立退料を提示して説得すれば、最終的には立退きに応じる可能性が高いでしょう。
そのためには、弁護士と十分に事前の検討を行い、根気強く説得を続けることが大切です。
(2) 賃借人に対して更新拒絶または解約申入れを行う
立退き交渉が難航している場合、訴訟手続きを見据えて準備を進める必要があります。
その前提として、まずは賃貸借契約を終了させるための手続をとらなければなりません。
借地借家法上、賃貸人が建物の賃貸借を終了させる場合には、以下の手続きをとることが必要とされています。
①期間の定めがある場合(借地借家法26条)
- 期間満了の1年前から6か月前までの間に、賃借人に対して更新拒絶の通知を行う(同条1項)
- 更新拒絶の通知後に、期間満了後も賃借人が建物の使用を継続する場合には、遅滞なく異議を述べる(同条2項)
②期間の定めがない場合(同法27条)
- 解約の6か月前に解約申入れを行う(同条1項)
- 解約申入れ後6か月を経過した後も賃借人が建物の使用を継続する場合には、遅滞なく異議を述べる(同条2項)
これらの手続きは、訴訟における証拠として用いるため、内容証明郵便によって行うことをお勧めいたします。
内容証明郵便の作成方法等については、弁護士にご確認ください。
(3) 話し合いがまとまらない場合は訴訟を提起
立退き交渉が決裂した場合には、オーナーは賃借人に対して建物明渡請求訴訟を提起し、強制的に明渡しを命ずる判決を求めることになります。
建物明渡請求訴訟では、オーナーは以下の事実を立証することが必要です。
- 建物賃貸借契約に基づく建物の引渡し
- 建物賃貸借契約の終了
- 賃借人の占有継続
特に「建物賃貸借契約の終了」については、前述の借地借家法上の手続きを経ているかどうかに加えて「正当の事由」の存否が争点となります。
更新拒絶・解約の「正当の事由」があるかどうかは、以下の点を総合的に考慮して判断されます(借地借家法28条)。
- 賃貸人および賃借人が建物の使用を必要とする事情
- 建物の賃貸借に関する従前の経過
- 建物の利用状況
- 建物の現況
- 立退料
訴訟で更新拒絶・解約の有効性が認められるためには、上記の「正当の事由」の考慮要素を踏まえたうえで、賃貸人に有利な主張構成を検討したり、証拠資料を収集したりすることが大切です。
なお、建物明渡請求訴訟において明渡しが認められる場合でも、通常は「立退料〇〇円の支払いと引き換えに建物を明け渡せ」という内容の判決が言い渡されます。これを「引換給付判決」といいます。
引換給付判決の場合、強制執行の手続きをとるに当たっては、供託などの形で事前に立退料を提供することが必要です。
(4) 明渡しの強制執行
明渡しを認める判決が確定すると、確定判決の正本を用いて、強制執行の手続きをとることが可能になります。
賃借人が任意に立ち退かない場合には、裁判所に対して強制執行の申立てを行いましょう。
強制執行の申立てが認められると、裁判所書記官によって確定判決の正本に「執行文」が付与され(民事執行法26条1項)、強制執行の手続きが開始します。
その後、執行官が立会いの下で鍵の交換や荷物の搬出を行い、交換後の鍵が賃貸人に交付されて強制執行は完了となります。
なお、強制執行にかかる費用は、後日賃借人に対して求償できるものの、いったん賃貸人にて負担しなければならない点に注意しましょう。
3.立退き交渉を依頼する弁護士を選ぶ際のポイント
立退き交渉を弁護士に依頼する場合、信頼できる弁護士を選びたいところです。
弁護士を選ぶ際には、以下のポイントに注目するとよいでしょう。
(1) 不動産法務に関する経験が豊富
不動産に関する取引やトラブルへの対応経験が豊富な弁護士であれば、立退き交渉を安心して依頼できるでしょう。
不動産法務に関する経験が豊富な弁護士は、借地借家法を中心とした関連法令や裁判例に精通していますし、賃借人の行動傾向などを踏まえて、実際の立退き交渉における方針決定についても有益なアドバイスをしてくれます。
