入居者トラブルに関するよくある質問
建物の賃貸借において、期間満了により更新することなく契約を終了させる内容で契約することは可能ですか。
可能です。
借地借家法(以下省略)38条の定期建物賃貸借契約によれば、期間満了だけで契約が終了し賃借人は更新を要求できません。
ただし、書面を渡して説明するなどの条件を満たさなければ、契約書に期間を定めていても普通の建物賃貸借契約として契約終了には正当事由などが要求されてしまいます。
定期建物賃貸借契約が有効に成立してもいくつかの規制があり、
・期間が1年を超えるときは事前の通知がなければ契約終了を主張できない
・期間満了前に賃借人に中途解約されるおそれがある
など、いくつかの注意点があります。
なお、40条の一時使用目的の建物の賃貸借契約も同様ですが、使い勝手が悪いので軽く触れるにとどめます。
●定期建物賃貸借契約の条件
普通の建物賃貸借契約を更新せずに契約終了させるためには、
・解約の申入れ (27条1項)
または
・更新拒絶の通知(26条1項)
が必要で、賃貸人側には立退料などを踏まえた正当事由が求められます(28条)。
定期建物賃貸借契約は、正当事由や立退料などを考慮に入れず、期間満了だけで契約を終了させられることに特色があります。
もっとも、賃借人の保護のため、下記の成立条件など規制が存在します。
1 書面で契約する
2 期間を定める
3 更新がないことを定める
4 賃貸人が賃借人に更新がなく期間満了により賃貸借が終了することにつきその旨記載された書面を交付して説明する
それでは、それぞれの条件について詳しく説明しましょう。
1 書面で契約する
契約書を作成すればよく、公正証書でなくても構いません(38条1項は「公正証書『等』書面によって」と定めています)。
たとえば、下記のリンク先で国土交通省が公開している「定期賃貸住宅標準契約書」を活用してみるのも良いでしょう。https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000030.html
2 期間を定める
契約書に契約期間を定めます。
長さは自由です。1年未満の短期でも50年以上の長期でもかまいません。
29条1項は、建物賃貸借契約の期間を1年未満にすると期間の定めがないものとみなすと定めていますが、38条1項が定期建物賃貸借契約には29条1項は適用されないとしています。
なお、上限については、民法604条が賃貸借契約の上限は50年としていますが、こちらは29条2項が建物賃貸借契約すべてについて適用を排除しています。
3 更新がないことを定める
契約書に建物賃貸借契約の更新がないことを定めます。なお、期間満了のあとも同じ建物を同じ賃借人に貸し続けられるよう、再契約することは可能です。
4 更新がなく期間満了により賃貸借が終了することを記載した書面を交付して説明する
定期建物賃貸借契約で特に問題となる条件です。
・契約前に
・建物の賃貸人が
・賃借人となるものに対して
・契約の更新がなく、期間の満了により建物賃貸借契約は終了することについて
・その旨が記載された「書面を交付」して
・口頭で「説明」
しなければいけません (借地借家法38条2項)。
説明しなかったときはもちろん、説明の際に書面を交付しなかった場合も定期建物賃貸借契約と認められず、通常の賃貸借契約として扱われてしまいます (借地借家法38条3項)。
説明書面は契約書とは別のものであり、契約書は代わりとなりません (最高裁判所平成24年9月13日判決)。
書面の交付と口頭説明はセットです。書面を見せながら口頭で説明してください。
説明した証拠として、契約書や説明書面とは別に、説明した日時や場所、立会人などを記録に残しておきましょう。
説明は「賃貸人」が行う必要があります。
仲介業者の「重要事項説明(宅地建物取引業法35条1項)」は、たとえ説明書面と同じ内容の書面で同じ説明をしても、原則として賃貸人から賃借人への説明がされたことにはなりません。
例外的に、仲介業者が賃貸借契約そのものとは別に「書面を交付して説明すること」についても賃貸人の代理人となり、宅地建物取引業法に基づく説明とは別個の立場で異なる説明として行えば、仲介業者に38条2項の書面を交付しての説明を代わりにしてもらえます。
●事前通知をしなければ契約終了を主張できない
1年以上の定期建物賃貸借契約では、期間満了の1年前から6か月前までの通知期間の間に契約終了を賃借人に事前通知しなければ、契約が終了した後でも建物明渡しなどを請求できない期間が生じてしまいます。
