造作買取請求権とは?借地借家法上の賃貸人の義務を解説
借地借家法上、賃借人が賃貸人の同意を得て建物に付加した「造作(ぞうさく)」については、賃借人の賃貸人に対する造作買取請求権が認められています。
賃貸人(オーナー)にとっては、造作買取請求権は建物賃貸借契約期間満了時または解約時の無視できないコストになり得るので、できる限り事前に対策を施しておきましょう。
この記事では、借地借家法上の「造作買取請求権」について、賃貸人の義務内容や対策をわかりやすく解説します。
1.造作買取請求権とは?
造作買取請求権とは、賃貸人の同意を得て建物に付加した「造作」を、賃借人(または転借人)が賃貸人に対して時価で買い取るよう請求する権利をいいます。
借地借家法33条1項、2項 造作買取請求権
第三十三条 建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。建物の賃貸人から買い受けた造作についても、同様とする。
2 前項の規定は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了する場合における建物の転借人と賃貸人との間について準用する。
民法の規定に従うと、賃借人は、賃貸借契約の終了により建物を退去する際、原状回復の一環として、建物に付加した造作を収去しなければならないのが原則です(民法545条1項)。
しかし、造作を建物から収去した場合、造作の価値が減少するケースが多いため、賃借人が造作の残存価値を適切に回収できないばかりでなく、造作・建物の社会経済的価値が毀損される結果にもなってしまいます。
また、賃借人が造作の処分に困る可能性が高い点に付け込み、賃貸人が造作を安く買い取ったうえで、新賃借人に高く売りつけるという不公平な例も出現しました。
そこで旧借家法5条では、上記の弊害を防ぐため、賃借人の賃貸人に対する造作買取請求権、すなわち造作を時価で買い取るように請求する権利を認めたのです。
旧借家法5条の規定は、現行借地借家法の33条1項に引き継がれています。
2.造作買取請求権が認められるための要件
造作買取請求権が認められるのは、以下の3つの要件をすべて満たす場合です。
①対象物が「造作」に当たること
②造作が賃貸人に同意を得て建物に付加されたこと
③期間の満了または解約の申入れにより建物賃貸借契約が終了したこと
それぞれの要件につき、詳しく見てみましょう。
(1) 「造作」に当たる物の具体例
造作とは、「建物に附加された物件で、賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便益を与えるもの」と解されています(最高裁昭和29年3月11日判決、最高裁昭和33年10月14日判決)。
借地借家法33条1項に例示されている畳・建具に加えて、上記の定義の下で「造作」に該当し得る物としては、以下の例が考えられます。
<造作に当たる物の例>
- 廊下のドアの仕切り
- 台所や応接室などのガス設備
- 配電設備
- 水洗便所、ウォシュレット
- シャワー設備
- 店舗の調理台
- レンジ
- 食器棚
- 空調設備
- ボイラー
- ダクト
- エアコン など
これに対して、建物自体に付加されるのではない以下の物については、造作買取請求権が認められないと解するのが通説的見解です。
<造作に当たらない物の例>
- 別棟の建増家屋
- 門
- 囲障
- 庭木
- 庭石 など
(2) 賃貸人の同意を得て建物に付加した造作のみが対象
造作買取請求権が認められるのは、賃借人(または転借人)が賃貸人の同意を得て建物に付加した造作のみです。
ただし、賃貸人は造作の建物への付加を常に拒否できるわけではありません。
すなわち、以下の造作については、賃貸人が造作の付加を拒否することは許されないものと解されます。
- 建物使用のために客観的に必要不可欠である造作
- 建物に付加したとしても、賃貸人にとって特に不利益になるような事情がない造作
(3) 期間の満了または解約の申入れによる終了の場合のみ発生
造作買取請求権が発生するのは、建物賃貸借契約が①期間の満了または②解約の申入れによって終了した場合に限られます。
なお合意解約は、「解約の申入れ」による終了の場合に含まれます。
これに対して、建物賃貸借契約が賃借人の債務不履行を理由に解除されたケースでは、明文上造作買取請求権が認められません。
債務不履行解除のケースでも、借地借家法33条1項の類推適用による造作買取請求権を主張する学説も存在しますが、判例はこれを否定しています(最高裁昭和31年4月6日判決、最高裁昭和33年3月13日判決など)。
賃借人の債務不履行を理由とする解除の場合、賃借人に非があるわけですから、そのような場合にまで賃借人の造作買取請求権を認めたのでは、賃貸人に不測の事態が生じるからです。
3.賃貸人が造作買い取りの義務を負わないようにする方法
賃貸人が造作を買い取る義務を負わないようにするためには、以下の方法が考えられます。
(1) 造作買取請求権は特約で排除可能
賃貸人が造作の買い取りを回避するには、造作買取請求権に関する借地借家法の規定を適用しない旨の特約を、建物賃貸借契約に規定しておくことが有効です。
造作買取請求権について定める借地借家法33条は、賃貸借契約中の特約で排除可能な「任意規定」とされています。
造作買取請求権の規定が任意規定とされているのは、強行規定(特約によっても排除できない規定)について定める同法37条の対象に含まれていないという反対解釈によります。
旧借家法では、造作買取請求権は強行規定とされていました。しかしながら、賃借人の造作買取請求権を回避するため、賃貸人は造作の付加を同意をしない、その結果、賃借人としては造作を付加できずかえって賃借人に不都合という事態が生じました。
そこで、借地借家法が制定される際に任意規定へと変更されました。
したがって、建物賃貸借契約の中で特約を規定しておくことにより、賃貸人は造作買い取りのリスクとコストを回避できるのです。
造作買取請求権に関する借地借家法の規定の適用を排除する条文例は、以下の通りです。
<造作買取請求権を排除する特約の条文例>
第●条(造作買取請求権の排除)
本契約については、借地借家法第33条は適用されず、賃借人は賃貸人に対して、造作買取請求権を行使できないものとする。
(2) 造作買取請求権が発生しないことを主張
建物賃貸借契約の中で、造作買取請求権を排除する特約を規定していなかった場合には、借地借家法33条の適用を免れることはできません。
ただし前述のとおり、造作買取請求権が発生するためには、3つの要件を満たす必要があります。
つまり、いずれかの要件を欠いている場合には、造作の買い取りをせずに済むことになります。
賃貸人としては、以下のいずれかまたは複数を組み合わせて主張し、造作の買い取りを拒否しましょう。
- 対象物は、建物に付加されていない
- 対象物は、賃借人の所有ではない
- 対象物は、建物の使用に客観的便益を与えるものではない
- 造作の付加について、賃貸人は同意していない
- 賃借人の債務不履行により建物賃貸借契約が解除されたので、造作買取請求権は発生しない
4.造作買取請求への対応は弁護士に相談を
建物オーナーの方が、賃借人から造作買取請求を受けた場合、速やかに弁護士へご相談いただくことをお勧めいたします。
造作買取請求が認められると、賃貸人は造作を時価で買い取らなければならないため、場合によっては大きな出費になってしまいます。
しかし、建物賃貸借契約中に特約が定められていることや、造作買取請求権の発生要件を満たさないことを主張すれば、造作の買い取りを回避できる可能性があります。
弁護士は、依頼者である賃貸人にとって有利な事情を活用して、賃借人に対して造作の買い取りを拒否することを毅然と主張します。
また、賃借人側が調停や訴訟などの法的措置を講じてきた場合でも、弁護士を代理人として手続きに臨めば安心です。
賃借人からの造作買取請求にお悩みの方は、ぜひお早めに弁護士までご相談ください。