(2) 立退料等の客観的な見通しを提示してくれる
不動産オーナーとしては、立退きを実現するためにどの程度の立退料が必要となるかが重大な関心事項でしょう。
不動産オーナーが主要な関心を持っている立退料の金額について、裁判例や交渉実務を踏まえて適切な見通しを提示してくれる弁護士は、立退き交渉を依頼するにあたって信頼に値するといえます。
(3) 連絡をまめに行ってくれるか・レスポンスが早い
弁護士としての基本的な資質に関係する部分で重要なのが、依頼者の疑問や不安を速やかに解消してくれるかどうかという点です。
たとえば、予定されていた立退き交渉が一段落したら、その結果・概要を速やかに依頼者に連絡することは、弁護士としての基本的な責務といえるでしょう。
また、依頼者が立退き交渉の見通しなどについて質問をした場合、それに対して速やかに回答を返してくれる弁護士は、依頼者にとって精神的な安定をもたらす存在になり得ます。
このように、連絡をまめに行ってくれるか・レスポンスが早いかどうかという点も、実際に立退き交渉を依頼するに当たっては注目すべきポイントでしょう。
4.費用を弁護士に依頼する際の費用相場
立退き交渉を弁護士に依頼する際には、一定の弁護士費用がかかります。
報酬体系や具体的な金額は、弁護士や案件の内容によって異なりますが、大まかな考え方の目安は以下のとおりです。
(1) 着手金・成功報酬制が一般的
立退き交渉の弁護士費用は、一般的には着手金・成功報酬の二段階制が採用されているケースが多いです。
①着手金
立退き交渉への着手時に支払う弁護士費用です。
交渉の結果にかかわらず返金されません。
②成功報酬
立退きが実現した場合にのみ支払う弁護士費用です。
なお法律事務所によっては、「タイムチャージ制」(弁護士の稼働時間に応じて弁護士費用額が決まる方式)を採用している場合もあります。
(2) 着手金・成功報酬の相場
弁護士費用をどのように定めるかは、弁護士の完全な裁量に委ねられています。
そのため、立退き交渉の着手金・成功報酬がどの程度の金額となるかは一概には言えませんが、日本弁護士連合会が定めていた旧報酬基準が一定の参考となります。
着手金 | 事件の経済的な利益の額が 300万円以下の場合:経済的利益の8% 300万円を超え3000万円以下の場合:5%+9万円 3000万円を超え3億円以下の場合:3%+69万円 3億円を超える場合:2%+369万円 |
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成功報酬 | 事件の経済的な利益の額が 300万円以下の場合:経済的利益の16% 300万円を超え3000万円以下の場合:10%+18万円 3000万円を超え3億円以下の場合:6%+138万円 3億円を超える場合:4%+738万円 |
(※上記は税抜価格です)
当事務所の弁護士費用については、以下をご覧ください。
→費用について
5.不動産オーナーの立退き交渉は弁護士へ
不動産オーナーにとって、立退き交渉は非常に骨が折れる作業なので、弁護士を味方として交渉に臨むのが安心です。
不動産オーナーが立退きに関して弁護士に相談する場合、弁護士との間で適切に意思疎通を行うことが、希望に沿った解決を実現するためのポイントになります。
そのためには、相談時に以下の点に留意するとよいでしょう。
- 初期段階から相談する
- 契約書などの関連書類をあらかじめ準備する
- 立退料などの希望額を明確に伝える
円滑な立退きの実現に向けてあらゆる観点からサポートいたしますので、建物賃貸借契約の更新拒絶・解約による立退き交渉をご検討中の不動産オーナーの方は、ぜひ一度泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。