定期建物賃貸借契約は期間満了により間違いなく終了します。
しかし、期間満了の6か月前を経過してから期間満了までの間に通知をしたときは、その通知日から6か月経たなければ契約終了を賃借人に主張できません(38条4項)。
建物明渡しなどは契約終了を前提としていますから、契約終了を主張できなければ要求できないのです(賃料など契約継続を前提とした請求は可能です)。
裁判所は、通知がさらに遅れて期間満了後になってしまったケースについても、同じように通知から6ヶ月経過後に契約終了を主張できると判断しました (東京地方裁判所平成21年3月19日判決)。
ただし、「期間満了により定期建物賃貸借契約は終了するのだから、それ以降は普通の建物賃貸借契約となり、正当事由などがない限り契約は終了しない」 という意見もあります。
いずれにせよ期間満了後も明渡しを求められない期間が生じてしまうことに変わりはありませんから、事前通知は忘れないよう早めにしておきましょう。
●賃借人からの中途解約
期間満了前に当事者の合意で契約を終わらせる中途解約特約は、定期建物賃貸借契約でもすることができます。
ところが、賃借人は、中途解約特約がなくとも、
・賃借人が建物を生活の本拠としている
・床面積が200平方メートル未満
・やむを得ない事情で建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となった
ときには、期間満了前に解約することが認められています(38条5項)。
やむを得ない事情とは、転勤や介護などです。
賃借人の解約の申し入れから1か月後に契約は終了します。
特約なくとも賃借人が中途解約できるとされているのは、賃借人を定期建物賃貸借契約に拘束され過ぎないよう保護するためです。
ですから、賃借人の解約申し入れから契約終了までの期間を1か月よりも長くできません。もちろん、やむを得ない事情が生じても中途解約できないとする特約も無効です(38条6項)。
● 定期建物賃貸借契約に切り替えられない契約
大昔に契約した建物賃貸借契約を定期建物賃貸借契約に切り替えることは、賃借人が同意していてもできないことがあります。
・締結した年月日が、平成12年3月1日よりも前
・居住用の建物であること
この2つの条件を満たしているときは、定期建物賃貸借契約への切替えが禁止されています(良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法附則3条)。
たとえ従前の契約を合意解除して定期建物賃貸借契約の有効条件を満たして再度契約しても、正当事由による解約制限がある普通建物賃貸借契約となってしまうのでご注意ください。
●一時使用目的の建物の賃貸借
ここまで定期建物賃貸借契約を説明してきましたが、「一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合(借地借家法40条)」も、期間満了により更新することなく賃貸借契約を終了できます。
しかも、通常の建物賃貸借契約にある正当事由などのみならず、これまで説明してきた事前説明や通知など定期建物賃貸借契約に伴う規制もすべて排除されます。
契約期間も契約方法も自由です。
ですが、一時使用目的の建物の賃貸借契約だと認められるには、現実のところとても大きなハードルがあります。
契約期間が短ければ認められるとは限りません。賃貸借契約の目的、経緯、建物の種類や構造など、使用状況や賃料など様々な事情から「賃貸借契約を短期間に限り、存続させる」趣旨の賃貸借契約であると「客観的に」認められなければいけないのです(最高裁判所昭和36年10月10日判決)。
家賃が高い、更新を繰り返していたなどの事情により一時使用目的ではないとした裁判例は多数あります。
契約書の内容も考慮されるものの、上記のような客観的事情から否定されてしまうことも珍しくありません。契約書に一時使用と記載した、公正証書で契約書を作成した、それどころか、裁判による和解書に「一時使用」と記載しても一時使用目的と認められなかったケースすらあるのです。
●結論
定期建物賃貸借契約は、書面を交付しての説明や事前通知など、賃貸人にとって負担となる規制が伴うものの、一時使用目的の建物の賃貸借よりも認められやすいと言えます。
定期建物賃貸借契約を利用する場合は、事前説明や契約終了前の通知などに注意しましょう。